遠い極限
(3/7)
距離にすればそれほどでも無いはずなのに、金蝉様の部屋があまりにも遠く感じてしまうのは致し方無いだろう。こんなにも予測不可能な足止めをくらうとは思ってもみなかった。
やっとの思いで金蝉様に報告書を手渡すと、綺麗な顔の眉間に深い皺が刻まれた。
「……この報告書の真偽は?」
「こちらは簡易報告書でございます。詳細は明日、観世音菩薩様にお渡しする事になっておりますので、お疑いでしたらその時にご確認ください」
「……まぁいい。用件は終わりだ」
「……失礼いたします」
地に堕ちた信用がこの身に戻る日は永遠に来ないのだから、私がとやかく言う必要は無い。その事を金蝉様もよく理解しているのだろう。
例え責任放棄だと言われようが、自信を持って作成した報告書であっても、誰かの後ろ楯が無ければ紙屑同然の扱いをするのは当然だ。責任のある立場に居る方々にとっては尚更のこと。
長い時の中で学び、それが当たり前になるのは必然だった。それなのに、突如として現れた黄金の澄んだ眼は、私をそうは見てくれないようだった。
「あーーっ、白羅!白羅だよなっ?」
「あっ、わっ……!」
部屋の外へ足を踏み出し、金蝉様の部屋のドアを閉じた所、キラキラした瞳が私の懐に飛び込んできたのだ。加減という言葉を知らないのか、無邪気に飛び付いてきた少年、悟空をよろけながらもなんとか受け止めた。
「なぁなぁ!あいつ、いつ帰って来る?次に会ったとき城を案内してくれるって約束したのに、あいつ、全然いねーの!」
「あいつ?……もしかして、ナタク様のことですか?」
「そう!かくれんぼで絶対見つからないところも教えてくれるって言ってた!」
殺伐とした中で、悟空の周りだけは明らかに違う空気がある。私にとってそれは息苦しくもあり、心地よくもあり、思わず苦笑が漏れてしまったものの、悟空の屈託の無い笑顔に我が君主の姿が重なる。
あのお方も、こんな風に笑ってくださった時の私の喜びは一入だと、悟空を見つめながら目を細めた。
しかしそれも束の間、ナタク様と悟空が近付くことで生じるであろう不穏な気配が、もうすぐそこまで迫っているのだとハッとした。
「ナタク様はお忙しい方ですので、折を見てお話ししておきますね」
李塔天様だけは決して避けねば。
改めてそう決意してから、私は金蝉様の部屋を後にした。
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