遠い極限

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それからと言うもの、ナタク様と悟空は度々あの隠れ家で過ごしたり、城内でかくれんぼをしたりと、それはそれは楽しそうに過ごしていた。

父である李塔天様にお会いしても、下界へ討伐に行かれても、以前より殺伐とした雰囲気が和らいでいるように見え、ナタク様の友人という悟空の存在に、私は少しだけ肩の荷が軽くなったように思う。



しかしそんな嬉しい事の反面、李塔天様から水面下での牽制と疑いの目は絶えず、私があの画面に向かう事が容易ではなくなっていた。



「白羅、近頃はどうだ?」

「……お陰様で息災でございます、李塔天様」

「それはそれは何よりだ。お前のお陰で我が息子も随分と羽を伸ばしていると聞くが?」

「……身に余るお言葉でございます」


今まで以上に鋭い視線が私を貫く。未だ衰えることのない威圧感と、軍を掌握しきっているという絶対的な権力を持つ李塔天様は、正攻法が通じる相手では無い。知らず知らずの内に拳を固く握り締め、直ちにこの場から立ち去る理由を必死になって探した。


「謙遜するな。現に相当懐いているではないか。ナタクも、あの得体の知れぬ生き物もな」

「そのような事、は……」

「無い、とでも申すか?」


李塔天様のその声色にはっとして顔を上げれば、含みのある眼で私をじっと見ていた。そして、一瞬にして恐ろしいほどの冷たい表情を浮かべ、目の前のテーブルへ書類を放った。


「二十キロもの枷を物ともせず、あの金鈷とやらにより抑えられし力とは、如何ほど、だ?」


無造作に置かれた書類に素早く目を走らせると、それは紛れもなく観世音菩薩様に提出した報告書の写しだった。重苦しい緊張感に支配されつつも、私は意を決して口を開く。


「それにつきましては何の命も承っておりません」


観世音菩薩様より命じられた通りの事だけをしたまでだと述べると、李塔天様は薄ら笑いを浮かべながら立ち上がり、一歩、また一歩と私へと近付いてくる。その様をしっかりと目で追う私が気に障ったようで、部屋には乾いた音が鳴り響いた。


「戯けた事を申すな。貴様が何故こうして居られるか忘れたわけではなかろう」


遅れてやって来た頬の痛みに思わず眉根を寄せてしまうも、熱を持った頬に再び掌が打ち付けられた。今度は先程よりも勢いがあったのか、私の身体はその衝撃で床へ膝を付いてしまうほどだった。


「あの得体の知れぬ生き物の金鈷が外れたとて、ナタクに害を成さぬと断言できるか?断言出来ぬと申すなら、お前の身の置場も一考せねばならんな」



あの無邪気に笑い合う二人の姿が滲んでいく。私ひとりとは何と無力なことかと、自らが置かれている立場に愕然とする。しかし、それでも私はナタク様をお守りしたい。償いや罪悪感からだけでは無い。私には、ナタク様の成長を見続けてきたという矜持もある。


「最後にもう一度聞く。お前は、あのナタクを悖るか?」

「それだけはございません」



私はまだナタク様のお側を離れるわけにはいかない。否、お側に置いていて欲しいのだ。ナタク様が私を不要とする最後まで。


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