暗雲と兆し

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「つまり、あの医者の暇潰しとやらをそのまま手中に収めるためにリークして拘束させたと?」

「そんでもってまだ利用価値があんのか口封じのためか、飼い殺し状態のナタク付きの美人女医かー」

「……そしてその飼い殺し状態の中で何かを企てている。……天蓬、お前はそう言いたいのか?」


金蝉と捲簾の言葉は、二人が天蓬自らの推測と近い所まできている事を示していた。それにより天蓬も、この憶測の域を出ない推論が事実に近しいのではないかという確信に変わりつつあった。


「天帝と上層部トップの機密であるナタクの正体についてですが、これは軍の中でも真しやかに流れている噂ではあります。ナタクが、神と妖怪の混血児であると」

「……そんなこと許されるはずがない」

「ええ。彼女もそう考えているでしょう」


はっとした表情を見せる金蝉に、この時ばかりは捲簾も軽口を控えた。それから煙草を手に取った天蓬がそれを存分に味わい尽くすまで、二人はただじっと閉口し続けた。




紫煙を吐き出した天蓬は金蝉を見据える。そう言えばこの男も悟空と出会ってから変わったなと、遠い昔に記憶を馳せながら、白羅が置かれている立場を思った。



ナタクを造り上げたのは李塔天と白羅のあの研究である事は最早疑う余地も無いだろう。たがその先は完全なる憶測に過ぎない。しかし、彼女は孤軍奮闘どころか孤立無援で李塔天と対峙しようとしているのではないのか。

ナタクとどれ程の結び付きを持っているのか判断がつかないが、彼女は何かしらの覚悟を持って行動している。それだけはあの日、久しぶりに声を掛けた時の彼女の動揺から判る様な気がした。


「彼女を擁護するつもりは更々ありませんが、気を付けるべき相手は彼女より李塔天と言った方が正しいと思うんです」


天蓬はそこまで言うと、徐に緊張感を解いた。普段のだらしなさを隠しもしない、飄々としたいつもの天蓬が二人に視線を向ける。そして、いかにもこの場に不適当な笑みを浮かべては、未だ片付け中の悟空に向かって言葉を放った。


「悟空、僕達も一緒に連れてってください」

「……は?」

「……え?」



その場に居る全員が天蓬を胡乱な目で見る。突拍子も無い事を言うのは悟空の専売特許だった筈ではなかったか。なんとも胡散臭い笑顔で煙草を咥える天蓬だが、理由も無くこんな事を思いつく男では無いと理解しつつも、あの今までの重苦しい会話は何処へやらの現状に、金蝉と捲簾からは深い溜め息が零れた。


「勝手に連れてって怒らないかな?」

「大丈夫です。実は僕も白羅とは古い友人なのですよ」


頭の切れる掴み所の無い男は、それが自然の摂理だとでも言うように悟空を諭す。純粋で単純な悟空には、この天蓬という男の裏の顔は一生判らないであろう。


「なんだ!それなら大丈夫じゃん!」

「何でだよ!」


金蝉の形ばかりの抵抗が済んだ後、結局四人は白羅の部屋へと向かう事になったのだ。

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