悠久に差すは木漏れ日か

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書類の置かれた机をトントンと指で叩きながら、李塔天は白羅をじっと見つめていた。


今現在、己の手中にある複数の道の中から、この白羅にどの道を歩ませれば多くの成果を得られるのか。李塔天は頭の中で様々な思考を張り巡らせていた。無論、その道中がどんなに険しかろうが、それは李塔天にとっては重要ではない。白羅がどうなろうともそれが多大な成果を生むのなら、それは李塔天にとって喜ばしい程の是なのだ。


「あの金蝉童子を手玉に取ったのか?」

「そのような事は一切ございません」

「……ほう。では、仲間に引き込んだのか?」

「そのような事も一切ございません」


白羅はそう答えた後、ハッと顔を青ざめさせた。それは、李塔天の言う仲間という言葉に何の疑問も持たずして答えてしまったからだ。この李塔天の指す仲間とは、李塔天の同胞と呼ばれる者では無く、李塔天に不義を働く者を指しているのだと、何故瞬時に気付かなかったのか。目の前の李塔天が勝ち誇った顔で見下してくるのは、あの部屋に李塔天とその部下が押し入りナタクを連れて行った後、何か確信を得るような物を見つけたのではないか。

緊張と焦りが背中を伝う中、白羅はこの場をどう凌ごうか逡巡するも、相手の手の内が見えないこの状況では、白羅に打つ手は見つかりそうも無かった。そんな白羅に無慈悲な李塔天の声が響く。酷く愉快そうに、まるで全てを統べている者の様に白羅に選択を迫った。高位の者が下位の者へ選択の機会を与えるのは恩情だと言わんばかりの李塔天に、白羅はいつ落とされるかも判らぬ窮地に立たされたのだ。


「ナタクを脅かす悟空を始末しろ」

「なっ……」


悍ましいというより浅ましいと感じるのは、ただただ己の為だけに邁進しているからだろう。そこまで李塔天を突き動かす動機に、白羅の恐怖は苛烈極まるのだ。言葉にすることも憚れるような事を言って退ける李塔天に、白羅はこうも呆気なく握り潰されようとしているのだ。


「お前が出来ぬと申すなら他の者を手配するのみだ。……そうだな、唯一殺生の許される闘神太子なら適任であろう」

「それだけはお許しください!」

「……お前はまだ判っておらんな。ナタクの君主が誰であるか。……よいか、よく聞け。お前に残された道は三つだ」


唇を強く噛み締めて何とか立ってはいるものの、白羅は目の前が歪む程の眩暈に襲われ、李塔天の声に押し潰されそうだった。白羅自身が、ましてや心から仕えるナタクにナタクの唯一の友人である悟空に手を下させるなど、そんな道は僅かすら無い。悟空をどうにかするなど、白羅の中には微塵も無いのだ。


「あの得体の知らぬ生き物を始末するか、私に忠誠を誓え。さもなくば、ここを去れ」


どの道も平穏とは程遠く、李塔天は白羅の背後から手を伸ばしている。いつでも突き落とせる様にと断崖絶壁に立たせ、その瞬間を見逃さぬ様に虎視眈々と狙いを定めているのだ。ナタクの笑顔を曇らせてなるものか、あの赤子達をこのまま見捨ててなるものか。白羅のそんな思いを、この李塔天は一瞬で潰しに来ているのだ。


「考える時間をやろう。昨日の今日ではナタクに差し障る。お前の選択によっては、ナタクが悲しむであろうからな。……それを、努々忘れるではないぞ」

「……かしこまり、ました……」


なんとか口にした言葉の弱々しいこと。自分はここで潰えてしまうのだろうか、潰えてしまった方がどんなに楽だろうか。白羅は自身が向かっていた出口とは真逆を歩むくらいなら、道無き道を進む方が賢明ではないかと、李塔天の部屋を出た時にはそう思うようになっていた。


暇潰しだと、なんと浅はかな事をしてしまったのだろう。後悔に苛まれない日は無い。自室のあの部屋の画面を眺めながら、白羅は堪らず涙を溢した。無惨に割られた画面と、修復不可能な程にバラバラにされたハードが、白羅の全てが終わってしまったのだと物語っているようだった。人知れず涙し、自分の愚かさを刻み付けながら、白羅は心を決めかねたままあの秘密の隠れ家に向かうのだった。

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