残るは虚無

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しかし、それ以降なまえが言葉を口にする事は無く、歪んだ顔はいつの間にか影を潜めていた。


それでも三蔵が抱き締めた腕の力を少しでも抜けば、なまえはすぐさま全身を掻き毟ろうとする。



「いい加減にしねぇと本気で置いてくぞっ!」



三蔵がそう言った時、なまえは三蔵の胸に顔を埋めたまま体を震わせ、三蔵の法衣を力一杯握り締めた。



「……足りないよ。全然足りないよ……。もっと詰って、もっと突き放せばいいのに。まっさらな眼でわたしを見ないでよ!……耐えられないよ」



その場に崩れ落ちる様に膝をつくなまえ。



「足りねぇのはこっちの方だ。回り諄いんだよてめぇは。だったらさっさと吐き出しちまえばいいだろうがっ!」



過去に負い目とか、心の傷とか関係ないよ。
そんなもんはとうに投げ捨てた。



それでも這い回る蟲は出て行かない。

抱かれる度に寄生され体中に巣くってるこの蟲が、あんたらの眩しさに疼くんだ。



「無かった事に出来ると思った……」


けど……、一緒に居る内にそれは矛盾に変わった。

何も知らない真っ直ぐな瞳で見られると、知らないから一緒に居てくれるんじゃないかと思う様になり、全部ぶちまけたくなった。


だけど……。



「全部吐き出して突き返されたら……。怖いんだよ…」



泣く程の事なんだろう。
夜も眠れなくなる程なんだろう。

なまえの中に這い回る蟲は、それ程までに巣くっているのだろう……。

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