眠れぬ夜の物語
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菩薩はふっと表情を緩め、なまえの頬に手を添える。遠い昔に触れる事すらしてやれなかった惜念。
どうか、あの日の夜が過去のままであります様に……。
「俺からの祝福だ。有り難く受け取れよ?」
そんな俺の願いを、この唇に込めて。
長い夜に閉じ込められてるお前が、いつか眠りにつくその日まで。
「じゃ……遠慮なく」
それは赦しの口付けであるかの様に、とてもとても神聖なものだった。
それから菩薩は音も立てず消え去り、辺りにはいっそう静けさが増し風も冷たく感じてきた。流石に宿に戻ろうと考えていたわたしが踵を返すと、わたしの部屋に明かりがついている。
きっと、わたしに話があるんだろう。だから今日は八戒と相部屋なんだ。そう思ったわたしは取り出した煙草を握り締めたまま部屋へ急いだ。
──コンコン。
ノックと共にドアを開けると、八戒がテーブルに肘を付いて外を眺めていた。
「八戒、まだ起きてたの?」
「なまえ、お帰りなさい」
にっこり笑う八戒は、そう言いながらお茶を煎れ、向かいの椅子に座るようすすめる。
「少し、話をしてもいいですか?」
「八戒が睡魔に負けるまでならね」
お互いに軽く笑い声を上げてから、八戒はその表情を少しだけ崩して話し始める。
「傷口……、まだ痛みますか?」
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