旅支度

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わたしが差し出したお茶を一口啜ったその人は、眉間に皺を寄せながら言った。


「……不味い。お前、今も昔も変わらねぇな」

「生憎変質者に知り合いは居ないけど?」


目の前の自称観世音菩薩は、わたしの言葉に笑いを漏らし、さっきの封筒の中に残ったお札を引っ張り出しながら話し出す。


「哀れだな。好きでもない男に媚びて稼いでもこの様だ」

「初対面のひとにそんなこと言われたくないんだけど」

「初対面じゃねぇよ。よく知ってるよ。……少なくとも俺は……な」


わたしの言葉を遮るように言葉を紡ぐこの人は、どっからどう見ても初対面だ。


「なまえ、俺が何を知っているか教えてやろうか?」


……あれ。そういえば何で名前知ってんの?


怪訝な顔でその人を見やると、この状況を楽しんでいるのを隠しもせずに、片方の口角だけを上げて話しを続ける。



「両親と兄が居たが現在は独りで借金まみれ。返済の為体を売り生計をたてている……。まぁ、今のお前はこんな感じだろ?」




好奇の目に晒されるのはもう慣れた。ただ解せないのは、何でこの人が知ってるのか。


「本当に誰?」

「だからさっき言っただろうが」

「マジで観世音菩薩とかいう神……なワケ?」



許容範囲を超えた出来事にわたしは混乱するが、菩薩は構わず問いを投げた。


「生きたくないか?」
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