Still
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長いことエレベーターに乗ってたどり着いたラウンジには既にルーファウスの姿があったが、強引な誘いにもかかわらずやって来たなまえに気付いたルーファウスは眉間に皺を寄せ呟いた。
「……よくその格好でこれたものだな」
なまえはそのあまりにも理不尽な言葉に顔を引き攣らせルーファウスをキッと睨み上げたが、いざ自分の服装に目をやれば、確かにルーファウスの言う通り場違いだったのは否めない。
日々のトレーニングで生地が薄くなった黒いパンツにくたびれた白いシャツは、それでもラザードから支給された服の中で一番まともなものだった。
「すみませんね。なにしろ借金まみれなもので」
「まぁ期待はしていなかったが、今度は君にぴったりの服を仕立ててこよう」
上品に仕立てられたスーツを纏ったルーファウスがそう言ってなまえを窓辺のテーブルへと案内すると、すぐさま高そうなワインが注がれた。
「さぁ、まずは食事を楽しもう」
ワイングラスを掲げながらなまえに乾杯を促すルーファウスの指先は滑らかで、その動きひとつをとっても育ちの良さが窺える。
なまえはそんなルーファウスを眺めながらグラスに手を伸ばして軽く掲げ、そのいかにも高そうなワインに口をつけた。
ルーファウスの説明によればそれはとても濃厚で、深紅の色合いと同様に重量のある風味が特長の高価なワインらしいが、普段ワインなど飲み慣れていないなまえにとってはただの諄いワインだった。
「どうした?口に合わなかったか?」
「いえ。飲み慣れていないもので……。すみません、よく判りません」
ひしひしと感じる生活レベルの差に顔を引き攣らせるなまえに、ルーファウスはふっと笑いを漏らす。
「君は正直だな」
そう言ったルーファウスが、いつの間にか並べられたディナーの前で手を組みなまえを見据えると、一気に食事を楽しめる雰囲気は消え去り、なまえには緊張が走った。
「正直ついでに教えてもらおうか」
「……なんですか?」
心なしかなまえの声は震え、無意識の内に顔を背けると、ルーファウスは更に視線を鋭くさせて口を開く。
「ラザードが君をあんなにも擁護するのは何故だ?」
「それは……私には解りませんよ」
「解らない……か」
ルーファウスの声色が変わり、それにハッとしたなまえが顔を上げると、目の前のルーファウスは次期副社長の顔になっていた。
「そう言えば君はこう言っていたな。ホランダーになら先日棄却された実験案を任せてもいいと」
サッとなまえの血の気が引いて行く。それはあの実験への戦慄と、目の前で笑うルーファウスに……。
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