Encounter02

蓮池の前に座していた観世音菩薩はすっと立ち上がった。

それは自分の傍らに立つ男にその場を譲る為か、はたまたただ単に飽きただけなのかは定かではない。


しかし、男が一時でもその場に立つ事を許された事には違いなかった。


「須らく看ろよ」

「ありがとうございます」


蓮池に向かいカツカツと鳴る踵の音は、己が思いのほか緊張しているという事実を伝えているようで、男はそこで初めて苦笑を浮かべる。


それから静かに目を閉じ、自分の心音が落ち着くのを待ってからゆっくりと目を開けたが、やはり鼓動はおさまらない。


男はもう一度目を閉じ、この鼓動が落ち着くまで己の行いを思い返す事にした。


観世音菩薩によりこの天界に席を置く身となった今でも、確かにある記憶を辿るようにゲートを操作したのはいつだったか。


それは決して許される事では無いし、一責任者である観世音菩薩とて滅多な事では実行しない。


しかし、あのゲートを前にした僕は、確かな思いで繋いだのだ。


もちろん観世音菩薩はその事を知ってはいるが、『これでお前も共犯だな』と言われたきり、いまだ咎められずにいるのをいい事に、僕は今こうして蓮池の前に立っているのだ。



そう、そこまで思い巡らせた男は、再びその目をゆっくりと開けた。




Encounter.
この場所からは容易いことでも、当事者からすれば至極難解で不可思議な邂逅。

不確かな何者かによる思惑と、確かな何者かによる意思で繋がった糸の解き方は、ただ思うだけ。
その己の全てで思うだけなのだ。


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