本来、忘れているはずの光景が鮮明に甦る。しっかりと彩られた風景も、周りの騒音でさえもはっきりと残り、この男の脳裏に焼き付いたままになっていた。
そんな男が動きを止める。
「どうした?看ねぇのか?」
「いえ……。ただ、今更ながらになかなか酷なものだと思いまして」
「まったく、今更、だな」
無意識になのか、普段の柔和な顔は影を潜め、伏し目がちになった男に観世音菩薩は目を細める。
かつての自分もそう思った事があったなと、僅かに憂いを含んだ懐かしさが押し寄せてくるも、この男にとって蓮池を覗く事は、そんなかつての自分よりも確かに酷な事だと解っていたからだ。
「どんな結末でも受け入れる……って、決めてたんですが、やっぱり期待してしまいますね」
無理して繕ったであろう笑顔は物悲しく、そんな男に観世音菩薩は口を開く。
「ここから見える全ては繋げられても、見ている俺達はどんなに足掻いても繋がらねぇ。……解るか?見守るしか出来ねぇって事がどういう事か」
親しい人の幸せを誰に委ねようと言うのか。最愛の人を誰に渡せようと言うのか。
「……ええ。僕は、二度失うんですね」
Encounter.
幸せを願い繋げた世界。そこに付随するのは己のエゴだけ。
解っていたのだ。
行く末は誰にも用意出来ないという事を解っていたのだ。
だから甘んじて受け入れよう。例え二度失う事になっても幸せならば。