Encounter05

観世音菩薩ともなれば、自らお茶の用意などしなくとも、椅子に座るや否やどこからともなく二郎神がお茶を持ってくるのが通例だか、今日はそれにあらず、観世音菩薩直々にお茶の用意をしていた。


「あいつのに比べりゃ大した事ねぇが、このクソ不味さは結構病み付きになるんだよ」

「病み付き……ですか」

「あぁ。ま、飲めよ」



意外と手際のよい観世音菩薩に少々面食らいながらも、男は目の前に用意されたお茶をじっと見つめ、口を付けるのを躊躇っていた。

それは一見、普通の緑茶にしか見えないのだが、観世音菩薩にこう何度もクソ不味いなどと言われれば、それが例え何の変哲もないお茶だったとしても躊躇ってしまうのは致し方ない。


しかし、男はそれだけの理由で躊躇っていたのではないのだ。


あの観世音菩薩が、昔の思い出を語る上では欠かせないのだと言いながらわざわざ用意してくれたお茶が、一体これからの話にどれほどの意味をもつものなのか。そう思えば思うほど男は躊躇ってしまうのだった。


「いつ飲んでもクソ不味いな。ほら、お前もさっさと飲め。……話してやるからよ」


そんな男をよそに、観世音菩薩はお茶を啜る。一口啜る毎に眉根を寄せながら、静かに記憶を手繰り寄せていた観世音菩薩に倣い、男もそのお茶に手を伸ばした。


「……これはこれは」

「な、ヤバ過ぎんだろ?」



Encounter.
例え傍らに存在していなくとも、確かに傍らには存在しているのだ。己の中で、己だけが知るその存在。

例え触れられずとも、それも確かな邂逅なのだ。


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