Despair

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ゆっくり近付いてくるその男を見ているだけで息苦しくなる。しかし、宝条は私の目の前に立ちはだかり眼を細めた。


愛しいサンプルと。





「ククッ、帰りたいのなら私の研究に協力するしかないぞ?」


明かりの無い部屋で宝条の眼鏡だけが怪しく光る。私を見下ろした宝条は私の前にスッと手を出す。


「これが何か解るかね?」


それは宝条の手の上で一瞬だけ反射した時、私は自分の耳に手を当ててた。


「何であんたが持ってんの?」

「ククッ、これのおかげで正確に君を転送できたよ」


転送?眉間に皺をよせた私に宝条は続ける。


「これは特殊なマテリアでね。うちのソルジャー達ではとても扱えない代物だ。通常の三倍もの魔晄に耐えうる君にしか不可能だな」


手の中がさも愛おしいとばかりに掲げている。


「……諄い。自己陶酔は話終わってからにして欲しいんだけど」

「ククッ。君は解っていない様だな。そもそも私は君を帰す気等無い」



この癪に障る言い方は、この科学者に限ったものなのか?


「……じゃあ私があんたの研究に協力するのは無意味じゃないか」

「このマテリアは転送装置としても使える」



私はその瞬間、宝条から奪い返そうと手を伸ばすが、それを予想していた宝条はサラリと身を翻す。


「返してっ!それは私のだっ!」

「ククッ、お望み通り返してやろう」


刹那。

パリンー……。


「ハーッハッハ、その欠片は私にしか修復できないぞ?」


目の前に散らばる濃紺の破片。


「いい返事を待っているよ」



閉じられたドアは、私の世界への入口だろうか……。

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