あの日の事
(4/7)
そんな事を考えていると、いつの間にか俺の隣からアンコがなまえを連れ出そうとしていた。
「カカシ、ちょっとなまえ借りるからね」
「いたっ!ちょっとアンコ!私、今足腰立たないんだから優しくしてよ」
「いーからこっち!早く噂の彼の事聞かせな」
……ガシャン。
その時、俺の手からコップが滑り落ち、顔は笑顔のまま固まった。
不意に耳にした噂の彼という言葉に戦々恐々。目の前がぐにゃりと歪んで見える。
「カカシ、大丈夫?」
何人もの人にそう声を掛けられたが、その度に力の無い返事をし、味気ない酒をひたすら飲んでいた。
頭の中では『噂の彼』のことでいっぱいで、激励会どころの話じゃない上に冗談じゃない。
今まで大事に大事に、なまえに悪い虫が付かないように目を光らせていたってのに、俺のいない間にどこの馬の骨とも知れない輩とどうなったっていうの……!
すぐにでもなまえを連れ出し、その真意を確かめたい衝動に駆られたが、今の俺にはなまえ達の話に耳を澄ますことしか出来ない。
しかし、そんな俺がホッと胸を撫で下ろすような会話が聞こえてきた。
『えーっ!なにそれ!最悪な男じゃん!』
『でしょ!だから噂の彼なんて絶対言わないでよね!』
細く長く息を吐き、ふと手元の酒を見ては、いつの間にか父親のような気になっていた自分に苦笑する。
近過ぎるのもつらいもんだ。
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