難攻不落
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「この花は男が女に贈るもんじゃ。生憎ワシには相手がいるんでな。悪いがお前さんからやってくれ」
湖の辺。そこに吹き抜ける風は花の香りを運び、この依頼人からの言葉にドキリとした。
「おじいさん、そりゃカッコよすぎだよ」
「伴侶とはそう言うもんじゃ」
ふっと緩んだ表情はどこか儚く、胸元でお守りを握り締めた依頼人は湖へと視線を向けた。
輝き出した星空を見事に映し、時折流れる雲に姿を隠す月も寸分も違わず。そんな湖を静かに見つめ、ただ目を細めている。
俺達は声を掛ける事も出来ず、花の香りに包まれながら佇んでいると、依頼人はゆっくりと振り返り笑う。
「お前さんらのお陰で今年もこの花を手向けられる。……ありがとう」
そう告げる依頼人に、言葉なんて無粋なものは必要無い。だから俺達はただ静かに頭を下げ、依頼人の背中を見送ったのだ。
そしてふと手元を見れば、夜風に靡く一輪の花。
永久の愛を誓う、誓いの花。
こんな形で彼女に渡すのは不本意ではあるけれど、あの依頼人が見せてくれた確かな絆に、ほんの少しでもご利益を賜りますようにと、俺はその花を差し出した。
「あの依頼人からのお礼だよ」
気の利いた言葉なんて全然出て来なくて、そのお陰で心の中は脱力感で一杯になったけど、傍らではその花を受け取って笑う彼女。
なんの躊躇いも恥じらいも無く受け取って笑う彼女は、無防備でいて難攻不落。
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