憶に縋る

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手元のすっかりぬるくなった缶ビールのプルタブに力を込めると、気の抜けたなんとも間の抜けた音がした。その音と一緒に、なんとも身勝手でどす黒い気持ちをふーっと少しだけ吐き出した。


「……また、なにかあったらいつでも呼んで」

「……えっ?」


唐突に話し出した俺に彼女は少し驚いた表情をする。丸い目をいつもより少しだけ丸くして、俺の横で次の言葉を静かに待っていた。


「これでも一応、俺も忍だから。言えることと言えないことがあるのは十分に解ってる。……これが大前提ってことで聞いてちょーだい?」


念を押すように確認すると、彼女は深く頷く。その眼差しは真剣で、俺から目を反らすこともしなかった。


「じゃ、それを踏まえた上で、なにかあったらいつでも呼んで」

「カ、カシ……」



切なそうにそう呟いた彼女は顔を手で覆った。身体を震わせながら必死で何かを堪え、隠している。そんな彼女の姿が指の間から見てとれると、彼女が抱えているもの、抱えてきたものの重さがどれ程のものなのか、想像することさえ躊躇われた。


「愚痴でもいい。修業の相手だっていい。なんでもいいから。俺を呼んで?……解った?」




なまえの頭をそっと撫でると、不意にその手に彼女の手が重なった。彼女は俺の手を静かに引き寄せて柔らかく包み、少し濡れた瞳を伏せながら何度も頷く。


「ありがとう……」


その言葉だけで今は十分だよ。
本当に辛い時、苦しい時には俺を呼んで欲しい。ただ誰かの温もりが欲しいだけなら、その誰かはいつだって俺であって欲しい。


そう切に願いながらなまえの部屋を後にした。

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