規格外理論への溜め息
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静まり返った病室には、ユユの声が響き、なまえはそれをしっかり受け止めようと天井を見上げた。
「相手の目的は不明。これ以上の追跡も不可能と判断した。その意味、わかるよね?」
「……うん」
尻尾を掴まえるどころか、振り出しに戻った。いや、振り出しに戻してしまったと、なまえは後悔の念に押し潰されてしまいそうになるが、この結果を招いた張本人がそうなってしまっては失笑ものだと、なまえはユユの言葉を懸命に受け止めようとした。
「今までの苦労は水の泡。……だけど、なまえが生きていてよかったよ」
「……っ、ユユ……っ」
立ち入るべきではない。
カカシはなまえとユユを見てそう思った。任務を共にする者しか判り得ないものがある。だからこそ、今ならユユが問い掛けてきた意味がカカシには判った。
初めは、初対面であるカカシの動向を探っているのだと単純に思った。不躾で的確過ぎるのには面食らったが、ユユにはそうしてまで言わなければならなかったのだろう。
任務を遂行する上で、いかなる時も冷静に見守り続けられるのか。自分を不必要だと言われてもそう在り続けられるのか。ユユはカカシに、任務の前ではいかなる場合でも手出しは無用だと釘を刺したかったのだ。危険が伴うなら尚更のこと、忍としても男としても一切手を出すこと無くあれと、カカシに強く警告したのだ。
しかし、長年の付き合いのあるなまえにここまで踏み込んで苦言を呈するのは何故だろうか。なまえは今まですっぱりと割り切っていたのではなかったのか。目の前で追い詰めていた敵がカカシの姿になったとしても、なまえが今頃にして隙を見せるとは何事なのか。なまえに振られた夜でさえ、なまえは強い意思を持っていたというのに。
カカシが口を噤みながらなまえとユユを交互に見ていると、なまえが大きく息を吐いた。何かを決心したかのような力強さを宿したなまえの瞳は、少し前のカカシだったら不安になってしまうような瞳だったが、今のカカシの心は不思議と凪いでいる。
なまえに何を言われようと、決して揺らがないという自信があったからだ。
「カカシ、回復したら、話したいことがあるの」
「うん。待ってるよ。お大事に」
カカシが去った後、ユユはカカシが先ほどまで座っていた椅子に、重い荷物を置くように座る。そして、胡乱な目をなまえに向けた。
「カカシさんはなまえと違って本当に出来た人ですね」
「……仰る通りです」
解毒薬が効いてきたのか、なまえは先ほどよりも顔色がいい。しかし、これからユユに何を言われるのかと、自業自得といえども冷や汗が止まらなかった。
「……で、なんであんなに動揺したの?いくら急に相手が姿を変えたとしても、あんなに動揺するなんてなまえらしくないよね?」
「……それは……」
「はぁーーー。任務は失敗。なまえは負傷。おまけに今までの調査は振り出し。こんな状態で黙り?」
容赦ないユユの言葉になまえは言葉を詰まらせる。判っているのに、この状況を説明しようと考えれば考える程、上手く口から言葉が出てこないのだ。そんななまえを知ってか知らずか、ユユは獣面を外しながら大きく息を吐いた。
「里に戻ってくる前に言ったよね。なまえの覚悟なんて本人を目の前にしたらどうなるか判らないって。だから、里に戻ったら中途半端なままにするのはやめろって、僕が何度も言った事、忘れてないよね?」
「……うん」
「じゃあその時に凄い剣幕で僕に突っ掛かってきた事も覚えているよね?」
「……はい」
ユユは八つ当たりのようで揶揄うような顔でなまえを見ては、恥ずかしさや後悔といった感情に顔を顰めるなまえにほとほと呆れてしまいそうになる。どうしてこうも伝わらないのか、一から十まで説明しなければ死ぬまで気付かないのかと疑いたくなるなと、ユユは大袈裟なほどの溜め息を吐いた。
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