規格外理論への溜め息
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ユユはどうしたものかと頭を悩ませる。なまえがカカシの思いを拒んだと知ってから、どう解釈すればそうなるのか理解出来なかったからだ。あれだけ思っていたというのに、今まで通りを望むなまえの意図がユユには判らなかったのだ。
「ユユ、どうしよう……」
「何が?」
「カカシとこのままで居るのは、忍としては駄目なんでしょう……?」
なまえは今にも不安で押し潰されそうな顔をしてユユに縋るような目を向ける。もちろん、ユユはなまえが何故そんな世界の終わりのような目をするのか不思議でしょうがない。薄々とどこか齟齬があるのではと感じるものの、なまえのカカシへの思いの強さを知るユユは、まさかとその考えを奥へと押しやった。
「あの男、カカシの顔をして"さよなら"って言ったの」
記憶の中のカカシは、いつもなまえの憧れや尊敬といった感情を独占している。今までそれを支えに里外で励んでいたし、里に戻ってからは記憶の中のカカシだけではなく、実際に触れ合えるカカシは大いになまえを支えてくれた。
しかし、そこでなまえは思い知ったのだ。記憶の中のカカシはこうだったという絶対的な自信がある。あの時はこうだった、あの時はこう言ったと、なまえの記憶の中のカカシにはそう言い切れる自信があるのだ。しかし、実際に本人を目の前にすると、それが自信などではなく、ただカカシに縋っているだけなのだと思い知らされた。
里を離れていた間の事を知らないなまえは、昔と今の違いに戸惑ってしまった。もちろん根底にあるものは変わらないかもしれない。しかし、里に戻り、カカシといつでも会えるようになった事で、普段のカカシを垣間見る事ができるようになった事で、なまえはカカシとの間に違う時間が流れていたのだと気付いたのだ。
知らない女性と気さくに話すカカシや、熱の籠った目で近付いてくる女性をあしらうカカシの姿も、なまえの記憶の中には無かった。なまえはそんなカカシの姿をこの里に戻ってきてから知り、知らず知らずの内にそれが心の隙となってしまったのだ。
「もしかしたら、私が知らないだけで……」
「はい、ストーーーップ!!」
ユユはなまえを遮り、再度頭を悩ませた。これはいくらなんでも拗らせ過ぎだと、悩みを通り越して頭痛がしてくる。
「何これ、僕のせいなの……?」
「ユユ……?」
痛む蟀谷を押さえながら、初恋を拗らせるというのがこんなにも恐ろしいものだったのかと、ユユは堪らず目を閉じた。普段は落ち着いているというのに、カカシという男の事になると途端に退化でもするのだろうか。しかし、そんな事を悠長に考えている場合ではない。今回の任務の事にしろ、囮任務の事にしろ、なまえがこんなにも隙を見せている状態のままでは命がいくつあっても足りない。
「なまえはカカシさんが好きなんだよね?」
「……うん」
ここまではユユでも理解できる。しかし、ユユを悩ませるのはここから先なのだ。
「じゃあカカシさんと付き合えば?」
「……え、どうして?」
ユユは自分が試されているのではないかと思わざるを得ない。どうしてこんなに簡単な答え合わせができないのか。いっそのことなまえの頭を叩いてみたいとさえ思ってしまった。
「どうしてって……。お互い思い合っていたら自然な事なんじゃないの?」
「……でも、それこそ私は隙だらけになっちゃうよ……」
「だから断ったの?」
「……うん。カカシは私を強くも弱くもするから」
「だから今までと同じ関係でいることを選んだ。今までそうしてきたように、これからもそうあろうと思ったんだね?」
「……うん」
「でも、出来なかったんだよね?」
そりゃそうだろうな、とユユは内心つぶやいた。そして、それと同時に酷く捻曲がってしまったものだと頭を抱えてしまいたくなった。白黒つけろと発破をかけたつもりが、こうも違う方へ進んでしまうのは何故なのだろうか。
ユユは自分の言葉の選び方が悪かったのだろうかと一瞬思ってはみたものの、昔からこんなにも思い合っている二人がこうなるとは、きっと誰にも予想出来なかったはずだと、ずっと遠くを見つめながら思った。
「私、カカシを一瞬疑っちゃった……」
「なまえはカカシさんを疑ったんじゃない。なまえが信じなかっただけだよ。カカシさんがなまえを思う気持ちを信じてあげられなかった。……気持ちは、与えてもらうばかりじゃ駄目だよ。なまえには返せる思いがあるのに、ちゃんと返さないのは狡いと思うよ」
「そ、そんな事言ったって、今の関係が壊れちゃったら、私、本当に無理」
「ほら、やっぱりカカシさんを信じてないんじゃないか」
「……そん、な」
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