ヘタレとぽんこつ

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ユユはなまえに向き合い視線を合わすと、隠しきれないとばかりに一際疲れを滲ませた声で言葉を吐き出した。


「……まず、いくらターゲットじゃないと明らかでも、普通にご飯に誘われたなら、いくらしつこいからと言って足を踏まないで。ただ単に話したくて近付いてきた人にも無暗に威嚇しないで」

「……はい」

「……あくまでも囮任務は継続中だよ?あんな態度じゃ接触してこようとしてる相手が警戒するの判るよね?」

「……ごめんなさい」


里に戻ってからのなまえは珠にぽんこつになる。それが里外任務が長過ぎた故だとは、ユユも理解しているつもりだった。
今まで気の知れた仲間と居る時間も与えられず、プライベートと言われる部分は無いに等しく、任務のためにしか人付き合いをして来なかったツケとでも言えるのか、どうしたものかとユユは又しても頭を悩ませていた。何を隠そうなまえは、任務に私情を持ち込むというより、任務とプライベートの線引きが極端すぎるのだ。件の任務失敗のこともあり、私情を挟むまいとしているのは判るが、ここにきて広まった噂により、その境界線というものが顕著に現れているのだ。

なまえの肩書きは下忍だが、その慧眼は今までの過程から培われ続けただけあり、暗部のユユから見てもその能力は一目置くほどである。であるが故に、噂により近付いてきたのか本来のターゲットであるか、なまえは瞬時に判別出来てしまうのだ。


「あまりにもあからさま過ぎる。ターゲットだってこっちの様子を窺っているはずだ。相手が接触してきてから任務モードになっても遅いんだよ」

「わかってる。突然こんなことになったからびっくりしただけ!」


じとーっとした目でユユはなまえを見てから、その視線をカカシへと移す。なまえをこんな体たらくにする人物と言えば、間違いなくカカシである。なまえの対応の仕方は三通り。カカシ(家族含む)、ターゲット、それ以外。この極端な三通りしかないのだ。なまえがこう育ったのは、間違いなくカカシの手によるものだと確信しているユユは、下手にカカシとなまえの関係に首を突っ込んだ己を激しく後悔していた。あやふやなままの二人が焦れったく、どうせくっ付くなら早い方がいいだろうと考えたのが安直だったのだろうか。しかし、この二人がこのままの関係に甘んじることになると誰が思っただろうかなんて聞くまでも無い。そんなものは皆無だ。周りが自然の摂理とばかりに思っていたのにも拘わらずこの有り様で、その結果がこの現状である。


「適度に恥じらい、適度に隙を見せる。ターゲットもこちらを"監視している"ことを忘れないで」


適度に他の人とも友好関係を築け。そのためにはあからさまに邪見にするな、たまには健全な食事の誘いくらいは乗れ。そう伝えたユユになまえは素直に頷いた。それを確認したユユは、もう首を突っ込みたくないというのが正直なところだが、改めてカカシに念を押す。


「いいですよね?カカシさん」

「……了解」


一瞬の間が気になるも、そこは忍同士。任務とあれば頷かざるを得ないだろうと、そんな打算的な思いを抱くが、ユユはふと思ったのだ。この二人がこのままの関係でいる内は、こうして頭を悩ませることが続いてしまうのではないかと、ふと頭に過っては身震いした。それからカカシとなまえを交互に見やり、大きな大きな溜め息をついた。


「ユユ、ごめん。もう大丈夫だから」

「うん。判ってる」


任務については大丈夫だろう。むしろこれ以上は流石にお手上げだ。単純過ぎたからこそ捩曲がった二人はどうなっていくのか。ここまで関わってきたユユは面倒な二人だと思う反面、あらぬ方に向けられていく二人の思いに歯痒さも感じてしまうのだ。幼い頃からの純真無垢な恋心は今も眩しいくらい真っ白なまま、お互いがお互いに抱いていることだろう。それが二人にとってどれほど大事なものなのかは計り知れないが、お互いを思うあまり、それを壊してしまうのではないかと、あと一歩を躊躇っているようにユユは見えたのだ。

欲や嫉妬などという一片の染みも許さない潔癖さは思い出の中だけだ。時間を共有していけばその度にいろいろな感情が生まれてくるのは当たり前だと忘れてはいないだろうか。綺麗なだけでは決して無く、まるでそれが汚く、過去を汚すものでもあるかのようにお互いそれを見せ合わない。無理をして記憶の中のままを演じていても、いつかそれが爆ぜる日が来るのだ。その時、二人の関係が壊れるのか、二人の心が壊れてしまうのか。

ユユは首を降ってその先を考えることを止める。今は任務に集中する時だと気を改め、どこか気まずそうな二人を残して部屋を出ると、近くの暗部に指示を出す。


『任務は続行。進展は無し』


我ながら間抜けな指示だというのが伝わったのか、指示を受けた暗部が獣面の下で溜め息を漏らしたのが判り苦笑する。手のかかる子ほど可愛いとよく聞くが、手のかかり過ぎるのは考えものだと、ユユは報告の為に火影室へと歩を進めた。

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