未熟者は敗れ、去る
(3/4)
それからというもの、なまえはユユの教えを守り、適度に誘いに乗ることにした。話し掛けられればどんなに下世話な話でも当たり障りのない返しをし、誠実そうな人とはご飯を食べに行く。全てが潜入任務であり囮任務だと割り切ったなまえは実に優秀だ。
しかし目当ての相手からの接触は無く、時間だけが過ぎていく現状に神経は磨り減っていく。それはなまえだけでは無く、同じように警戒を続けているカカシにも言えることだった。
「……カカシ、そろそろちょっと付き合って」
「偶然だね。俺も同じことを考えてたよ」
とある日の帰り道。なまえとカカシはあの思い出の森へと肩を並べて歩いていた。溜めに溜め込んだストレスをお互いに発散させるべく、いつかのように手合わせをするためにあの森の中へと入って行ったのだが、そこで思いもよらぬ出会いがあった。
「……あれ、なに……?」
開いた口が塞がらないとはこのことだろう。ぽかーんと口を開け、半分死んだような目をしてなまえは冷笑を浮かべている。カカシはその横でこれから起こるであろう事を想像し、片手で顔を覆っていた。
「俺達を待ってた……んだと思う」
「だよね。でも、まさかこんな手でくるとは思わなかった」
なまえがチラリと視線を送った先のユユも、獣面の下で顔を歪めているこどだろう。カカシとなまえの微笑ましい思い出の場所で、あろうことか、カカシとなまえと同じ姿をした男女が熱い口付けを交わしていたのだ。それはもう何度も、何度も。
当の本人達は魂を根こそぎ吸い取られる一歩手前。完全に魂が持っていかれ、逝ってしまう前にこのまま回れ右をして帰りたくなるのは当然だ。しかし、これは明らかに任務である。なかなか接触してこなかった目当てのターゲットであるのは明白だ。わざわざカカシとなまえの姿をして熱烈に唇を合わせ、このままここで事に及んでしまうのではないかと思わんばかりの二人を前に、本物のカカシとなまえは大きな大きな溜め息を吐いた。
「マジで何してくれちゃってんの……」
きっとユユの他にも待機している暗部が居る。それなのに、例え自分ではなくとも、自分と同じ姿をした人が醜態を晒しているとなれば、なんとも言えない羞恥心が漂ってきたが、そんな中でもカカシとなまえの姿をした名も知らぬ男女は口付けを交わし続けていた。なまえはその男女から視線を外し、隣に居るカカシに目をやる。すると、先ほどまで呆れかえっていたカカシは、ものすごい形相をしていた。
「カ、カカシ、殺気は抑えて……!」
なまえはそう言ったものの後の祭り。熱烈に抱き合っていた男女二人はゆっくりとこちらに顔を向けた。本物と偽物のご対面である。
『やっと来てくれた』
『私たち、待ちくたびれちゃったよ?』
ごくりとなまえの喉が鳴る。男は先日逃げられたあの男に間違いなく、ある程度は備えていたつもりだった。しかし、偽物の完成度の高さ、それ即ち相手の力量だ。外見はおろか、声までも同じように出せるほどの変化の術を、呼吸をするようにやってのける二人の力量に、なまえの背中には嫌な汗が一筋流れた。
.
- 82 -←|→
List|Top|Main>>
Index