未熟者は敗れ、去る
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そんななまえをよそに、カカシは歩を進める。辺りは冷気が漂い、思わず身体が震えてしまうほどに、冷たい。その発生源はもちろん、はたけカカシである。警戒しながらカカシについて行くものの、警戒は誰にするべきかとなまえが悩んでしまうほど、一触即発といった空気が肌を刺していた。
「こういうのは趣味じゃないな」
今まで聞いたことのない、底冷えするほどの声だった。まるで鋭い刃であるかのようなカカシに、偽物の二人はニヤリと口元を歪めて距離を取る。それから偽なまえが徐に適当な小石を拾い上げたところで、本物であるなまえはゾッとし、カカシは苦虫を噛み潰したような顔をした。
「汚して欲しくないんだよ」
吐き捨てられたカカシの言葉になまえの胸が詰まる。偽物が小石を拾った時、言い様の無い不快感に襲われ、カカシと同じ事を思ったからだ。壊れることのない思い出を踏み荒らされているようで疎ましく、土足でぐちゃぐちゃにされていくように感じたのだ。
偽なまえは、そんなカカシとなまえに構わず小石を高く放った。嫌でも判るその意味に、なまえは唇をぎゅっと噛み締めた。
小石が落ちた瞬間にクナイを構えて息を吐く。何度も何度もカカシと手合わせをした思い出のこの場所で、なまえは自分と寸分違わぬ姿をした相手とクナイを交えた。一度、二度、と数回クナイを弾き合ったところで、なまえは嫌な汗を拭った。
相手がなまえと全く同じ動きをしてくるのだ。どこから切り付けようと、どんな術を仕掛けようと、その都度全く同じ動きをしてくる。初動はなまえの方が早いはずなのに、瞬時に合わせてくるのだ。
クナイを持つ手が震え、米神を汗が伝う中、なまえが次の攻撃態勢に入った時に嫌でも思い知らされた。相手の動きが僅かに自分と違う。自分には到底真似出来ない印を目にし、なまえは顔を歪めた。
───勝てない。
身体を思い切り翻して致命傷を避ける。それしか成す術が無かったのだ。吹き飛ばされ、痛みに耐えながらなんとか受身をとったものの、身体の痛みよりもこれほどまでに歯が立たないということに、目の前が真っ暗になってしまいそうだった。それでもなまえはクナイを構える。
「まだ、やる?」
「当たり前でしょ」
同じ姿をして嗤う偽物なんかに、これ以上醜態を晒してなるものか。手が真っ白になるくらい力一杯クナイを握り、なんとか相手の攻撃を避け、少しでも隙を見付けようと必死に頭を働かせた。すぐ側では爆音が響き、カカシも同じように戦っている。カカシなら大丈夫だという絶対的な自信があるが、なまえの方はどうやらそうはいかないと、クナイを弾く度に押されてしまう。
「そろそろ本気でいくよ?」
偽物と本物は誰が見分けてくれるのだろうか。だいたい、物語に出てくる偽物は本物に倒されるのがセオリーだと思うんだけど、偽物に負けてしまう本物ってどうなんだろう。
差は歴然。避けることしか出来ずに居るなまえが相手の印を捉えても、それを打開する策は残されていなかった。きっとこうなることも計算されていたのだろう。痺れ薬の匂いと激しい衝撃を受け、なまえはカカシと偽カカシの間に吹き飛ばされた。
悔しくて、情けなくて、涙が出そうだった。
追い付くどころか、足手まとい以外の何者でも無い。思い上がりもいいとこだ。
なまえは痺れて動けなくなった身体で、ゆっくり近付いてくる男を見上げる。立ち込める煙の中を、背の高い銀髪の男は、困ったような顔でなまえを抱え上げた。
「なまえ、行こう」
───カカシ、ごめん。偽物に負けちゃった。
どこに向かって呟いたのか。煙が消えていくと同時にその呟きも霧散すると、その場には背の高い銀髪の男だけが静かに佇んでいた。
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