絶対的存在
(2/5)
森の中の少し拓けた場所に佇む一人の男。その表情からは感情を読み取ることはできない。先ほどまでそこに居た彼女の気配だけを、ただじっと見つめていた。
「カカシさん……で間違いないですよね?」
「……あぁ」
獣面の下で一部始終を見ていたユユは、躊躇いながら静寂を割いた。ユユ自身すらも欺き兼ねない変化の術と相手の力量に、思わず舌打ちしながらなまえを追跡せよと指示を出しても尚、この無頼派的な顛末に理解が追い付いていなかった。
「現在なまえを追跡中です。今後についてご説明します」
肌に不快感を纏わせるような湿った風が吹き、辺りには雨の匂いが立ち込めていた。次第に雨が降り始めるであろう夕暮れ時、空が厚く真っ黒な雲に覆われていく中、はたけカカシはなまえが連れ去られた場所を見つめながら頷いた。それからゆっくりとユユに視線を向け何かを言いかけたが、カカシは口布の下で口を固く結んだ。
言ったところで何も変わらない。何故なまえを助けなかったのかと口にしたところで、これが囮任務で、全ての忍がそれに従って動いていただけだという事は、なまえ自身が一番よく判っているだろうからだ。だからこそ、なまえは自らの力が及ばないと判断した時、相手を捕縛する事を諦め、捕らわれる事を選んだ。そしてこれがその結果だと判ってはいるが、釈然としない。しかし、ユユにはひとつだけはっきりした事があった。
「あいつらの狙いは何なんだ?」
「……今は憶測の域を出ませんが、おそらく」
これほど歴然とした差があったにもかかわらずなまえを生かし連れ去ったというのは、なまえ自身を必要としているからであり、そこから導き出される答えはそう多くは無い。……いや、ひとつしか無いと言い切ってもいいだろう。だが、ユユが弾き出した答えが正解だとすると、そちらの方が大問題なのだ。何故それを知っているのか。
「───第六収容所を正面突破するつもりかもしれません」
カカシの眉が寄った。あの重罪人だけを収容している、要塞と呼ぶのも生易しい第六収容所は、内からはもちろん、外からも未だ嘗て一度たりとも攻略されたことの無い難攻不落の収容所だ。それを真っ正面から突破しようと考えるとは、それが事実であるならばまさに由々しき事態である。
「暗部である君が言うのなら、その可能性はかなり高いんだろうね」
「……本当にそれが狙いなら、僕達では手に負えません。サトリさんに指示を仰ぎます」
「それは、どういう意味?」
一切の表情を消したカカシは、獣面を付けたユユを真っ直ぐ見つめる。ポツポツと雨が降り始めたが、それも意に介さず、ユユと向かい合っていた。そんなカカシを前に、ユユは獣面の下で唇を強く強く噛み締める。最も最悪な状況に陥った場合の事をカカシに伝えなくてはならない役は、自分を除いて誰にも任せる事は出来ない。彼女と任務をともにしてきた自分以外、きっと伝える事は出来ないだろう。
ユユは錆びたような味が広がっている口を開くと同時に空を仰ぎ見る。勢いを増してきた雨を獣面で受けながら、今ほど獣面の存在に感謝する事は、きっと後にも先にも今だけだ。感情をすっと隠し、淡々と告げればいい。目の前に立つカカシも忍であるからこそ、ユユは迷いを捨ててカカシに告げる。
「第六収容所には幾つもの扉があります。しかし、最終扉はサトリさんとなまえしか開けられません」
その詳しい方法は歴代火影と罪人収容所の最高責任者であるサトリと、その娘であるなまえだけが知る最高機密だ。そしてそれは、方法こそ知るものの、歴代火影すら開けられず、開けられるのはサトリとなまえだけなのである。
その都度変わる、とある法則に従い、何千通りもある特殊な形にチャクラを流し、数百通りもある複雑な印を結ぶ。それだけなら出来得る者も居るだろうが、そこにサトリかなまえ、どちらかの生体反応が必要なのだ。なまえが里を離れ、これらを身に付ける修行を繰り返し、最高責任者の娘として名実ともに周知され、囮任務を任されるようになったところで彼女は里に戻ってきたのだ。
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