豪炎寺が好き。1人の男として。

 そう認めた日から数日が経った。しかし、だからといって私と豪炎寺の関係が何かが変わるということは当然のようにひとつもなかった。今の関係が心地よくて、特別変わろうともしたくない。ただいつかはこの気持ちを伝えらればいいなぁ、なんて漠然と考えているだけで。きっと豪炎寺は今そういう類のことを考える暇もないだろうし、仮に今私が気持ちを伝えたとしても迷惑なのだ。

 だけど、この数日で変わったこともあった。

 豪炎寺と雷電で行われている、サッカー…新必殺技の特訓が巷の人で有名になっていたのだ。ただの特訓のはずなのに、そのあまりの迫力にみんな釘付けになってしまうのだとか。
 学校でも炎のストライカーっていう凄いサッカー選手が沖縄にいるらしいって、確か同じクラスメイトのサッカー部員が目を輝かせながら言ってたなぁ。炎のストライカー…それは豪炎寺のことを指す他なかった。

「爆熱…ストーム!!!……っく!」

 燃え盛る炎の魔神のようなものを出しては、そいつに力を借りながらくるくると豪炎寺は回転して全身全霊の力を込めてボールを蹴ろうとする。けれど、タイミングだったり足の使い方のコツだったりをまだイマイチ掴めていないのか、豪炎寺はバランスを崩してしまった。失敗だ。もう何度目の失敗か。

「まだだ…もう1回だ!」

 けれど、豪炎寺は1度も諦めることはなかった。次こそ、次こそはと、闘志で目を燃やす。それが私にとって凄く眩しく見えた。

 何より、格好良かった。


☆ ☆ ☆



 お昼ご飯を食べてから始めた今日の新必殺技の特訓も、既に3時間が経っている。豪炎寺たちが使用しているグラウンドの隅っこでチビたちもサッカーをして、疲れてからは豪炎寺の特訓をみんなで見学していた。けれど、さすがにチビの中でも幼い双子とチビ子がどうやら眠くなってきたようだ。3時間もぶっ通しで外にいたら、そりゃ疲れるよね。一旦お家に帰って寝かせるか、と下ろしていた重い腰を上げる。半分夢の世界へ行ってるチビ子を抱えながら。

「この子ら連れて一旦家帰るけど、あんたたちはどうする?」

 チビの年上組は、未だに豪炎寺たちの特訓を熱心に眺めていた。

「うおぉ、あんちゃんもすげぇけど!」
「しゅーや兄ちゃん、かっけぇ…!」

 どうやら私の声は一切届かないほどに没頭しているようなので、強制的に頭をぽこりと軽く叩いて我に戻させた。早く家に帰らないと、双子とチビ子が限界にきている。

「この子ら家で寝かせてくるから、まだお兄ちゃんたちの練習見ていたいならこのまま良い子で見てるんだよ」
「はーーい!」
「わぁ、おっしい!」

 ちゃんと聞いてるのか、聞いていないのやら。思わず小さくため息を吐いて苦笑が浮かべた。こうなりゃ、さっさと寝かしに行かせて私が戻ってくればいい。

 私も豪炎寺の特訓、見たいし。







 双子とチビ子を家で無事寝かしつけてから、急いでグラウンドへと戻った。別に急がなくても、豪炎寺がどこか行ったりなんかしないのに。

「姉ちゃん、きいてよ!さっきしゅーや兄ちゃん凄かったんだ!」
「あといっぽだったんだよーー!」

 興奮せざるを得ないといった2人を落ち着かせながら、私は再度腰を下ろした。2人が言うにはほとんど新必殺技は完成に近いのだけれど、最後の1歩が届かないのだという。

「爆熱ストーム!!…っ」

 チビたちの説明を聞いた後すぐ、豪炎寺は再び新必殺技の構えをした。腰のひねりを上手く利用して回転する。そして、右足でタイミングを整えては利き足の左足に全ての力を込めて、ゴールへ向かって蹴り落とす。しかし、シュートの軌道はゴールの枠内に収まらず、ゴールの上を通過した。タイミングも打ち方も、完璧のはずなのに。

 私はその一連の流れにどこか違和感を覚える瞬間があった。

 それからも豪炎寺は何度も何度もチャレンジするけど、決まってボールはゴールの上を通過する。なかなか原因が分からない豪炎寺は、「くそっ」と悔しそうに顔を歪ませた。それと同時に私は、もしかして、と一つの違和感を閃きに変えた。


「タイミングもモーションも完璧のはずだ。一体何が足りねぇってんだ…」
「シュートの体制に入るまでなのか、入ってからなのかが分からない」

 休憩しているときも、雷電と豪炎寺は完成しない新必殺技の問題点に頭を悩ませていた。サッカーなんて少しかじるくらいで、技術とか必殺技とか何も知らない私が出る幕ではないのかもしれないけど。もしかすると、何かは変わるかもしれない。

 もしかすると、豪炎寺の役に立てるかもしれない。

「ねえ、豪炎寺」
「?なんだ」
「爆熱ストームが完成しない理由……もしかしたら、なんだけど」
「なっ、光!お前分かんのか!」
「自信はないけど。でも、ちょっと違和感があったっていうか…」
「波野、」

 豪炎寺の真剣な双眼が、私のそれをしっかりと捕らえた。初めて出会った日もこうやってお互い目を合わせていたことがあるのに、なぜだろう今は平常心が保てない。思わず視線を逸らした。

「教えてくれるか?」

 彼のその声で、もう一度目を合わせた。そしてゆっくりと頷いた。

「決まってゴールの上を通過するのは、蹴り落とす力が足りないからだと思うの」
「…蹴り落とす力」
「シュート体制に入るときに右足で豪炎寺はタイミングを取ってるよね。ただ、そのときに無意識に右足に力が入ってしまってる」
「…」
「だから、右足の力を抜けば更にシュートを打つ左足の威力が増す。そうすれば、蹴り落とす力も強くなって…ゴールは枠内に入ると思うの」
「…なるほど」

 サッカーに全く詳しくない私の意見なんか、普通の人だったら無視しても良いくらいなのに。豪炎寺は「確かに、右足のことは気にかけていなかった」と意見を取り込んでくれた。どうか、少しでも役に立てたなら良いけれど。


 休憩後、さっそく特訓が再開された。
 
「…いくぞ!」

 両手を交わし、最初の構えをする。腰のひねりを上手く利用し、回転する。そして、右足でタイミングを整えてから力を脱した。右足に篭っていた力をも含め全ての力を利き足の左足に込めて、ゴールへ向かって蹴り落とした。

「爆熱、ストーム!!」

 燃え盛る炎を纏ったシュートは、強烈な威力のままゴールへ襲いかかる。そしてボールはゴールの上を通過することなく、枠内へと凄まじい音をたてながら入った。チリチリ、とボールとゴールの少し焦げた音と匂いがする。


 あれ、もしかして。

「うわぁあぁ!!ばくねつストームがかんせいしたぁあ!!」
「しゅーや兄ちゃんかっけえぇ!!」

 完成…した?


「うおんどりゃあ!やったじゃないか、豪炎寺!!」
「あぁ…!」
「さすがだぜ、お前ってやつは!」
「ありがとう、土方。これもお前が懲りずに特訓に付き合ってくれたお陰だ」
「なんのなんの!それより、礼する奴がもう1人いるだろ!」

 未だにぽかん、と口をあんぐり開けたままの私と嬉しそうに表情を緩ませている豪炎寺と目が合ったかと思えば、そのままこちらに歩み寄ってきた。

「波野」
「は、はい!」
「ありがとう。…爆熱ストームを完成させれたのは、お前のお陰だ」
「い、いやいやいや!私特に何にもしてないよ。ちょっと出しゃばっただけで…それより、あんた飲み込みが早すぎるんじゃない?ちょっと私が言っただけですぐ改善して、しかも一発で完成させちゃうんだもん、豪炎寺はやっぱ伊達に日本一のストライカーじゃないよね、うんうんうん」

「……光、」
「なに?………ん?」

 え、えっと?あれ?んーと?今、なんだか私の名前のような発音が、豪炎寺の口から出てきたのは気のせいだろうか。

「ありがとう、光」

 泥のついた顔は、流れる汗は、ボロボロの体は、全て努力の証。ねえ、豪炎寺。私も本当に、新しい必殺技が完成して嬉しいんだ。その言葉が聞けて、胸がじんわりとも温かくなるしキュウと締め付けられたりもするんだ。

 ――あんたの役に立てて、嬉しいんだ。



「よーーし、ほら修也!ハイタッチ!」


 私がそう言うと豪炎寺……いや、修也は驚いたように目を見開いた。何よ、そっちから呼んできたんじゃない。辞めてくれって言われても呼んでやるんだから。
 なんて思っていたけど、また嬉しそうに笑う修也を見て私もつられて笑う。そして、どちらからともなく片手を振り上げては勢いよく掌を重ねた。


 バチン!高らかにそれは、茜色に染まったグラウンドに確かに響いた。


//180125


   


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