それは、学校が終わってから帰宅途中での出来事だった。
「最近、宇宙人のニュースやってないな…」
真っ青な空を見上げながら海沿いを歩いては、一人でそうぼやいた。思えば、大阪のなにわランドにてイプシロンという宇宙人チームと雷門イレブンが引き分けたという試合から宇宙人関連の最新情報は全くといって出てこなかった。
つまり、宇宙人の近況も、…雷門イレブンの近況さえも分からないってことだ。
それでも、なんとなくだけど。なんとなく、これから何かが起きるような予感がするんだよなぁ、と振り払いたくなるような気持ちが芽生える。けれど、今までの宇宙人をみても東京だけでなく奈良、北海道、大阪…って、関東地方を中心にしている訳でもなく転々としているようだし沖縄に来るのだって、本当に時間の問題かもしれない。
思わずため息をついた、そのときだった。
「だれかぁー!だれか、たすけて!」
その声を聞いて、ハっと息を飲んだ。そしてすぐさま声のする方へ足を運んだ。
すると見えた光景は、資材置き場にある木材に挟まれている小さな子犬とその近くで必死に助けを呼んでいる一人の男の子だった。
☆ ☆ ☆
その光景を見た瞬間に、これは大変だと頭の中で警報がいっぱい鳴り響き思い切り走って少年の元へと駆け寄る。少年は涙目を浮かべながら、子犬を指差していた。
子犬は木材に挟まれていて、そこから抜け出そうとしているけどうまく脱出できないようだ。必死にぐいぐいと外へ出ようとしてるけど、体は中に押し込まれるばかり。
「お願い、このイヌをたすけて!」
縋るように私の服を掴みながらそう訴えてきた少年の頭を私は優しく撫でた。
「お姉ちゃんに任せなさい」
「…ねえ、助かる?この子」
「大丈夫だよ。だから泣かないの」
「……うん」
私がそう宥めると、少年は渋々頷いて溢れた涙を掬った。恐らくチビ双子と同い年くらいだろう。扱いは手慣れたものだ。
かなり大きく高さもある木材で、私一人ではどうにも移動させることは出来ないだろうし、ここは犬を引っ張って救出するしかない。慎重に木材を様子見し、犬を最低限に傷つけないようにしながら隙間を作っていく。
「この子犬ちゃんは僕の子なの?」
「ううん。たまたま挟まってるのを見つけて…」
「そっか。それで助け呼んでたんだ。すごい
、優しい子なんだね」
「そんなことないよ…」
「そうだ。僕、名前はなんていうの?」
木材を微調整しながらそう尋ねたときだけ、少年に視線を向けた。すると少年は満面の笑みで応える。
「まつかぜてんま!」
それはそれはもう、チビ特有のキラッキラの笑顔で。眩しいなぁ、なんて思っているも少年――天馬くんは今目の前でおかれている子犬の状況を思い出してすぐにまた不安そうな顔に戻った。ああ、せっかくの可愛い顔が勿体ないのに。そんな顔しないで、と言うとちょっとだけ表情もほぐれる。
「天馬くんかー、良い名前だね」
「…えへへ。おねえさんのなまえは?」
「私?ああ、私は……」
そのときだった。
子犬がようやく木材の間から救出できたと思った束の間。ガコン、と頭上から大きな音が耳に入り込んで、反射的に見上げる。バランスを失った木材がこちらに倒れてくる。それはまるでスローモーションのように、ゆっくりに見えた。ただひたすら無我夢中で、救出できた子犬と天馬くんを自分で腕の中にしまって、なるべく頭を守るように覆いかぶさる。とっくにもうこの状況を打破することなど諦めていて、私は目をぎゅっと瞑ってその痛みを待ち構えることしか出来なかった。
刹那、バシュンッという音が響いたかと思えば 近くで轟音の嵐。目を思い切り瞑って数秒は経ったが、全くの痛みでさえ降りかかって来ない。恐る恐ると目を開けると、木材は私たちを避けるようにして倒れていた。その傍らには一つのサッカーボール。
「あ…」
いつの間にか私の腕の中からすり抜けていた天馬くんが、そのサッカーボールを抱えながらある方向一点を見つめていた。視線を追うと、少し離れた海辺沿いの道に立っている男――修也だった。
「あー、もう」
今までの一連の流れ、どうやって私が助かったのか。全て合点がいって思わず笑ってしまった。ほらね、こういうところだよ。サラリとかっこつけるだけじゃなくて、助けてくれるんだからさ。
やっぱりアンタは私のヒーローだ。
「天馬!!天馬、大丈夫!?」
すると、一人の女性が大慌てでこちらへ向かってきた。たぶん、というか百パーセント天馬くんのお母さんだ。静かな場所に似合わぬ大きな騒音を聞いて、急いで駆けつけたのだろう。
「良かった…怪我はないのね。天馬を守ってくださってありがとうございます、あなたも大丈夫ですか?」
「はい!私のことはお気になさらず。天馬くんが無事で良かったです」
私と天馬くんのお母さんが話している間も、天馬くんはただひたすらボーっと修也の姿を眺めていた。修也は何かの言葉をかけることもなく、ただ一度だけ笑みを浮かべてから立ち去ってしまった。ヒーローは黙って立ち去る、ってか。
そして、修也が立ち去ってからも尚サッカーボールを大切そうに抱えては眺める天馬くんに笑みが浮かべる。サッカーの存在は、もう知っているのかな。興味を持ってくれたりしたら面白いのにね。
「それじゃあ、私行きますね」
「はい。本当にありがとうございました。ほら、天馬も」
「あ、えっと。おねえさん、ありがとう」
たどたどしく口にされたその感謝の言葉に心が温かくなるのを感じながら私もその場を去った。早く雷電の家へ直行しよう。修也にお礼を言わなくちゃ。
「あっ!」
「どうしたの、天馬?」
「…おねえさんのなまえ、きけなかった…」
「それは…残念ね」
「いつかまたあえるかな?」
「信じていれば、きっとまた会えるわよ」
「……うん!!」
私が去った後、そんな会話がされているなんて知る由もなく。
・
・
・
雷電の家に到着すると、修也は家の前でリフティングをしていた。軽快そうにするものだから、もはや簡単なものに見えて私にでも出来るんじゃないかと錯覚してしまうくらい。実際リフティングなんて3回も続かないのだけど。
「修也」
「ん…? 光か」
「ありがとうね、助けてくれて」
名前を呼んでリフティングを止めさせて、彼が私の顔に視線を向けたときに礼を告げた。すると、何も言わずに再び足で器用にボールを蹴り上げてリフティングを再開させた。
「何のことだ?」
口ではそう言っているけど、口角が上がっていることに私が気付いてないとでも思っているのだろうか。けれど、そんなところも好きだな、なんて思ってしまうあたり私はとんでもないくらい修也に依存してしまっているのだなとむず痒い感覚に陥った。
//180126
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