ドゴォーン!バシャーン!ビュギューン!
 現実では信じられない効果音を響かせながら、私の目の前で行われているのは紛れもなくサッカーである。

 私やチビたちがやるような、ボールを追いかけてキャッキャと楽しむサッカーではなく、必殺技をお互いに出し合いぶつかり合う、本気と書いてマジと読むサッカーである。目が飛んでいきそうだ。

 豪炎寺はここ最近、新しい必殺技の練習に励んでいる。


☆ ☆ ☆



 豪炎寺が匿われることになってから、私が土方家の訪れる頻度は極めて上がり、毎日チビたちと遊ぶようになった。

 特にここ最近では、あの豪炎寺が雷電に「新しい必殺技の特訓がしたい」と直々に頼み、その熱意に雷電も応えてやりたいと男前を発揮しているため、チビたちの世話は基本私が見ることになった。2人の練習量は半端なくて、一度昼からはじめては夜ご飯も食べずにぶっ通しで練習ということがあったときはさすがに驚いた。それでも、あまりにも2人とも熱中していて真剣だから。なんだか中断させるのも気が引けるのだ。

 そのため、チビたちは私のお家でご飯を食べさせて、そのご飯を2人分だけ土方家に持っていき、練習を終えた2人に食べさせる――というのが、ここ最近の習慣だ。ちなみに、私のお母さんには豪炎寺のことを一応説明しているしチビたちの世話についても了承してくれていた。


(…豪炎寺、ニュースで雷門のこと見たのかな)

 日々豪炎寺の熱気は上がっていくばかりだった。チームを離れていても、仲間たちに差をつけたくない。追いつきたい。いや、それよりも上にいたい。豪炎寺の目からひしひしとその想いが伝わってくるのだ。
 夕香ちゃんの安全が確保できれば、豪炎寺はいつでもチームに戻れるのだ。いつ戻ってもいいように、いつ戻っても仲間とプレイ出来るように…。いつその時が来るかわからないから、豪炎寺は毎日頑張っている。その時っていうのは、明日かもしれないし明後日かもしれない――あれ?

(あれ、そっか)

 豪炎寺がいるべき場所は、本来はここじゃないんだ。明日にも、明後日にも、豪炎寺は帰ってしまうかもしれないのだ。そんな当たり前のことをどうして今まで忘れていたのだろう。どうしてこんなにも、その日が来てほしくないの思ってしまうのだろう。いや、もはやその理由は分かっていた、知っていた、……気付いていた。

 豪炎寺がチームに戻れる日なんて、めでたい日じゃないか。豪炎寺は今もずっとそれを望んでいて――だから、今も特訓を頑張っていて。

 喜ばしいはずなのに。

 私は、その日を迎えたら、笑っていられるかがわからない。どうしてだろう。あんなに、私だって望んでいたはずだったのに。

「……って。何考えてるんだろ、私」

 ――豪炎寺がここにいることが当たり前になっていて、感覚が狂ってるんだ。
 


「……姉ちゃん?」
「ん?どうしたの」

 1番下の女の子のチビが、ゆっくりとこちらへ歩み寄って来ていた。

「あれ、花火は?」
「んーん、姉ちゃんとお話したいの」

 他のチビ4人には、豪炎寺たちが特訓しているサッカーグラウンドの近くで手持ち花火をさせていた。キャハハ、と4人の高らかな笑い声が響くのを横目で見ながら、私はチビ子においで、と手招きする。

 グラウンドで練習している豪炎寺と雷電、花火を楽しむチビたち、どちらも眺められる場所に腰掛けていた私の膝の上に、チビ子をのせる。それだけで、きゃっきゃと嬉しそうに笑った。かわいい。

「お話ってなーに?」

 優しくたずねると、チビ子はこちらを振り向いて、少し私の顔色を伺いながら口を開いた。

「やっぱり、姉ちゃん」
「うん?」
「しゅーや兄ちゃんのこと、すき?」

 またその話か、と少し呆れながらも、前と同じ過ちは繰り返したくないので冷静に対応しようと試みた。もう泣かすのは勘弁だ。雷電もすぐそこにいるし。

「それは…1人の男の子として、ってことだよね?」
「うん」
「どうしてそう思ったの?」
「だって、姉ちゃん、可愛いもん……」
「……は?」


 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。え、なんていったこの子? 私が、可愛い?ありがとう。でも、意図が掴めない。小さな子供はやっぱりこわい。
 首を後ろに捻っているのがしんどくなったのか、チビ子は体制を変えて私の方に向かい合うように座った。


「しゅーや兄ちゃんと話してるときね、姉ちゃん、可愛いの」
「……」
「おともだちの、ウミちゃん、しってる?」
「うん、知ってるよ」
「ウミちゃんね、カイくんにね、恋してるの」
「……うん」
「そのウミちゃんが、カイくんと話してるときとね、姉ちゃんが、しゅーや兄ちゃんに話してるときとね、おなじ顔なんだよ」


 私が、豪炎寺と話しているとき。一体、どんな顔をしているんだろう。

 ただ、一つだけ分かるのは、
 彼と話しているときは、心地が良くて、楽しいってこと。


「姉ちゃん、しゅーや兄ちゃんに恋してるんだよ」


 どうしたことか、またチビ子の目には涙が浮かんでいて、つい苦笑が浮かんだ。


「女の子だから、分かるの」
「……そっか」
「あたし、いろんなともだちと、好きな人の話してるから、分かるの」
「……」


 チビのくせに大人ぶってるなぁ、とか。それならあんたは誰のことが好きなのかな? とか。笑いながら聞きたかった、聞こうとした。――だけど聞けなかった。情けない。どうして3歳のチビに、こんなに核心をつかられるんだろう。チビの言ってることは反論するすべもないくらい的を射て、私は完璧に図星だった。


 なんだか、もう。
 誤魔化すのは良いんじゃないって、心の中のもう1人の自分が笑ったような気がした。




「姉ちゃん、しゅーや兄ちゃんのこと、好き?」
「…好きだよ」
「姉ちゃん、しゅーや兄ちゃんに、恋してる?」
「……」
「恋、してる?」
「……うん」

 チビ子の目がぱあっと見開いて、嬉しそうに笑う。つられて私も、思わず笑ってしまった。


「私は豪炎寺に、恋してるよ」
「ふふ、ほらね、やっぱり!」


 口に出せばその気持ちは、まるでリボンがするりと解けるみたいに落ち着いた。わかっていた、この気持ちには。きっと、彼の力になりたいと思ったあの日から。でも気付かない振りをしていた。

 姉ちゃんとしゅーや兄ちゃん、とってもお似合いだもん!なんて楽しそうに話すチビ子に、内心やれやれと息を吐いた。一本やられた。まさかチビ子の前で認めさせられるなんて……いや、

 チビ子だからか、なんて。


「わかってる?これは、あんたと私だけのひみつだよ」
「うん!おんなのこのひみつ!」
「そう、良い子だね」

 数メートル先にて雷電との特訓に熱中し、こちらのことなんぞ全く目もくれない1人の男をチビ子と2人で見て、どちらからともなく微笑みあった。


// 170521


   


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