修也が土方家に匿われることになったあの日から、月日は着々と進んでいた。私の感覚ではまだほんの1、2週間にしか感じられないのに。どうやらカレンダーを確認をすれば、あの日から月の数は1つ足されていた。時間が経つのって本当に早いものだ。そう、時間が経つのは――。
学校が終わって下校途中。今日も暑いなぁ、と思わず猫背になりながらぼうっと歩いていたときだった。
「うわっ」
「きゃ」
ドンッと前から衝撃があって、気が付けば見事に尻餅をついていた。……痛い。でも、それより今の状況に自分が全く追いついていなくて、私は目をパチクリさせた。
「うっわぁ、ごめんなさい!」
すると、頭上から大きな声で謝られて顔を上げれば、私はビビっと体中に電気が走る。ぶつかったときはまた違う衝撃が襲った。思わず震えた。
いつかはそのときが来るってことも分かっていた。心のどこかで覚悟だってしていた。そう、覚悟なんかとっくの前からしていたはずだった。なのに、いざそのときが来た瞬間思わず体は石のように固まって、口元が弱々しく震える。冷や汗も出て、力の入らない手を無理やり丸めた。
修也を匿うことになってから真剣に、食い入るように見るニュースがあった。だから、顔もなんとなく見覚えがあった。いや、見覚えがあるなんて曖昧なものではなくてそれは確信めいたもの。
「大丈夫か!?怪我、ないか?」
「だ、大丈夫。ごめんなさい、私もぼうっとしてたから」
「いや、俺こそちゃんと前見てなくてごめんな」
彼が私の手を引き上げてくれたことによって、私は立ち上がることが出来た。それでも尚、足の震えがほんの少し止まらない。
「それじゃあ、」
「あっちょっと!待ってくれ!」
確認するが前にいち早く。早くみんなに伝えなきゃ。雷電に。そして、修也に。混乱した頭にはそう司令するしかなくて、私は急いで雷電の家へと向かったのだった。
間違いない、あの人は雷門中の。
雷門サッカー部の、キャプテンだ。
☆ ☆ ☆
「――それは、本当か」
「ほんと。ほんとだよ」
自分の家に帰るよりまず雷電の家に来ては、慌ただしく中へ入り込んだ。そして雷電と修也に、つい先ほど雷門サッカー部のキャプテン――円堂守と会ったという旨を告げれば、二人も私と同様すごく驚いていた。
中でも修也はただ、眉間に皺を寄せるばかりだった。複雑、だろう。だって今雷門が沖縄にいるからといって、今すぐ仲間の前に戻ることだって出来ないのだから。
「今、鬼瓦刑事に確認を取ってみたが…どうやら、沖縄に炎のストライカーがいるっていう噂を聞きつけて雷門イレブンがやって来たらしい」
「…やっぱり」
「あと、一つ忠告もあった。雷門イレブンが炎のストライカー…お前がここにいるかもしれないと沖縄に来たことで、エイリア学園の連中もどうやらついてきたようだ」
「そ、そんな」
「まだ妹さんの無事も確保出来てねぇみたいだ。あいつらがいつ豪炎寺の存在に気付くかは分からねえ」
「…」
「それに、奴らの行動も変わって来てるようだ。前はエイリア学園に入るのを豪炎寺に選択させていたが、何せあれから時間が経ちすぎてる。妹を人質にしながら、無理やり仲間にさせてくるに違いない。豪炎寺を見つけ次第、すぐにな」
つまり、雷門イレブンには必要最低限――いや一切関わることは出来ないということだ。万一関わって、それを奴らに見られたら。妹の夕香ちゃんの身が危ないかもしれない。だから、雷門イレブンにも修也の存在をバレないようにしなくてはならない。彼らは今、修也を探し求めて沖縄までやって来ているほどだ。もし修也を見つければ、理由を話せど彼を手離さないだろう。それに、宇宙人の手下は雷門のことも監視しているはずだ。
修也もそれを理解したのか、更に顔に苦渋の色を浮かべた。
今までが、平和過ぎたのだろうか。人を匿うとはいっても、決して神経が磨り減るようなことはなかった。ここに来てシビア感が一気に増して思わず肩に力が入る。
「雷電。ここからは全力で私たちも修也を守ろう。だから、刑事から何か聞いたら私にも協力させてほしい」
「ああ。お前には基本、豪炎寺の側にいてやってほしい」
「……分かった」
横目で修也を見れば、ぼうっと窓の外をひたすらと眺めている姿が目に入った。あんたは今、どういう気持ちなんだろう。悲しいだろうか、苦しいだろうか、怒りが沸いているだろうか、はたまた雷門が来たことに喜びを感じているだろうか。私ごときが、想像出来るはずもなかった。
・
・
・
「これから外で安易にサッカー出来なさそうだね」
「……そうだな」
どう声をかけてやればと、頭の中でたくさん考えていたけど結局出て来たのは当たり障りのない言葉だった。
修也は、ただひたすらと抱えているサッカーボールを眺めていた。雷門が、同じ沖縄の地にいる。距離は果てしなく近い。なのに、限りなく遠い。
「でもさ、もし今がピンチだとしたら。ピンチはチャンスって良く言うじゃん」
「…あぁ」
「だからさ。夕香ちゃんのことは刑事さんに任せて、今は我慢しよう、ね」
「…」
「それにしても、宇宙人って本当懲りない奴ら。どんだけ修也を宇宙人にさせたいんだってね」
「……」
「でもさ、大丈夫だよ。修也のこと守ってくれる人はいっぱいいるし。私も微力ではあるけどさ、守る気はめちゃくちゃあるし…だからさ!安心してよ、ね、うん、……ね」
うわ、やだ。視界がだんだんとぼやけていくことに気付いて思わず顔を逸らした。修也の今置かれている状況を考えるだけで、もう私が辛くて悲しくて。なんで私が泣きそうになっているんだ。意味が分からない。
なのに、修也はそんな私に気が付いては小さく笑った。そしてサッカーボールにおいていた手を、私の頭に移動させた。
「泣くな」
「…泣いてないし」
「そうか」
「ちょ、何よ。本当に泣いてないから!」
「分かってるよ」
「もう!信じてないでしょ!!」
恥ずかしくて、修也のその手を振り払う。そんな私を見て修也はまた笑った。こんなへっぽこな私だけど、修也を守ると決めたんだ。その誓いは、絶対に守り抜きたいと思う。絶対に、絶対に。宇宙人の奴らの計画通りになんかさせてやるか。
//180128
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