「だーめ」
「わぁあ、なんでぇ!」
「おねがいだよ、姉ちゃん!」
「だめです」
「ちょっと!ちょーっとだけ!」
先ほどまで真剣な話をしていたから大人しく黙って家で遊んでいたチビたちがいきなり動き出したかと思えば、口を揃えてこう頼み込んで来たのだ。
「サッカーしたいぃぃ!!」
雷電は家事やら何やらでバタバタしているし、修也は無論外に出てサッカーなど遊びだとしても危ない。自ら危険に向かってるようなものだ。そんなこと私が許さない。だからチビたちは私を頼み込んでいるのだろうけど、私は私で修也のことが心配だから出来ることなら側にいて常に周りに目を光らせておきたい。宇宙人のことだ。どこから現れるかは分からない。
しかし、そうすればチビと遊んであげれる人がいなくなってしまうのだ。
「遊んで来てあげてくれ」
「…修也」
「遊び盛りの子らだ。それを我慢させるのは、俺が言えることじゃないが気が引ける」
「んー。まぁ、確かにそうだけど」
再びチビたちを見ると、目をキラキラと輝かせている。1番上のチビの手には、当たり前のようにサッカーボールがある。思わず溜息を漏らし、仕方ないと腰を上げた。
「分かった。ただし!グラウンドじゃなくて近くの広場で、ちょっとだけだよ」
「はあーい!」
嬉しそうに元気よく返事をするチビたちを見て、やれやれと首を振って私も腹をくくった。修也を見れば、チビたちを見て優しそうに、でも切なそうに見ながら口元を緩めていた。
嗚呼、修也もサッカーしたいだろうな。
☆ ☆ ☆
「いくぞー、ばくねつストーム!!」
「すーぱーしこふみ!」
「わぁっ」
「おりゃあ、ふぁいあとるねーど!」
「きゃははっ」
雷電の家からすぐ辿り着く広場で、チビたちは楽しそうに一つのボールを奪い合っていた。本当に、サッカー好きだよね。
私はというと、安定に少し離れた木の陰で涼みながら修也のことを考えていた。
修也のことは、助けたい。彼も早くこの縛り付けられてるものから解放されて存分にサッカーをしたいだろう。雷門のユニフォームを着て、仲間たちと一緒に戦いたいだろう。その望みは私も知っている。それをいち早く、叶えさせてやりたいとも思っている。
だけど、それは即ち修也がこの沖縄からさよならだということ。別にこれは私だけの感情だ。当たり前だ、私は修也のことが好きだ。好きな人と離れたくないと思うのは、当然の感情だろう。……いつかはこの時が来るからと、初めは気持ちに蓋を閉めていたのだ。でも認めてしまった以上この気持ちに向き合わないといけない。
修也が好き。だからこのままずっと沖縄にいてほしい。だけど、彼が望むように仲間の元に戻って本来の姿も見たい。
はあ。思わず溜息を吐いた。今日はよく溜息が出る。大変な人を好きになってしまったものだ、本当に。もう一つ胸の内から溢れて来た溜息を出そうとした、その時だった。
「うわぁぁあああん!!!」
チビの泣き声が広場に大きく響き渡って、私はようやうハっと我に帰る。いけない、自分の世界へ入り込みすぎてチビたちを見ていなかった。慌ててチビたちの方へ視線を向ければ、1番上のチビが泣いていた。
「泣かした」
「…泣かした」
「泣かした!」
「うえぇええええん!!」
えっ、えっと、普通にまずい。チビ全員が泣くだなんて緊急事態だ。私は急いでチビたちの元へ駆け寄った。
チビたちは私の姿を見ると安心して抱き着いてきた。とにかくガバリと腕を開いて、チビ5人を腕の中にしまう。
「一体何があったの…」
「あのお兄ちゃんがぁ!」
あの……お兄ちゃん?
1番上のチビが指さした方を追うと、目が飛び出るんじゃないかと思った。だって、だって。
下校途中に出会った雷門サッカーのキャプテン――円堂守がいたのだから。
「ひっ!」
思わずチビたちを抱きしめる腕に力が入る。
「あれ…お前って、」
そのときだ。ドドドド、とどこからともなく大きな足音が響いてきた。この広場からチビたち5人が大泣きすれば、きっと彼の耳にも入っていることだろうからこうなることは予想づいていた。
雷電さまのお出ましだ。
「誰だぁ!俺の弟たち泣かせたのはぁ!」
「あのお兄ちゃん、ボールとった!」
私の腕の中から、チビがそう叫んだ。すると、円堂守は手に持っていたサッカーボールを申し訳なさそうにチビに返した。ボール、取った?修也の話を聞いた限り、そんな意地悪するような人だとは思わなかっただけに驚いたけれど。でも、心から反省して謝っている様子を見ると、やっぱり良い人なんだろうなとは思う。私とぶつかったときも…すごく、良い対応をしてくれたし。
しかし、雷電は簡単に認めることはなかった。
「本当だろうなぁ?」
もしかすると、雷電はこの人たちが雷門イレブンだと――円堂守だということを分かっていないのかもしれない。どうしよう、雷電に言うべきであろうか。でも変にこの人たちに怪しまれるのは、余計に頂けない。
「だいたい、お前!怪しすぎるだろ、そのメガネ!」
「……失敬だな」
いや、もしやするとこれは。雷門イレブンという前に、宇宙人だと怪しんでいる可能性もある。これは私が彼に教えるしかないだろう。
「ねえ、雷電。この人たち、雷門だよ」
「なに…?」
彼らに聞こえないように、雷電にそう小さく耳打ちをする。するとしばらくして、円堂守は自分たちが雷門サッカー部であることを名乗った。名乗る前には、サッカーをやっていたチビたちに聞きたかったことがあるという旨について話して。
「カッハッハ!いやー、悪ぃ悪ぃ。お前らか、宇宙人たちと戦ってるサッカーチームは」
すると雷電は先ほどまでの態度とは打って変わって、まるで掌返しをするかのように気さくな態度で雷門イレブンに自己紹介をした。そして、円堂守も同様に今度は自身の自己紹介を返す。もしかすると、これは私もしておいた方が良いのだろうか。
「わ、私は波野光」
「お前、やっぱり。ちょっと前、俺とぶつかっちゃった人だよな…?」
「あはは、うん」
「ほんっとに、あのときはごめん!」
また謝罪の言葉をいわれて、首を振った。そんなに謝らなくてもいいのに。本当に良い人なのだろう、円堂くんは。
「それで、なんだ。宇宙人から沖縄に襲撃予告でもあったのか?」
「いや。俺たちはこの沖縄に炎のストライカーを探しにやって来た」
「もしかしたら今、俺たちが探している仲間かもしれないんだ!聞いたことないかな?」
本人たちから、その単語が出ると胸がどくりと騒いだ。遂に、修也の仲間と話すときがやってくるなんて。しかも、修也のことを。
雷電は神妙そうな顔を浮かべながら、んー、と考え込んだ。しかしすぐに円堂くんたちの方を見ては「知らねぇなあ」と、素晴らしい演技力で答えた。
「…そうか。光、お前はなにか知らないか?ちょっとしたことでもいいんだ!」
私に一縷の希望を持って、そう尋ねてくる円堂くんにすごく胸が痛んだ。知ってるよ、といえば円堂くんは、雷門イレブンの人は飛び跳ねて喜ぶのだろう。だからこそ、嘘を吐くのは。騙すのは本当に心が痛かった。でも、人を匿うということは――修也を守るとは、こういうことなのだろう。
「ごめん、円堂くん。私もなにも知らないや」
そう答えれば、円堂くんは少し曇った顔を見せた。それでもすぐに切り替えて「そっか、ありがとう!」と笑顔を浮かべた。本当に修也のことを、心から探し求めているのだと思った。私が修也と離れたくない気持ちと同様に、円堂くんは修也に会いたくてたまらないのだと心の中でなぜか共感してしまった。
//180128
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