雷門イレブンがこの沖縄にやってきて数日後の朝。いつものように土方家に向かうと、そこには見知った顔ぶれがあった。鬼瓦刑事がいたのだ。
夕香ちゃんの安全な場所へと確保する準備がようやく整った。今まで色々と練り続けた作戦を、あとは遂行するタイミングを待つだけだけだという旨を伝えられた。その作戦も説明させられた。今日中にそれが行われるということも。雷電も、修也も、みんなの表情が終始引き締まっていた。
ただ、例外なく私も顔は引き締めていたののがどこか一人違う空間にいるかのような感覚だった。鬼瓦刑事の声が聞こえるようで、聞こえない。だけどそれは現実逃避しているだけだともう一人の自分が言っているような気がして、ひとつ息をついた。どう私が足掻こうか、それはそこまでやってきている。すぐ目の前までやってきている。
そう。ついに、その時はやってきたのだ。
☆ ☆ ☆
いつそのタイミングが来るのわからない、ただひたすらとピリピリしているこんな状況にも関わらず、雷電は買い出しに行ってしまった。「何かあったらすぐ連絡してくれよ」と一言残して。そんな雷電に、今更文句を言うつもりなんか微塵ともなくて結局は私も気楽に彼を見送った。
そして鬼瓦刑事は、そんな彼を面白そうに見ながら宇宙人の手下たちを監視し返してやる、とやる気に満ちた目で部下と一緒に出かけられた。
つまり家には修也と私、そしてチビたちだけでいるお留守番という状況だった。
修也は、チビたちのおもちゃ遊びに付き合っていた。車のおもちゃを遊ぶチビもいれば、家でサッカーボールを蹴ろうとするチビもいる、ままごとをやろうとごねるチビもいる。だけど、そんな自由気儘なチビたちを楽しそうに相手する修也を見ているだけで私は充分だった。
こうやって、修也がチビたちと遊ぶのも今日が最後になっちゃうんだな。もちろん、私が少し離れたところでこの光景を見るのも。
「姉ちゃん!!」
「ん…?」
チビ子が大きな声で私を呼んだ。いけない、また自分の世界に入り込んでいた。
「早く、姉ちゃんもやるんだぞ!」
「おれらもするから!」
「何を…って、聞くまでもないか」
少し不服そうなチビ男たちが、次々に私にそう言ってくる。それぞれ手にはちゃっかり、おままごとで使われるおもちゃがあるから大方チビ子の要望を、自分たちがしたい遊びを諦めて受けてあげたのだろう。妹思いの良いお兄ちゃんたちだ。
「修也にいちゃんもやるから、姉ちゃんも一緒にやるぞ!!」
「はいはい、分かってるよ」
少し離れたテーブルに座っていた私はゆっくりと腰を上げて、チビや修也のいる元へ向かった。チビ子が、「修也にいちゃんがパパ役で、ねえちゃんはママ役ね」と満面の笑みで説明した。みんなは子供役だよーなんて言うけれど それだったら私と修也以外、設定がまんまじゃないか。
それにしても、年齢順からして私と修也がその役に振り分けられるのは不自然でもないし、それにチビ子も幼いから私の修也に対しての思いを組んでまさか企んでたりはしていないのだろうし、気にすることもないのかもしれないけど。やっぱり私は、女の子だ。どれだけチビたちの世話をしていて大人ぶっていても、14の女の子だ。好きな人と夫婦役なんて、意識してしまうのも仕方ないだろう。
「俺たちが夫婦役か」
「仕方なくね」
「フっ、そうだな」
「…何で笑ってるの」
「いや?別に」
「何よこら!!」
一発ぽこりと叩いてやろうとするが(もちろん本気じゃない)、私より遥かに動体視力も反射神経も良い彼に勝てるはずもなく軽々と私の拳は空を切った。
「こんのちくしょー!」
「ん」
なんだかそれが無性に悔しくてもう一度リベンジするも、それはまた避けられて、再びリベンジするも、また避けられてのやり取りを繰り返していたその時。
「わー!パパとママがイチャイチャしてるー!」
「こどもの前で、イチャイチャしてるー!」
「…なっ!しし、してない!」
チビたちがこれでもかっていうほどに冷やかしてくるものだから、思わず言葉に詰まる。助けを求めるかのように修也を見れば、彼もまた困ったように、だけどどこか楽しそうに微笑んでいるのを見て胸がじわりと温かくなった。
この時間が、まだまだ続けばいいのに。この先もずっと続けばいいのに。けれど、そう思った瞬間に私のポケットに入っていた携帯が震える。私の儚い思いが叶うはずなんて無いのだと、まるで釘を刺してくるかのように携帯は無情にも震え続けた。
・
・
・
「修也、よく聞いて」
雷電からの電話を切った後、私は修也と向き合った。今から言われる内容を大まか察した修也は顔を引き締める。それにつられるかのように、わんさか騒いでいたチビたちも一斉に口を閉じ黙っていた。
「雷門とエイリア学園が、試合を始めるらしい」
「……」
「襲撃予告とかじゃなくて、純粋にエイリア学園が雷門に試合を申し込んだらしくて」
「…そうか」
修也は、グッと片手で拳を作った。まるで何かに耐えるように。その表情を見て私は唾をごくりと飲み込んで、意を決した。
「行こう、修也」
「!」
私は彼の目を真っ直ぐに見つめた。きっとその試合を観に行くということは、刑事の練った“作戦のタイミング”というのはすぐやって来る。その作戦が上手くいけば、彼が雷門に戻るのも現実的になる。すなわち、彼はもうすぐ――。それが今まではずっと私個人の想いで躊躇していたし、ずっとウジウジしていた。なのに。
「絶対に行かないと駄目。――絶対に」
「…」
「修也」
「…もし、奴らに見つかったら」
「大丈夫。そのことに関しては雷電が作戦を考えているみたいだから」
それでもいまだに心の中で葛藤している修也に、居ても立っても居られなくなって 思わず彼の両肩をがしりと掴んだ。
「どんなことがあっても、仲間の元にいないと…駄目。きっと仲間は、姿の見えない修也を待ってる」
「…」
「仲間のことを見ていなくちゃ。戦えないなら、見守っていなくちゃ」
「……」
「それがあんたのやるべきこと…でしょ」
私のその言葉で、修也の瞳孔がカッと見開いた。そしてむくりと腰を上げては、顔を伏せた。出しゃばりすぎたかもしれない。寂しいなんて言ったくせに、矛盾してるなんて思われるかもしれない。それでも良かった。
――ただ修也の後押しがしたかった。
「…そうだな」
「え?」
「すまない。光の言う通りだ」
「…!」
「行こう。試合会場に連れていってくれるか、―ー今すぐ」
覚悟を決めたかのような目をしながら修也はそう言った。私は口角が上がるのを気にせずに、頷く。
「もちろんだよ! ほら、あんた達もダッシュで行くよ!」
「ど、どこにー?」
「大海原中だよ!」
チビたちも連れて家を出る。修也は、外に出た瞬間にそっとフードを被った。大海原中へ行く道中も、奴らにバレないように行かなければならない。でも大丈夫。きっと上手くいく。そんな気がするんだ。
チビたちの手を引き連れながら、私と修也は最後にもう一度向かい合って 力強く頷く。そして目的地へと足を進めて行くのだった。
//180202
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