修也と雷電が観客席を立ち、移動を始めると宇宙人の手下も早速と行動を始めた。このまま二人を追跡するだろうと思ったが、何やら私の方を見てコソコソと話し合っている。私は修也の関係者だって分かっているだろうし、もしかすると私を人質にするかなんて考えているのかもしれない。まぁ、そんな作戦など考えていても無駄だという意味も込めて思わず笑みを浮かべると、工作員たちは驚いた表情を浮かべて すぐさま修也たちの後を追った。早く追いかけて、まんまと捕まっちゃえ。

 チビたちを確認すると雷電がいないから、特に上のチビたちがしっかりと弟たちを見てくれていた。「偉いね」と言えば、「あんちゃんにいわれたんだ、弟や姉ちゃんに何かあったら守ってやれよって!」拳と拳をかち合わせたチビを見て良い子たちだな、なんてぼんやり考えてはフィールドに視線を向けた。

 私は、この試合を見守りながら――エースストライカーとしての彼を待とう。


☆ ☆ ☆



 後半戦はやっぱり、イプシロンの優勢だった。雷門イレブンは防戦一方どころか、もはや守ることすら出来なくなっている。けれども、僅かな気力だけを振り絞って果敢に挑もうとする。次々と立てなくなっていく選手たちを見て、目を瞑りたくなった。

 今の雷門イレブンじゃ、勝てない。お願い、修也。急いで。

 キュっ、とチビ子を抱きしめる手に力が入った。雷門イレブンに関係ない私でさえ、もどかしいのだ。やられっぱなしの雷門イレブンを見るのが、辛いのだ。ならば修也は私より何倍も、何十倍も、何百倍も――。
 今までは私は、私の感情だけを気がかりにしていた。修也が好きだから仲間の元へ返すことに気がひける、出来るのならば彼といるこの時間がもっと長くあれば良いのに、と。でもそれは修也とは裏腹の気持ちだ。修也のことを本気で想うのなら、彼が仲間の元へ戻ることを大いに望まなければいけないのだ。なら、今は? 今は、ちがう。本気で私は、今のこの雷門イレブンに救世主を求めている。彼が、雷門イレブンに還るのを望んでいる。

 ――どこからか、「円堂!」とゴールの前にいる彼の名を呼ぶ声が聞こえた。
 
 デザームがグングニルを放った。強烈な威力のシュートが、円堂くんに襲いかかる。正義の鉄拳は破られてしまった。フィールドにいる者、観客席にいる者、全てが固唾を飲み込んだ。円堂くんは、何かに気づいたかのように目を大きく見開いて顔を上げた。そして、右腕を高く掲げる。

「正義の鉄拳!」

 力の均衡の末、円堂くんは遂にグングニルを止めた。この短時間で、円堂は正義の鉄拳をパワーアップさせたのだ。観客席が一斉に湧き上がる。すごい、すごい!チビたちも大盛り上がりだ。ゴールは守った、なら次は。


 円堂くんが弾き返したボールは、フィールドの外へと出た。それを足で止めた人物を見て、私は目を丸くさせた。口をあんぐりと開けた。さまざまな感情が駆け巡った。
 私は、この沖縄で暑そうで仕方ない格好をした男を知っている。そんなやつ、たった一人しかいないのだから。

 フィールドのすぐそばまでやってきて、フードを脱いだ。無論、修也だった。すなわち作戦は無事に成功した…そういうことだった。雷電たちにお疲れ様って後で伝えないと。そして、有難うとも。

 雷門イレブンは、修也が戻ってきたことを心の底から喜んでいた。両手を万歳して喜ぶ者、涙を浮かべる者――反応はさまざまだった。ただ一つ、みんなが彼の帰りを待っていたことは間違いなかったのだ。
 直後、雷門の監督が静かに立ち上がった。

「選手交代!10番、豪炎寺修也が入ります!」

 その選手交代命令に、観客席は興奮冷めやらぬまま更に湧き上がる。こんな展開、誰もが想像していなかったことだろう。
 修也は雷門のユニフォームを身に纏い、フィールドに入った。その背中が、観客席に向けられる。背番号10。それは、どこの誰よりも大きく見えた。宇宙人に負けないくらいのオーラがあった。

「しゅーや兄ちゃんも、試合するのー!?」
「そうだよ。しっかり見ておくんだよ」
「うんっ!」

 チビ子も、横にずらりと座っているチビたちも満面の笑みを浮かべていた。「修也兄ちゃんすっげーし、宇宙人なんかけちょんけちょんだ!」「そーだそーだ!」まるで自分のことのように、自信満々でそう言うチビたちに思わず笑みが溢れた。






 試合が再開してからというもの、修也は圧倒的な存在感を敵にも――そして味方の雷門イレブンにも見せつけ、感じさせた。
 攻めてくるデザームから無駄な動き一つなく、華麗にボールを奪い取ると凄まじいスピードで前線へと駆け上がる。気が付けばもう、ゴール前にいた。そしてファイアトルネードをぶちかましたのだ。恐らく、試合が再開してからおよそ1分もかからないほどの出来事だと思う。強烈な威力を纏ったシュートはキーパーを破り、ゴールへ。スコアボードにはイプシロンと同じく「1」という数字が雷門についた。

「しゅーや兄ちゃん、かっけえぇ!」

 知り合い――いや、いつも一緒にご飯を食べたりサッカーをしてくれていた存在が、こんな大事な試合であんなに活躍しているのだ。チビたちも興奮しない方がおかしい。もちろん、私だって。普段見る修也とは全く異なる、迫力がある修也の姿にはある意味見慣れなかった。

 デザームは危機を感じ、すぐさまポジションを変え自身がキーパーへと戻った。そして、修也に宣戦布告をする。必ず自分がお前のシュートを止める、と。

 修也が戻ってきたことにより、雷門イレブンの士気も覇気も高まっていた。それまで押されていたのが嘘のように、イプシロンの持っていたボールを必殺技で奪い返せば、ゴーグルの人が修也と見事な連携をみせ、修也を再びシュートチャンスにへと巡らせた。

 シュート体制に入った、修也。ふたつの拳を顔の前で交差させる。その構えに私は随分と見覚えがある。腰のひねりを上手く利用し、回転する。そして、右足でタイミングを整えてから力を脱した。右足に篭っていた力をも含め全ての力を利き足の左足に込めて、ゴールへ向かって蹴り落とした。そう、あれは。

「爆熱ストーム!!」

 修也が必死に今まで特訓してきていた、ファイアトルネードを遥かに上回る威力を持った必殺技シュート。爆熱ストームだ。
 燃え盛る炎を纏ったシュートは、強烈な威力のままデザームへ襲いかかる。ドリルスマッシャーで対抗するも、それはいとも簡単に砕け散らせてしまう。威力を残したまま、ボールはゴールを突き刺した。

 まさしく、豪炎寺修也大復活の瞬間だった。


 試合終了を告げるホイッスルが鳴り響いた。雷門イレブンが、イプシロンに勝利。観客席も、雷門イレブンも、歓喜に沸いた。チビたちなんて喜びすぎて席から転げ落ちている。
 雷門イレブンの輪の中で、彼の帰りを待ち詫びていた仲間と、口元を綻ばせてている修也を見て目の前がぼやけていくのが分かった。彼が本当にいるべきは、あの場所なんだと。そして彼があの場所へ還られたことが嬉しくて、安心して、でもやっぱり自分の気持ちに嘘はつけなくて。

「よかったね、修也。本当に、よかった」

 そう口では言いながらも、溢れる涙を堪えることなんで私には到底出来るはずもなかった。俯けば、私の方を神妙そうな面持ちを浮かべるチビ子と目が合う。

「…姉ちゃん?」
「ん、…あはは、ごめんごめん。なんかすっごく泣けてくる」
「姉ちゃん」

 チビ子は、花のようにふんわり笑った。

「しゅーや兄ちゃん、かっこよかったね」

 いつだったか、ああそうだ。修也が、爆熱ストームの特訓をしていた時だ。まだ爆熱ストームの名前も決まっていない、特訓始めたての頃。他のチビたちが花火で遊んでいるところを抜けて、チビ子が一人私の元へやって来て言ったのだ。姉ちゃん、修也兄ちゃんが好き? って。そして結局、私はチビ子のお陰で彼への想いを認めたことになる。まるでその時みたいだった。チビ子って、なにかと私の核心をついてくる。決して説得されてる訳でもない。だけど、チビ子の言うことは全て今の私の気持ちをまんま口にしてくれているみたいで。

「…うん、そうだね。修也、かっこよかったね」

 背番号10の雷門のユニフォームをまとった彼は、本当に格好良かった。チビ子の返事をするように、そう言うとまた涙が溢れた。そんな涙をみて、チビ子が「姉ちゃん笑って。姉ちゃんは笑った方が可愛いよ」といった。そんなチビ子を、私は優しく、ほんの少し強い力で抱き締めた。

//180218


   


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