試合終了後、雷電も大海原グラウンドへ戻ってきた。作戦が無事に成功した内容を教えてくれた。宇宙人の手下はすぐその場で捕まえることは出来なかったらしいけど、これで警察も公に奴らを追いかけることが出来るらしい。何はともあれ作戦は成功したのだ。
それでも尚、フィールドではイプシロンが他の宇宙人に追放されてしまったりと大変だった。やっぱり宇宙人は他にもたくさんいたようだ。そう、すなわち、きっと。雷門イレブンの戦いも、まだまだ終わらないのだ。
改めて雷門イレブンが、修也に「おかえり」と口を揃えた。懐かしい仲間たちにそう迎えられて、きっと嬉しくて仕方ないだろう。私は雷電の後ろで、そんなしあわせな光景をただずっと眺めていた。
☆ ☆ ☆
それから鬼瓦刑事がこの場に現れて、修也が姿を消し去った理由から今まで起きていたことを雷門イレブンに説明した。エイリア学園の工作員に修也が仲間になれと脅されたこと、そして彼の大切な一人の妹の夕香ちゃんを人質にされていたこと、それを雷門イレブンには口止めされていたこと、そして助けるチャンスを待つべく修也を土方家に預けて匿わせたこと――全て洗いざらうように、暴露した。
一通り聞いたあと、円堂くんは鬼瓦刑事に大きく頭を下げる。そして感謝の言葉を口にするのだ。本当に彼は仲間のことを、修也のことを考えている人なんだと感心した。私より遥かに彼のことを思っているのかもしれないと、ちょっぴり羨ましくも思った。
「礼なら土方に言ってくれ」
「ええっえ! や、辞めてくれよおやっさん!これくらいどうってことないさ!」
すると、鬼瓦さんが雷電の方へとみんなの視線を向けた。不意打ちだったからか、それとも純粋に恥ずかしかったからなのか、雷電は珍しく顔を赤くさせながらアワアワと慌てている。
「いや、お前がいなかったら…。お前がいたから、爆熱ストームを完成させることが出来た。ありがとう、土方」
「へっ…。 礼を言うなら、もう一人大事な奴がいるだろ」
修也と雷電のやり取りに、じんと感動していると突如雷電が私の背中を押して、自身の前へと立たせた。今まで彼の背中に隠れていたものだから、雷門イレブンの大半の人たちが目を丸くして私の登場に驚いていた。もちろん、修也も例外なくその一人だった。
「…そうだな。光にも、感謝してもしきれないな」
「わ、私なにかしたっけ!?」
雷門イレブン諸々関係者さんの集中が一気に私に集まって、これは赤面せざるを得ないなと思った。先ほどまでの雷電に激しく同情する。思わず口が回らなくてどもってしまい、更に恥ずかしさが増した。でも本当に、修也に感謝されるようなことをしたか全く思い浮かばない。私は、私は。何もしていない。何も出来ていない。
「爆熱ストームを完成に導いてくれたのは、光…お前だ」
「え、っと」
「落ち込んでいた俺を励ましてくれたのも、話を聞いてくれたのも、暇に付き合ってくれたのも――俺の背中を押してくれたのも。全部、光のお陰だ」
ありがとう。その言葉が、やけに重くじんわりと胸に響いた。修也の優しい目が、私を射ている。こんな大勢がいる前で、そんな恥ずかしいことよく言えるね。私だったら絶対に無理だよ。そういうところは本当に尊敬するよ。ああ、もう、何だろう。こんな真正面から感謝されると何て言えばいいのか全く分からなくて。私は引きつりながらも笑みを浮かべるのに必死だった。素直になりたいなと、心底自分が嫌になった。
それから雷門イレブンは円堂くんの提案で、サッカーを始めた。ついさっき試合を終えたばかりなのに。チビたちは、たまたま雷門とエイリア学園の試合を見に来ていた近所のおばさんが連れ帰ってくれていた。だから、この場に留まって彼らの楽しそうにサッカーしている姿を見るのも良かったのかもしれない。だけど。修也の姿を見ているだけで今はただただ切なくて、よそよそしくその場を私は離れたのだった。
そんな私のことを、ずっと見ている人が二人もいたなんて、知る由もなく。
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円堂たち雷門イレブンのみんなと久々にサッカーを始めたときのことだ。それまでずっと、グラウンドの端の方でその光景を眺めていた光が、なんともいえないような表情を浮かべながらグラウンドに背中を向けた。どこかに用事があったのかと考えたがそれきり光はここへ戻っては来なかった。帰ってしまった、のだろうか。
日が落ちるまで、俺たちはサッカーに明け暮れた。いつだったか光に円堂のことをサッカー馬鹿と称したが、ほかの奴らも、もちろん俺だってそれに間違いなかった。
休憩に入ったとき、土方が差し入れといって沖縄特産のシーカーサードリンクを持ってきてくれた。確か一度勧められて飲んだことがある、とてつもなく酸っぱいものだ。顔を若干歪ませながら、でも美味しそうにそれを飲む仲間たちの姿に懐かしさを覚えていると、グラウンドを背中に向ける一人の姿を見つけた。先程の光のように、気付かないうちに帰られるのは御免だと思って俺はその人物を呼び止めることにした。
「土方」
「ん?」
「…帰るのか」
「あぁ。弟たちの飯を作らねぇとな!」
いつものように明るい笑顔で土方はそうさも当然のことのように言った。やっぱりさすがだな、と心の中で敬意を払う。
俺は明日、円堂たち雷門イレブンと共に沖縄を発つ。エイリア学園を倒す旅は、まだ終わっていないからだ。つまり、改めて土方と言葉を交わすのはきっとこれが最後ということだ。今までの感謝をこの口でしっかりと伝えないとと、そう己が命令した。
「土方。色々とありがとう」
「礼なんか良いって! さっきも言ったろ。お前が楽しくサッカーが出来る。良いじゃねぇか、それで!」
「…」
「行くんだろ? 円堂たちと」
土方のその問いに、俺は頷いた。
「弟たちには上手く言っとくよ」
「…勝手ばかり言って、すまない」
「謝るこたねーよ! 俺には帰る家がある。お前には、帰るべきチームがある。それだけのことさ」
土方の言葉に俺は再び頷いた。本当に、感謝してもしきれないなと思う。頼まれたこととはいえ、見ず知らずの俺をまるで家族のように接してくれた。サッカーの特訓なんて、何度付き合ってくれたことだろうか。弟たちにも、たくさんの元気をくれた。あの子たちの明るさに何度も救われた。土方家には、本当に世話になったんだ。感謝の気持ちいっぱいで、もう一度土方に礼を言おうとした―そのときだった。
「ただ、一つだけいいか」
「?」
土方は、先ほどまでの表情とは打って変わって真剣な眼差しを俺に向けた。
「あいつには、お前の口から言ってくれるか」
誰かなんて、聞かなくてもわかった。
「ここだけの話だけどよ!あいつ――光のやつ、豪炎寺と過ごすようになってから変わったんだよ」
「え…?」
「まさか、誰か一人のためにあんな真剣になるなんてな」
土方は暮れゆく陽を眺めながら、ぽつりぽつりと語り始めた。
「それに、豪炎寺が来てから弟たちだけじゃなくて、あいつも本当に毎日楽しそうだったからよ」
「…」
「誰よりもお前のことを考えていたのは、紛れもなくあいつだ。まぁ、あいつは不器用で素直じゃねぇから、それがお前に伝わってるかは難しかったかもしれねぇけどよ」
「いや…伝わってたさ」
「そうか。俺からすれば、光はもう一人の妹みてーな存在なんだ。それだけが、ちょっと気がかりだったんだ」
「土方…」
「まぁ、そんなこった!あいつのとこに行って、しっかりとお前の言葉で伝えてきてくれ!」
土方の頼みに俺が首を振るはずがなかった。もう夜は近い。きっと数分すれば日は完全に暮れることだろう。ゆっくり話すとなれば、今しかない。それは俺だって分かっていた。
最後に土方に礼を言ってから、円堂たちにもひとつ言葉を残した。「夕食はそろそろだから」というマネージャーの言葉に頷いて、俺は駆け出した。あいつはどこにいるのか、なんて考えてもいなかった。確信があった。俺の足はすぐさま、俺たちが出会ったあの場所――海辺へと向かっていたのだ。
//180220
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