確かに、最近テレビで宇宙人やらとは言っていたけれど。確かに、東京だけでなく地方の方も学校が宇宙人に潰されたやらとは言っていたけれど。しかも、手段がサッカーだということは知っていたけれど。というか、サッカーが大ごとになってるなと他人事程度には思っていたけれども。

 雷電からの話を聞いて、思わず手に持っていたスプーンを皿の上に落としてしまった。
 
 私と雷電とチビたちと一緒にチャーハンを食べている目の前の彼、豪炎寺修也という奴は どうやら宇宙人の仲間にされそうになっているらしい。


☆ ☆ ☆



 雷電の話によれば、彼は雷門中サッカー部の絶対的エースストライカー…だそうだ。サッカーが大好きな雷電がそこまで賞賛するのだから、よほど凄い選手なのだろう。雷門といえば、中学サッカーに疎い私でもこの前に日本一になったということは知っている。まあ、そのエースストライカーなんだから彼が凄いなんて決まってるんだけど。
 しかし、今はエイリア学園と名乗る宇宙人が色んな学校を破壊して行って。雷門サッカー部の一向はそのエイリア学園を倒すべく、今宇宙人とサッカーで奮闘しているそうだ。

 そんな中、彼はエイリア学園の工作員に仲間になれと誘われたらしい。もしかしてだけど、そいつらは彼に遠回しに宇宙人になれと言っているのだろうか。
 けれど、その工作員は卑怯な奴らで なんなんと彼の大事な1人の妹を人質にしているらしい。チームメイトに話すこともいけないと口止めを強要し、その上で仲間になれと言っているのだから、脅しのほかない。最低な奴らだ。

 そして、警察らの提案で妹の安全を確保できるまで彼をチームから離し、とある刑事と知り合いであった雷電の家で彼を匿うことになった、ということだった。

「なんか、…うん。とにかく、すごいことになってるんだね」
「……」
「協力っていうのは、私も一緒にその彼を匿えばいいんでしょ?」
「ああ。だから、妹の安全を確保できるまで豪炎寺はこの家の一員だ!」

 雷電のその一言に、彼は目を一瞬丸くさせた。さすが、雷電は良いこと言うなあ。この心の広さ、見習わなくちゃいけない。

「あんちゃん、姉ちゃん、」
「お話、終わった??」

 するとそのとき、控えめに食卓に響いた幼い声。無論、チビたちのものだ。
 チビたちはお昼ご飯を綺麗に平らげていて、既に遊びモードに切り替わっているのか椅子から下りると私の手を思い切り引っ張った。

「姉ちゃん、あそぼ!」
「さっかあ!」
「早くいこいこ!」

 急かされるようなチビたちのアピールに、慌ててご飯を平らげた。雷電にごちそうさま、と告げてから立ち上がる。

「豪炎寺、お前も行ってこいよ」
「…俺は…」

 雷電の提案に、彼はたじろいだ様子をみせる。小さな子供は苦手なのだろうか。でも、妹いるんだよね。もしかして、妹いるけどそこまで歳は離れていないってことなのかな。それとも、彼の…プライド?もしくは、そんな気分じゃない?

 ええい、そんなものどうだっていい。

「…ほら、何してるの!」
「…?」
「あんたも行くの!」
「いや、」
「上手なんでしょ、サッカー」

 なら、チビたちに教えてあげてよ。
 
 最後に一押しして、今度は彼からの返事は待たずに、私がチビたちにされたように。私は彼の手を取って、急かすように立たせた。左手にはチビの手、右手には彼の手。そのまま引っ張って、家を出る。

 少し彼は焦ったような声を出したけど、そんなものも気にせずに。








「兄ちゃん、すっげー!」
「おしえておしえて!」
「ずるい、あたしもー!」
「姉ちゃんなんかもう比べものにならないね!」

 ちょっと誰だ最後の。聞き捨てならん。
 近くにある広場のサッカーグラウンドで、サッカーで遊び始めてからもう約一時間。今日は暑いから余計にいつもより早くバテた私は、木陰で彼とチビたちの様子をぐったりとしながら眺めていた。本当に暑い。尋常じゃないくらいに暑い。溶けてしまいそうだ。

 …それにしても。根暗さん、チビたちの言うように本当にサッカーが上手い。伊達に日本一のチームのエースストライカーをしてないんだな、なんて思った。

「……」

 サッカーを始めると、あんな無表情が嘘だったみたいに。表情がすっかり生き生きしていて、つい笑ってしまった。

 彼の話を聞いてから、掌返しをする自分が気持ち悪く思うけど それ以上に彼への同情の意が強かった。
 チームメイトと一緒に戦いたいだろうに、満足にサッカーをしたいだろうに。妹さんのこと心配でたまらないだろうに自分の手で守ることはできない、仲間に話さずにチームを離れた歯痒さで辛いだろうに―――。

「大丈夫か」
「…え?」

 顔を上げると、彼の顔が視界に入る。グラウンドの方に目線を向ければ、チビたちが5人でボールを取り合っていた。

「早々にバテていたから」
「な、うるさいな…」

 彼は、事情を知っている人物だということで私のことを少しは信頼し始めてくれたのだろうか。だから、話しかけてくれるようになってきてくれたのかな、とぼんやり考える。

 彼はいま、きっと苦しい。いや、絶対に苦しい。
 頼れる人も少なくて、縋る人もいなくて。

「ねえ」
「…?」
「提案があるんだ」
「…提案?」
「これから、あんたの暇つぶし相手になってあげる」
「…」
「だから、あんたも私の暇つぶし相手になってよね」
 
 彼はフっと笑った。彼は私と同い年なのに、随分と大人ぶった笑い方をする。でも、嫌いじゃない。

「私は、波野光」

 同情なんか誰にだってできる。

「よろしくね、豪炎寺」

 とりあえず私は、彼にやってあげられることを一つずつしよう。彼を守るために。そう決めた。


//170510


   


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