日も暮れて、空が茜色に染まり始めてきたところで、まだ遊びたいとごねるチビたちを宥めて家へと連れて帰る。

 豪炎寺に対して警戒心を明らかにみせていたのに、そこはさすがチビたちというべきか。あっという間に打ち解け、今は手を繋いで一緒に歩いている。サッカーの話では盛り上がっているようだ。

 一番下のチビの女の子と手を繋ぎながら、そんな男たちの後ろ姿を見てつい私の口元が緩んだ。意外や意外。小さい子、すっごい大好きなんじゃん。


「…姉ちゃん、また早くお家来てね?」

 土方家に到着して毎回私が家に帰ろうとするとき、決して長い別れでもないのに涙目になりながらそう寂しがるチビたちが可愛くて可愛くて仕方がないほどたまらなくて。だから私は何度もここに来てしまう。たとえ疲れていても、悲しいことがあっても。この子たちといるだけで癒されるから。

「…家まで送ろうか」
「平気平気!私の家、ここから10分くらいだから」
「そうか。気を付けてな」

 また明日ね、と手を振れば腕がちぎれるくらいに勢いよく手を振り返してくれるチビたち。豪炎寺の方もちらりと見れば、口角を上げてチビたちと一緒に手を振ってくれていて心がじんわりと暖かくなった。明日も来よう。決まりだ。


 帰宅し、テレビをつければまたエイリア学園のニュースがやっていた。今度は北海道の学校がどんどんと破壊されていってるようだ。極悪非道過ぎる。やっぱり人間は宇宙人の考えを理解出来ないようだ。何だろう、感覚が違うのかな。可笑しいのなんの。
 ずっと他人事のように感じていた一連の事件だけど、このエイリア学園に立ち向かっているチームがいて、そのチームの一員が、ついさっきまで一緒にいた人。そう考えると、なんだか不思議でたまらなかった。

 無残に破壊された校舎をテレビ越しに見つめる。

「沖縄に来ませんように…」

 私みたいなただのしがない生徒は、ただただそう願うしかないのだ。


☆ ☆ ☆



「あ」

 翌朝、日課である海辺沿いで散歩をしていると彼の後ろ姿を見つけた。

「おはよ、豪炎寺」
 
 背後から彼の肩を軽めに叩くと、彼は驚いて振り返った。正体が私だということが分かると、心底安心したように息を吐く。そして、「おはよう」と返してくれた。

 常に辺りを警戒しているのだろう。いつ奴等が来るか分からないから。きっと豪炎寺は今も気の抜けた時間をあまり過ごせていないのかと思うと、宇宙人の仲間が憎たらしくって仕方ない。

「朝、早いんだな」
「毎朝の散歩は日課だから」
「そうか」
「豪炎寺こそ、早いんだね」
「まあ、な」

 言葉を交わしながら、私は彼の隣に腰を下ろした。
 海は朝焼けに照らされ、今日も静かに波音を立てている。この時間の海が、私は一番好きだ。夕焼けの赤い海でも、星空が反射している真っ暗な海でもなくて、神朝焼けに照らされた海はとても神秘的で美しくて、大好きだった。

「そういえば。豪炎寺の妹さんって いくつなの?」
「小3だ」
「へえ、てことはチビたちより年上なんだね」

 とはいえ、私たちから見れば7つくらい年が違うのだろうか。そこまで年が離れてれば、豪炎寺の妹さんだろうがチビたちだろうが、私たちからしたら小さな子供たちであることには変わりない。だから、豪炎寺はチビたちの扱いにも苦戦せず仲良くできていたのだろうな。

 それから他愛もない会話を続けていって、ひとつ分かったことがある。

 豪炎寺はただの根暗野郎ではなかったにしろ、無口だということだ。基本自分から話しかけることはなくて、あくまで聞き手タイプなんだな、と感じた。私は割とベラベラ話したいタイプなので、バランス的には有難いのだけれど。

「そういや、お前はサッカーをやっているのか?」
「え?なんで」
「いや、昨日やっていただろう」

 とても素人には見えなかったが、と付け足す豪炎寺に思わず笑ってしまう。

「いやいや、遊びでやるくらい。雷電がサッカー好きだし、その影響で小さい頃から遊んでたくらいかな」

 所謂出来ることは出来るけど、決して得意ではないみたいな、そんな感じ。そう言うと、豪炎寺は「確かに」と頷いた。そんなに得意ではないという部分に納得されると、ちょっと反抗したくなるけど辞めておく。

「まあ、だから一応…パスの相手くらいにはなれるよ?」
「フっ、パスか」
「そう。ディフェンスとかオフェンスとか、そんなのは全然分かんないし出来ないし。雷電だと良いくらいの相手だと思うけど!」
「ああ、その気持ちだけで嬉しい」
「言ったでしょ、暇つぶしの相手になるって!私に二言はないよ!」
「そうか、それじゃあ」

 豪炎寺は地面に置いていたサッカーボールを手に取り立ち上がった。

「さっそく、相手してくれるか」
「あはは、さっそく過ぎでしょ」

 もう少しで朝ごはんだけど、ちょっとだけこやつに付き合おう。仕方ないなぁ、なんて口にしながらも私は弾む足取りで豪炎寺の背中を追いかけていったのだった。


// 170510


   


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