「姉ちゃんだああ!」
「おかえりい!」
「姉ちゃん姉ちゃん!!」

 とある日。雷電の家に訊ねると、怒涛のタックルかと思うほどの勢いで チビたちがダイブしてきた。ちょっと、いやかなり痛い。でも可愛いから許そう。

「早く遊びにいこ!」
「いこいこ!」
「しゅーや兄ちゃんも、ほら!!」

 チビ2人に手を引かれ、家の中から豪炎寺が出てきた。豪炎寺が土方家に来てから早一週間。もうすっかり、チビたちにも十分過ぎるくらいに懐かれたようだ。

「おはよ、豪炎寺」
「ああ」

 それじゃあ、今日もみんなでサッカーしに行きますか!


☆ ☆ ☆



「あっづい」

 開始早々、一週間前とほとんど同じくらいの暑さとチビたちの元気さの前にダウンした私は、木陰にて休憩しながらボールを取り合う豪炎寺とチビたちの様子を眺めていた。

 いつも雷電が家の家事や用事で忙しいときに、チビたちの相手を見てやれるのは私くらいしかいなかった。けれど今は豪炎寺もこうやってチビたちの相手をしてくれるから、なんとも楽になったことか。チビたちと遊ぶのは楽しいし、癒される。しかし、こう暑い中ひたすらサッカーをするとなってくるとやっぱりオバさんはしんどい。おかしい、中学生なんて体力が一番ピークのはずなのに。でも、一番下のチビと10歳も違うんだもん。そりゃあすぐ体力もなくなるよね、うんうん。

 豪炎寺は、自分の技術をチビたちに時々披露しながら、その上でチビたちにも出番をうまく作らせて楽しんでる。自分ばっかりやっちゃう人もいるんだろうけど、豪炎寺はそういうところが器用だ。やっぱり妹がいるから、なんだろうなぁ。兄スキルというものがかなり高い。
 チビたちに負けず劣らず、いやもしかするとチビたち以上に。豪炎寺は今すごく楽しんでいる。サッカーをしているときの豪炎寺は、一番楽しそうなのだ。なんか、本当に、心の底からサッカーが好きなんだな、って見てる者が思わず泣きそうになるくらい。

「大丈夫か」

 俯かせていた顔を上げると、さっきまでチビたちとサッカーをしていた豪炎寺がいた。わ、なんだろう。デジャブ。
 
「あはは、まあね」
「あいつらは元気だな」
「ちょっと、仮にもあんた現役の選手なのにそんなこと言ってて大丈夫なの」
「そうだな」

 豪炎寺は、クールに笑う。フ、って笑う。片方の口角を上げて、切れ長のつり目の目尻をほんの少し下げて。

 私はその笑い方が、意外と好きだ。


「そういや、雷電とも最近やってるらしいね」

 サッカーの練習。
 最後に主語を付け加えると豪炎寺は、ああ、と頷いた。

「最近は毎日付き合ってもらってるよ」
「どう?雷電も結構上手いでしょ?」
「ああ。あいつは日本のトップレベルの実力も持っていると思うぞ」
「チビたちの世話があるし、部活に入ってるとはいえど満足な練習は出来ていないだろうにね…どうやってあんなに上達できるのかな」
「才能、なんだろうな」
「……才能」

 確かに、天性の才能がなければ趣味程度であんな上手くなれる訳ないか。あとはもちろん、雷電自身が努力しているのもあるけど。そう考えると、時たまの練習相手がパスくらいしか出来ない私であるのが申し訳ない。

 キーパーとして私が突っ立って、彼のシュートの練習ならまだかろうじて出来るが、生憎彼はディフェンダーなので どちらかというとディフェンスの練習がしたいそうだ。うんやっぱり申し訳ない。

 でも、豪炎寺はストライカーだし、つまりはフォワードだし、きっと雷電にとっても最高の練習相手だろう。

「いいなあ、私もサッカー上手くなりたい」
「なりたいのか」
「と、いうか 運動神経良くなりたいよね」
「……悪くはないと思うぞ」
「あはは、それはどうも」

 まあ、一応サッカーもパスは出来る程度だから、運動神経が悪いことはないというのは自覚している。自画自賛?ええいうるさい。

「なにか部活に入っているのか?」
「テニス入ってたよ。もう辞めたけどさ」

 向いてなかったっていうのもあるし、チビたちと遊ぶ時間が減るのが嫌だったのもある。決して挫折とかではない。断じて。

「豪炎寺はいつからサッカー始めたの?中学から?」
「いや、7歳くらいの頃だ」
「へえ凄い。それじゃ、もう結構サッカー歴は長いんだ」
「そうか?」
「7年って結構だと思うよ」

 生まれて14年、そこまで数年も長続きしているものが私にあるだろうか。……うん、きっと無いだろう。チビたちが生まれてからは、ほぼ毎日欠かさずに一緒に遊んでいたことくらい。
 やはり、日本一のエースストライカーになるには、天性の才能と、経験と、努力が必要だということなのだ。勉強になる。


「それじゃ、豪炎寺はずっとサッカーばっかりに夢中な少年だったってことかな」

 間違いない。きっと昔からずっと、サッカーを始めた時から、サッカーしかまるで知らないくらいに、サッカーに熱中していたんじゃなかろうか。だって現に、こんなにも豪炎寺はサッカーが好きなんだもん。楽しそうなんだもん。

 しかし、私のその言葉に返答のない豪炎寺を不思議に思って 彼の顔を覗き込むと、少し複雑そうな顔を浮かべていて。


 まだ出逢って間もないのに、あ、私は今、豪炎寺の知らない部分に触れてるんだと、なぜか胸がぎゅっと締め付けられた。


// 170520


   


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