「サッカーばかりに夢中な少年、か」
「……?」
「本当は、そのはずだったんだけどな」
豪炎寺は、楽しそうに1つのサッカーボールを奪い合うチビたちを、まるで遠目から見るように眺めた。その横顔に、ひどく目を奪われる。
まるで辛いことを思い出しているかのように、眉間に皺を寄せて。いつしか私の体も微動だにしないほど固まっていて。これから豪炎寺の口から出る話は、きっと良いものなんかじゃないって悟ったというよりは、予感がした。
「俺は、サッカーから離れていた時期があった」
「え」
「サッカーを、辞めた時があったんだ」
☆ ☆ ☆
ぽつり、ぽつりと、言葉を零すように語り始めた豪炎寺の話は想像を絶するものだった。いや、その、宇宙人に仲間にならないかと誘われてるという話並みに。
宇宙人云々よりは、こちらの話の方が余程現実的で想像し易くて、その分聞いている側の私も辛かったのは事実だ。
豪炎寺の妹は、今から約一年前に事故に遭ったのだという。それも、彼の試合の応援に行く道中で。――彼女は、意識不明の昏睡状態という重体だった。
完全に自分のせいで妹が事故に遭ったのだと責任を感じた彼は、せめてもの償いで、妹が目覚めるまではサッカーをしないと誓い立てたらしい。その期間は1年に及ぶというのだから、サッカーを再び始めたのは本当に少し前のことなのだろうと悟った。
しかし、とあるきっかけで彼は雷門サッカー部の練習試合に突然参加することになり、本当はその1回のみの参加だったはずが、前々から勧誘してきていた雷門のキャプテンからの熱意のこもったアプローチに負け、またサッカーを辞めることが妹への償いというのが間違いだということに気がつき、彼は雷門サッカー部に入部したのだという。
「妹への償いの仕方を間違ってることに気付いたのもあるけど、今豪炎寺がサッカーをしてるのは ある意味キャプテンさんのおかげなんだね」
「ああ……円堂っていう奴なんだ。あいつを一言で表すなら、サッカー馬鹿だな」
「あはは、豪炎寺に言われるならよっぽどだ」
その円堂キャプテンを頭の中に思い出しては浮かべているのか、豪炎寺は懐かしそうに口角を上げた。…なーんか。ちょっとだけ。円堂くんが羨ましくなった。本当に豪炎寺自身がすごく慕っていて、信頼している仲間なんだろう。
「それから、妹さんはまだ……?」
「ついこの前、やっと目を覚ましたんだ」
「そうなの!?」
「ああ。 でも、その直後に――」
「――宇宙人の仲間になれって言われたってことね」
せっかく妹が目を覚めて、感動のシーンだというのに 宇宙人はやっぱり頭がおかしいのだろうか。やっぱり宇宙人だから空気を読むなんて分からないのか。そうだよね、そもそも宇宙人は空気吸うのか。考えるだけで宇宙人に腹が立つ。
それにしても、豪炎寺は、どうしてこうも。
やっと妹が目を覚まし、ある意味彼の自由を縛り付けていた鎖から解放されたというのに。またサッカーから離されるだなんて。不憫、というのには身勝手で。同情、というのには薄情で。
大好きなことを純粋に楽しむことができなくて、大好きなことから離れなければいけない人がいるなんて。私がもし、豪炎寺の立場だったらどうしただろう。間違いなく、病んでいて。間違いなく、根暗野郎になっていて。
「そういえば、妹さんの名前はなんていうの?」
そんなどん底にいるとき、私は間違いなく、嫌なことをなるべく忘れさせてくれて、楽しく笑って過ごさせてくれるような、そんな人が近くに――隣にいることを望むだろう。
「ゆうかだ」
「どう書くの?」
「夕方の夕に、香りで夕香だ」
「可愛いね」
「ああ」
「……なんでそんな豪炎寺がドヤ顔……あんた、妹思いだとは思ってたけどまさかシスコンなの」
「そういうお前も、あの子たちが相当恋しいだろ」
「うぬぐぐ」
チビたちはいとことはいえ、私からしたら本当の弟や妹みたいな存在だ。心から大好きで可愛くて仕方ない。そうなると私だってブラコンのシスコンなのか。
反論できずに言葉を詰まらせた私を見て、豪炎寺は勝ち誇ったような顔を浮かべる。その彼の顔を見て思わず私は笑ってしまった。
「……豪炎寺」
「ん」
「サッカー、楽しい?」
「……」
「サッカー、好き?」
当たり前のことを聞いて、私は何を求めているのか。豪炎寺は私の質問を聞いて少し驚いたように目を見開いて、それからまたフっと笑った。当たり前だ、という豪炎寺の返事を聞いて、心が満たされたような感覚を味わいながら、そうだよね、なんて私もへらりと笑った。
// 170521
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