「そうだよ」
「絶対そうだ」
「あんな顔、あんちゃんには見せないもん!」
「ぜーーったい!」
「ぜーーったい!」
「そうだ!!」
「……どうしたのあんたたち」

 今日もたっぷりと外で遊び終えたので、私と豪炎寺とチビたち5人で仲良く帰路を辿っているとき。
 私と手を繋いでいた双子のチビと、1番下のチビ子が何やらひそひそ話し始めたかと思えば、決意を固めたかのように私を真っ直ぐ見つめた。一体なんなんだろう。

「姉ちゃん!!」
「は、はい?」

 びしり、と指を指される。それも3人分。

「じつは!」
「しゅーや兄ちゃんに!」

「恋してるんでしょ!!」

 それはあまりにも想像していなかった発言で、あまりにも頭になかった発言で。理解するのには時間が必要だった。

 恋してる? 私が、豪炎寺に?
 一つずつの単語を理解して、ようやくチビたちの言い分が分かった時にはチビ3人の声を遮るように、思わず「はああ!?」と叫んでしまった。近所迷惑は自覚しています、申し訳ございません。


☆ ☆ ☆



 急いで3人の口を塞ごうとした。しかし現実的に考えて、2つしかない自身の手で3つの口を塞ぐのは現実的にどう考えても不可能である。そのためにとりあえず私はしゃがんで、チビたちの背丈に合わせてから、3人を思い切り背後からガバリと抱いた。冷や汗が額から流れるのを感じながら、恐る恐ると後ろを振り返ると、豪炎寺と他のチビ2人は結構な距離で離れている。

 豪炎寺と一緒にいるチビは、小1と年長さん。だから恐らくチビたちにとっても豪炎寺にとっても、サッカーの話がコアなところまで話せるから盛り上がってるのだろう。うむ、どうやら先ほどのチビたちの戯れ言は聞こえていないようだ。全力で安心した。

「あんたたち、なんでいきなりそんな…」
「だってねだってね、」
「姉ちゃんがしゅーや兄ちゃんと話してるとき、すっげー楽しそうだもん」
「しあわせ〜〜って、かんじの顔だよ!」
「な、な…」

 なに、しあわせ〜〜って。何なの、しあわせ〜〜って。可愛すぎるチビのその言い方についつい心が和まされ癒され――じゃないじゃない!

「はぁ……確かに、豪炎寺のことは好きだけど、あんたたちの思ってるような意味じゃ」
「ぜーーったいうそだ」
「姉ちゃん嘘ついた」
「わたしたちに姉ちゃん嘘つくの……?」

 だんだんと瞳を潤わせていくチビたちに、直感でまずいと頭にサイレンが鳴り響く。

 だが時すでに遅し。

「……」
「ああ、いや、ちがう、ええ、嘘じゃないのよ、ほんとに豪炎寺には恋してるとかじゃなくてね、」
「う…」
「ほら、まだあんたたちには分からないの。姉ちゃんたち大人だからね、好きにも色々あって、」
「うっ、うっ、うぅ…うええぇえん!」
「うわぁああああああん!!」
「びええええええええええん!!!」

 ………ああ、終わった。チビたちの中でも幼い3人に泣かれると、慰めるのにはかなり時間がかかるのだ。とりあえず、あわあわと慌てながら私は3人のチビにごめんよごめんよと謝りながら再び胸の中に閉じ込めては、トントンと優しく叩いてあやす。あまり効果はないけれど。

 さすがに3人の大号泣には気付いたようで、豪炎寺とチビ2人は何事だといわんばかりの顔でこちらへ走り寄ってきた。うう、面目ない。

「どうしたんだ?」
「いや、まぁ、あはは」
「姉ちゃんがぁ…」
「え」
「姉ちゃん泣かせたの!?」
「姉ちゃんさいていだあーー!」

 そしてなぜか上のチビ2人にも責められ、これにはさすがに頭を抱えた。もう小学生でしょ、もう来年小学生になるでしょ、少しくらいは空気読んで考えなさい。……と、とばっちりを受けさせたいところだったが、それを口にして上のチビ2人にも泣かれては、それこそ雷電さまが鬼のような足音を響かせて怒鳴りに来るので、なんとか宥めなければ。

「みんな、聞いて。姉ちゃんが悪かったです。ごめんね」
「ううう」
「でもね、私がその人のことを好きっていうのは、あんたたちが好きっていうのと同じなんだよ」
「……?」
「確かにその人を見ても幸せだよ。だけど、みんなの顔も見てたら、姉ちゃんしあわせ〜〜ってなるの。ね?一緒でしょ?」
「でも……」
「だから、みんなの泣いてる顔見たら姉ちゃんも泣きそうになるくらい悲しいし、辛いなぁ」
「ううーー、じゃあ泣かない!」
「姉ちゃん泣いちゃだめ!ぼくも姉ちゃんのことすき!!」
「うんうん、ごめんね。姉ちゃんも大好きだよ」

 なんとか宥めることが成功したと思うのは束の間、「姉ちゃん大好ぎぃぃ」と再び泣きながら私の胸に3人が縋り付くので、嘘でしょと思いながらも 3人をぎゅっと腕に閉じ込めた。

 そんな私たちを微笑ましそうに眺めていた豪炎寺と目が合い、どちらからともなく今の現状に笑いあう。しかし、チビたちの会話を思い出して、なんだか恥ずかしくなって、思わず視線を逸らしてしまった。









「宥めるの、得意なんだな」
「今日は苦労した方だよ」

 帰宅すると、散々走り回って遊んだお陰かチビたちはすぐにお昼寝タイムに入った。中でも下のチビ3人は加えて泣き喚いたものだから疲れも最高級だったのだろう。
 すやすやと気持ちよさそうに寝息を立てながら並んで眠っている5人の寝顔を見てるだけで幸せになる。

「で、何を言って泣かせたんだ?」

 チビ5人が寝ている部屋で、彼は小声でそう尋ねた。顔を見ると、おもしろそうに口角を上げていた。やっぱり気になるよね、とほんの少し肩を下げた。誤魔化しは聞かないだろうし、嘘なんてつけば豪炎寺は一発で分かっちゃうんだろうな。
 私は1番近くにいたチビの頭を優しく、起こさないように撫でながら口を開いた。

「しゅーや兄ちゃんに恋してるの?って聞かれたの」
「……」
「それで、好きだけどみんなが思ってるような好きではないんだよって言ったら、嘘つきって言われて……あれに至る」
「子どもの過信はすごいからな」
「ほんとだよ」

 平然に。あくまで平然に。なにも包み隠さず話せば、何も怪しいことはない。疑われることはない。私が、豪炎寺に恋してるなんて、チビたちのただの勘違いって。私が少しでも動揺したら、それは即ちチビたちの発言を肯定していると意味する。そう、だから、あくまで平然に。

 ただ、探偵でもスパイでもなければ、私はポーカーフェイスなど持ち合わせていないどこにでもいる大人ぶった子供だから、顔の表情を堪えることは出来ても 赤くなってしまう耳は どうしようも出来なくて、ただただこの耳が彼に気付かれませんようにと祈るばかりだった。


// 170521


   


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