夏がはじまる
青道高校の野球部は強い。
去年の夏も、西東京地区でベスト4まで進んだくらいだ。でも、そのときの私はふーん凄いね程度の他人事にしか思わなかった。でも今年は違う。全くもって違う。
「ねぇ、御幸は緊張してるの?」
「いや、緊張はしてねーよ。どっちかというとワクワクしてる」
「そ、そう」
「って、なんでお前が緊張してんだよ」
「いでっ」
デコピンされた。地味に痛い。
明日から野球部の夏の大会が始まる。青道はシード権が持っていたから明日は一回戦じゃなくて二回戦らしい。
「何回勝てば甲子園なの?」
「六回だな」
「そ、そんなにも勝たなくちゃいけないの」
「まだマシな方だぜ、東京は西と東で分かれてるし」
「へえ…でも、大変な道のりじゃん」
「けど簡単に甲子園に行けても面白くねーしな」
なんていうか、御幸は考え方が凄いと思う。尊敬の方で。私なんか絶対そんなのこだわらない。みんなが望む夢の舞台なら、出来るなら簡単に早く行きたいと思ってしまう。窓からグラウンドを眺める御幸の目はメラメラと燃えている気がした。
「私も応援いくから」
「お、マジか」
「うん…私が見てるから空回りとかやめてね」
「はっはっは! それは付き合い始めた頃だろ、もう心配すんなって。試合中はお前のことなんか忘れてるから」
「もうちょっとオブラートに包んで言えないのかな君。いやいいけどさ、別にいいけどさ」
「俺ばっか見るんじゃなくて、ちゃんと先輩の姿も見てくれよ」
ちょー、すげぇ人らばっかだから。
その一言で、御幸は先輩とまだまだ野球がしたいんだなぁって悟って、分かってるよと頷いた。「私が誰ファンか分かってんの?」「あー哲さんだったな」「ご名答」今日帰りに近所のお寺によって、お願いしに行こう。青道野球部が、順調に勝ち進みますようにって。あと、御幸が怪我しませんように。御幸が大活躍しますように、って。
▼
160724