初めての卒業
※R15
バッティングセンターで散々バットを振り回してから私のお家に戻ると、もう夕方になっていたので小荷物を持って再び御幸家へと向かうため電車に乗った。一日中オフでお泊まりを二日もするって幸せ。この三日間御幸からひと時も離れてないんじゃないか。トイレとかお風呂とか無しにして割と本気で。食べる時、寝る時、出かける時、ゴロゴロする時。ずっと一緒じゃん。やばいな。
駅の近くのファミレスで適当に夕食を済ませ、二度度めの御幸家お邪魔します。
「あれ、今日も御幸のお父さんってあのー…夜勤?」
「今日は会社の新年会で飲みに行ってる。たぶん朝まで帰ってこねーよ」
「そうなんだ」
新年会か…そっか年明けたもんな。なんだかあまり実感がない。
先に風呂に入らせてもらい、その後に御幸も入って、再び私たちは御幸の部屋でゴロゴロし始めた。御幸のベッドってふっかふかなんだよねー。気持ち良い。そして、すぐ隣にいる御幸の顔の方を見て私はやはりこのことを思わずにいられなかった。
「……」
ねえ御幸さん。私ら…もうあとは寝るだけよ? 昨日はまあその、ね、お母さんのお話をして頂いたからそういう雰囲気なんかならずそのまま寝てしまうのは分かるよ。うん、分かる。でもさ、ほら…御幸にとって今そういうチャンスでは? なあ御幸?
「……」
御幸と年明け初めてデートするんだ、しかもお泊りもするんだって友達に自慢したら「初デートでえっちとかやばいねー! でも燃えるんじゃない? 御幸くんもたっぷり我慢しただろうし! みずきちゃん楽しんでね! 初めてって多分勢いでやっちゃうだろうけど、ちゃんとゴムは確認しないとね!」つって私より興奮してたし意気揚々とそう語られるものだから期待するし…私もちょっと…やっぱお泊りといえばそういうことなんだと思って意識してたし覚悟してたし?
「……」
なのに! こいつという男は! 今も平然と野球漫画を読んでいる! 隣にこんなにも可愛い可愛い彼女がいるのに!
「……」
え、何、まさか御幸ってそういうの考えてない感じ? いやむしろ、あんまりしたくない感じ? 男子高校生とかもう思春期真っ盛りなお年頃なのなそういうの興味ない感じなの? あれか、強豪校の野球部はもはや頭の中は野球一色でそういうことに考えが至らないの? いやそんなことある!?
「ねーみゆきー」
「んー」
「漫画ばっか読むな馬鹿野郎」
「んーちょっと待って今いいとこ」
へいへいそうですか。近くにあったクッションを御幸に目掛けて投げたら漫画を見ながらポイっと払われた。お前どこに目あんだよ。
えっち云々ではなく、そもそも私を相手にもしなくなった御幸にちょっと拗ねながら未だに漫画をじっくり見てる奴の横顔を見る。私ばっかりがえっちしたいみたい…。別にめっちゃしたいって訳ではないけどさ…すぐにしたいって訳ではないけどさ…正直、こうやって御幸とゆっくり出来るときなんか、またこれからしばらくはないじゃん…ね。
御幸はえっちなんか興味ないのか。それとも私としたくないのか。どっちなんだろう。男って常にやりたいやりたいって思わないのかな。そんなとき、ある疑問がふっとよぎった。
「…野球部ってさー、AVとか寮で見てるの?」
御幸にそう問いかけると、奴は特に何のリアクションもせず淡々と答えた。
「んー当然だろ」
「へえ…寮でも見れるんだ」
「ん…」
まあそりゃそうか。反対にあのむさ苦しい男しかいない空間で見ない方が不自然だ。すると、今まで私に全く構わず漫画ばかりに意識を向けていた御幸がこちらを見てニヤリと笑う。な、なんだいきなり。怖いというより気味が悪くて思わず身構える。
「…なに? みずきチャン焼きもち焼いてんの?」
「は? …いや別に? まあどんな強豪野球部でも健全な男子高校生ですもんねえと思いまして」
まあその御幸さんは健全なのかどうか分かりませんけどぉ。心の中でそうごちて、また拗ねようとした瞬間だった。
「心配すんなって、俺はみずきチャンで抜いて」
刹那。それはもはや光のスピード。御幸の口を私の両手で口呼吸出来ないくらいに封じ込めた。私のこめかみにはぴしりと皺が寄っているのはお分かりだろうか。
「…は?」
「…」
「待って君、今やばいこと言ってたよ? 本気でやばいよ?」
「あ、まじ?」
まじ? じゃねーよ。
「まだえっちしたことない彼女にそんなこと言うのやばいよ?」
「ごめりんこ」
「ピュアな女の子にそれいったら最ッ低!って顔真っ赤プラス涙目でビンタされるレベルだよ」
「つまりお前はピュアじゃないと」
「AV見てるのか彼氏に聞いてる時点でまあピュアじゃないの自覚してるから」
そして心の中では御幸とえっちしたいなとか思ってる時点でね。うん虚しい。と思ってたらまた御幸は漫画に視線を戻した。いい加減にそいつ没収するぞ。
「みずきちゃんもそういうの気になるんだ」
「え、えー、まあ、ちょっと」
「じゃあ、そういう系も興味ある?」
ん?
「なに、そういう系って」
「んー男と女の営み?」
言い方よ。思わず吹き出したと同時にその言葉の意味を理解した私の頭は大混乱を始める。なに、え、そういう、え? すると御幸は例の私の敵(:漫画)をペッと床に落とした。そして私にジリジリと詰め寄ってくると、そのまま私に覆い被さってきた。ち、近いそしてなんか…嫌な予感。
「やる?」
「は」
思考が停止する。
「…え、あ、その」
「ん?」
「あのー…その念のため聞き返しますけど、やるとは…そういう…」
「セックス」
「せ」
「…一応ゴム用意してっけど」
「なっ!? ななっおまいつの間にそんなンンゴホっゴホゴホッ」
「はっはっは! 焦り過ぎ」
真剣にむせた。御幸目の前にいるけど御構い無しにむせた。いや私ずっと考えていましたよ? 考えていたけど、まさかこんなあっさりな感じでいうの? やるか?って。何、やるか?って。ムードもクソもないじゃない! 仮にも処女に向かってなんて軽い言い草なの! ドントビリーブ!
「で、どーすんだよ」
「…いいいや〜私もずっとその、覚悟はしてたよ? それはもうお泊り決まった日からそういう行為に至るんだろうなと思って覚悟してたけども」
「なんだ。そうだったのか」
「あ、いや、なんていうか、そのね、だけどやっぱ覚悟しててもいざそのときになると心の準備っていうか? ほらその聖なる行為じゃないですか。自分でもよく分からない部分がさらけ出される訳じゃないですか」
「全裸とか喘ぎ声とか?」
「おま」
「別にいつも妄想してっし引かねえから。安心しろよ」
「お前いっぺん本気で黙っ」
「ははっ、冗談」
御幸はそう面白そうに笑って、私の上から退いた。えっ。
「やらねぇから。そんな不安そうな顔すんなって」
「…」
「…ん? みずき?」
「…御幸は、したくないの?」
気付けばそんなことを口走っていた。御幸は微笑んでる顔を崩さずに、私の頭を優しく撫でた。
「そりゃーまぁ…やりてぇけど」
「…」
「でも、そういうのはやっぱみずきもちゃんと心の準備が出来て、お互いが本当にしたいって思ってからやりてぇし。無理強いはさせたくないから」
「御幸…」
「な。そんな顔させて悪い」
無理に襲ったようにからかったことを後悔してるのか、御幸はたくさん謝ってくる。それに私は首を振ることしか出来ない。
「ちがう、御幸」
「え?」
「私も、その、……したいって、ずっと思ってたの」
御幸はすごく驚いた顔をした。
「御幸としたい」
「…無理に、言ってるんじゃないよな」
「うん」
えっちしたかったって言うのって、こんなに緊張するものなのか。心臓が口から飛び出そうだ。でも、なんか、これで後戻りはもうしたくなかった。
「……良いの?」
「…うん」
「本当に?」
「うん、ほんとに」
そう言うなり御幸は私の上に覆い被さった。急な展開に驚き慄いている私をよそに、御幸は勢いよく口をくっつけてきた。勢い強すぎてちょっと痛かった。それにいつもより強引すぎだし……って、えっ、ちょ、
「んん、やっ」
し、ししし、舌…! ザラザラした御幸の舌が私の口内に潜入。も、もっと、ゆっくり! 展開はゆっくり! 恥ずかしくって堪らなくて御幸の胸をバシバシと叩くけど、御幸はもはやベロチューに夢中になり過ぎて気付いていない。
「っはぁ、叩くなよ」
あ、気付いてた。
「だって、そんないきなりされたらビビるもん。ばか」
「ん、ごめん。でも我慢できねーかも」
「え」
「てか、我慢できねーわ」
御幸はひとつ謝ってからもう一度キスして、舌を入れてきた。「ん…っはっ」息が続かないし、御幸のされるがままにされ続ける。いや、されるがままにしてないと私あんま順序とかタイミングとか何もかも分かんないんだけど…。御幸はキスをやめて、私の首に顔を埋めた。てか、こいつ何でこんな手慣れた感あるの!? なんで!?
「ひっ」
首を舐められ、鳥肌が立ち無意識に甲高い叫び声が口から出た。私のその反応を見ると満足そうに首を何度もキスしたり舐めてくる。えっちって首も舐めんの普通…? それとも御幸の性癖? 処女には分からないんです。とりあえず、されるがままだ。くすぐったくて必死に出そうな声を我慢することしか出来ない。
「みずき」
「っはい」
「バンザーイ」
「は?」
「服脱がすから」
「…あ、あぁ、服ね、服」
いきなりバンザーイとか言い出すから何かと思えば。自然な流れで、体を起こされて私もバンザーイと手をあげて御幸に上の服をばさりと脱がされ、上半身がブラジャー姿になった。ちょっと、いやかなり恥ずかしい。
弱い力で肩を押されて再びぼすりと押し倒さる。すると、御幸が優しく微笑んだ。
「おまえ、緊張してんなー」
「……そ、そう?」
「顔強張ってんぞ?もっとほら気楽に〜気楽に〜」
なんだそりゃ。気楽に出来るわけないでしょうが。お前さんはアホか。……でも、不思議と御幸の顔を見てると、気楽には出来ないけどちょっと安心してきた。ちょっとだけね。ほーんのちょっと。私も微笑み返すと、御幸の唇が再び私のそれと重なった。ああ今日こそは夜が長くなりますなあ。
・
・
・
翌朝。
「初体験の感想どうぞ」
「……痛かった」
「…おう」
「処女なめてた…痛すぎて泣いた…絶対目腫れてる」
「俺も痛かったわ。でも最後ちょっとは気持ち良かったろ」
「…うっさい黙れ」
「あーー昨日のみずきちゃん可愛かったのなあーー顔真っ赤で涙目で」
「しーーーねーーー!」
相変わらず私たちは真っ裸なのに朝から騒がしかった。無事に処女と童貞卒業しました。うん本当に痛かったです。でも、幸せでした。悶々と色々考えてましたけど、遂に私たち一線を越えてしまいました。てへぺろ。
▼
161129
「ていうか、なんであんな御幸慣れてたの?」「んー?」「まさか、お主…他の女とヤってなかろうな…!?」「なんだそら。お前が初めての彼女つったろ」「おう」「ビビりながらやってたらお前が不安になんだろ。あーいうのは童貞だろうが男がエスコートしなくちゃなんねーし。ま、内心はビクビクだったんだぞー俺も」「そうだったんだ御幸…やばい惚れた胸キュンした」「はっは、あー…幸せ」「うん、わたしも」