その日の夜

談話室には
至、シトロン、万里、心が
スマホを持って集まっていた。

「……あ、やべ充電……。よし…!」

延長コードで伸ばした電源プラグには、数本の充電器がついており
その1本をスマホに刺した心は、座りなおした。

「あそこは前衛がトラップ解除すべきネ。」

「同意。」

「私も同意。」

「いや、後衛でしょ。」

万里1人が反対をした。

「リーダーの命令は絶対。戦場の鉄さんダヨ。」

「鉄さん???」

「鉄則。」

「じゃあ私、解除に動きまー。」

「頼んだ、心。」

「りょ!」

よくわからない会話が飛び交うので
いづみは頭に?をいっぱい浮かべていた。
それを見た太一が「スマホゲーの話みたいっス!」と説明した。

そこに臣が
「夕飯は何が食べたい?」と聞いてきた。
どうやら明日の夕飯担当は臣のようだった。

それに、ぼそっと返事したのは
心だった。

「ドン勝ドン勝……。」

「今度PUBGもやる?生放送か、動画で。」

「お兄のやりたい方で。」

「じゃあ動画かな?編集面倒だけど。」

「じゃあ生でいいじゃん、延長しよ。」

「それな。」

「んあ?それってなんすか?」

「俺と心でたまに、ゲーム実況動画上げてんの。万里も来る?」

「いいんすか?じゃあお邪魔するっす。」

「……解除したよー。」

「でかした!チビ!」

「チビ言うな!!!」

「みんなで父さんネ!」

「突撃な。」

そこにやってきたのは
綴だった。

「はあ、はあ……。」

「綴くん?」

キッチンに立っていた臣も
心配になり駆け寄った

「どうしたんだ?顔色悪いぞ。」

「うっ……。」

「おい!?」

いきなり倒れた綴に驚いた十座は大きな声で
呼びかけた。

それを見ても平気なのは、至とシトロンと心だった。

「あー、これが噂の脚本ズハイ?」

「そんな名前は俺付けてないけど……。平気、寝てるだけ。」

「脚本できたヨ。」

「は?何言って――。」

「これ、握りしめてるの、脚本ッス!」

ぐうぐうと気持ちよさそうに寝る綴の手には
人数分の脚本があった。

左京も、綴が寝ていることを確認し
少し安心したようだった。

「秋組旗揚げ公演『なんて素敵にピカレスク』……?」

「書き上げて力尽きたのか。」

至とシトロンは
綴を部屋まで運ぶためにゲームを早々にクリアさせた。

「部屋運んどくか。」

「ワタシも手伝うヨ!」

「ヨロ。」

「えんやこらダヨ。」

「私も手伝うよー!部屋の扉開けるね!」

「よろよろ。」


次の日の朝……

休みということもあって
少し遅めに心が起床すると
そこには手錠で片手ずつ繋がれている
万里と十座がいた。

「…え?どうしたの?ついに犯罪…?」

「ついにとかなんだよ!ねぇよ!」

「左京さんに…繋がれた……。」

「はぁ??……いづみさんこれ……。」

「あぁー……それね?荒療治だって……。」

何やら、秋組旗揚げ公演では
この2人のチームワークが必要な
バディものの脚本だったとの事だった。

「なるほどぉ……。そりゃ大変だ!」

「心ぜってぇ思ってねえだろ!」

「1ミリは思ってるよ!」

「1ミリってなんだよ!……監督ちゃん、どうにかなんねぇのかよ!?」

「そ、そう言われても、鍵は左京さんが持って行っちゃったから……。」

臣が
「夕方まではそのままで過ごすしかないな。」と言うと
太一も
「おつかれッス。」と2人に声をかけた。

ただ2人のやりたい事も行きたいところも
自由にはならず、どんどんストレスがたまっているようだった。

「……いづみさん、これ逆効果じゃない??」

「うーん……確かに、荒療治すぎるよね……。」

「「ははは……。」」

「私、夕飯の買い物に行ってくるね。」

「あ、うん。いづみさん気をつけてね!」

いづみが玄関に向かうと
仁王立ちしている
十座と万里がいた。

「2人とも、どうしたの……?」

「左京さんが帰るのを待ってる。」

「……あと少しだろ。」

「そ、そっか……。そ、それじゃあ私はちょっと買い出し行ってくるね。」

いづみが外に出ると
不審な男が自転車に乗って
手に持っていた鞄を勢いよく
ひったくって逃走した。

「待って、返して――!」

いづみの大きな声に
玄関先にいた十座と万里は驚いて飛びだしてきた。

「監督ちゃん?」

「どうした?」

「あの自転車の男、ひったくり!」

勢いよく走りだした十座に万里も引っ張られながら走り出した。

「−−っ、お、おい!急に走んな!」

「待てや、コラ!」

「しょうがねぇなーー。」

――――
――――
――――

寮の中からも
心が驚いて出てきた。
その頃には十座も万里も走り始めた頃だった。

「いづみさん!?」

「あ、心ちゃん……十座くんと万里くんが、ひったくりを追って……。」

「ひったくり!?あの2人繋がれてるのに!?…ったく……!!!!」

「心ちゃん!?」

「大丈夫ー!!!追いつけるー!!!」

「え?!」

そう言って、心も猛ダッシュで
追い始めた。

「追いつくって……心ちゃん……足元、ミュールだよ?」

――――
――――
――――

「もっと早く走れよ。追いつけねぇだろうが。」

「どっちが――。」

「万里さーん!十座さーん!!!」

「「心?!」」

「…っ!あいつがひったくりかぁ!!!」

「――増えた…!?くそ、しつけぇな。」

自転車の犯人も人数が増えたことに驚きながらも
逃げる速度を上げた。

「――っ。」

「おい、こっちから周るぞ。どうせ、このままいけば商店街で足止め食う。」

「――わかった。」

「じゃあ私はそのまま犯人追いかけて……あそこで追い詰める!」

「おう!ちゃんと誘導しろよ!!!」

「任せて!」

心の心理戦と誘導により
犯人は天鵞絨駅の前まで
息を上げながら逃げた。

「……はあ、はあ。ここまで来れば……。」

「――おい、バッグ返せ。」

「!?」

「おっと、逃げらんねぇからな?」

「く、くそ!どけ!…あの女は巻けたのに!!!」

「巻けたんじゃなくて、てめぇはまんまと心にはめられてここまで追いやられたんだよ!」

「くっぉおお!!!」

犯人の男が十座に一発殴りかかると

十座も万里もニヤっと笑った。

「――。」

「……殴ったな?」

「殴ったな。」

「正当防衛だ。」

「だな。」

「ちょうどよかった。むしゃくしゃしてたところだ。」

「俺もだ。初めて気があったな。」

「――ひっ。」

――――
――――
――――

「はぁ、はぁ……多分このくらいで……駅前で油断して止まってくれると思うけど……。」

途中で巻かれたフリをした心は、商店街の一角で
休憩をしていた。
そこにやってきたのは、いづみと臣と太一だった。

「心ちゃーん!!!」

「はぁ、はぁ…みんな!!!」

「どうだった…!?」

「多分今、駅前に万里さんと十座さんがいるはず…!」

「急ごう!」

4人は急いで天鵞絨駅前まで向かった。

「万里くん、十座くん、大丈夫!?ひったくり犯は――!?」

「これ。」

そう万里が指さす下を見ると
伸びきった犯人がいた。

「捕まえられたの!?」

「相手、自転車だったんだろ?よく追いつけたな。」

「回り込んだから、余裕。」

「とかなんとか言ってさぁ……私がちゃんと誘導したからだよ!?」

「おう、そうだな…心サンキュ。」

「……はぁ!?いきなり褒めんなキモい!」

「キモい言うなチビ!」

「万チャンも十座サンも心チャンもすごいッス!」

十座は手に持っていた赤い鞄を
いづみに渡した。

「これ、監督の鞄だろ。中身、確認しろ。」

「……うん、ちゃんと入ってる。3人とも、本当にありがとう。」

「身内が目の前でやられてんだ。黙って見過ごすわけにはいかねぇだろ。」

「十座くん……身内って思ってくれてるんだ。」

「……――忘れろ。」

十座は少しそっぽを向いて
照れ隠しをしているようだった。

「それじゃ、この犯人は警察に突き出してこようか。」

「しかし、やけにぼろぼろッスね。」

その言葉に万里と十座は
笑いながら
「転んだんじゃね?」
「かもな。」
と話した。

「……いづみさん、いづみさん!!」

「え?」

「ふふっ、万里さんと十座さん、今すっごくいい笑顔でしたよ!」

「……そっか!……心ちゃんも、少し万里くんと仲直りできた?」

「…っ!私の事はいいんですよ!もうっ!!!」


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