「いってきまーす……。」
「心ー。どこ行くのー?」
「ゲーセン!!!!」
「……至の影響受けすぎじゃない?女子高生ブランドのうちにイケメン彼氏でも釣って来なさいよ。」
「それ、お姉が見たいだけじゃん……。」
「あんたも至も顔は良いんだから、使わないと損じゃん!」
「は!ってなんだよぉ!は!って!…行ってきますぅうう!!!」
休日。
ゲームセンターに向かうべく身支度をして玄関を出ようとすると
姉に引き止められた心は、ぶつくさと心の声をもらしながら歩いて行った。
「いいじゃない…ゲーム楽しいもん…。」
普段から、コスプレ動画や画像を投稿することもある心は
見バレ防止のために、マスクをして出かける。
一台の格闘ゲームの台に座ると、手慣れた様子でオンライン対戦を始めた。
「…っくそ!またNEO!?どこ行ってもこの人いるんだけど…!」
ガチャガチャと高速で動くスティックとボタンを押す指に魅せられ
ギャラリーはどんどん増えて行った。
「……っはああ…勝ったぁ……。」
― ― ― ―
― ― ― ―
― ― ― ―
― MANKAIカンパニー ―
「どういうことだ!監督!」
「ごめんなさいっ…!」
「千秋楽にヘアメイク担当がドタキャンとか…笑えないんだけど。」
夏組公演千秋楽。
今まで舞台メイクに参加してくれていた人がいきなり
ドタキャンしたと支配人から連絡が入り
張りつめていた楽屋は、もっと張りつめた。
「リハーサルは無しにしても構わないからなんとかメイクできる奴を探さねえと…!」
一度はいづみに辛く当たってしまった天馬も「すまない…。」と謝り
自分の知るメイク担当者に連絡をした。
「…そうですか…、いえ、お気になさらず!失礼します……。」
「てんま、どうだった?」
「…急すぎて来れないそうだ。」
「だよねぇ…オレも友達に聞いてみたけど、今からすぐは無理ぽだって…。」
「はわわわ…どうしましょう…ボクがもっとお化粧もいらないほどの美形だったら…。僕がスカスカのヘチマのひょろひょろもやしだからぁ……。」
「それは関係ないでしょ……とりあえずは自分たちでできるところまでやるしかないんじゃない?」
幸の言葉にみんな「そうだな…。」と頷き
不慣れながらブラシを手に取った。
楽屋の扉がコンコンと鳴り、いづみが返事をすると
春組の5人が楽屋に入ってきた。
「こんにちはー。」
「ちわー。」
「いらっしゃいダヨー。」
「入る時は『お邪魔します』。」
「オー!イタルそうネ!」
「って…みなさんどうしたんですか?今からリハーサルですよね…!?」
まだメイクもされていない夏組を見た咲也は驚き、いづみから事情を聞いた。
「そうだったんですね……。」
「陣中見舞いで来たけど……。監督がやれば…いやダメ……。距離が近すぎる。」
「そんなこと言ってる場合じゃないだろ真澄!監督、どうっすか?」
「私は舞台メイクはすごく詳しいわけじゃないけど……。」
「……監督さん。」
しばらく悩んでいた至は、いづみに話しかけた。
「俺、今すぐ来れる腕のいいヘアメイクさん、知ってるよ。」
「「「「「えぇ!?」」」」」
「インチキエリート、どこでそんな人釣ってきたの!?」
「インチキエリートじゃないんだけど…。」
「休日、外に出ない至さんがっすか!?」
「そんなに驚く…?」
「と、とりあえず連絡してもらってもいいですか!?」
「おk。…………あ、かかった、もしー?」
― ― ― ―
― ― ― ―
― ― ― ―
ゲームで疲れた目を休ませていた心は
スマホの着信に気づいた。
『もしー?』
「はぁああい!あなたの可愛い心でっす!」
『うん、今日も可愛いよ。』
「見えてないくせにぃー!」
『……高校デビュー成功してるみたいで……。』
「……で、何?」
『今どこ?』
「いつものゲーセン。NEOぶっ倒してきた!」
『おつー。』
「ありー。」
『じゃあ今すぐ動けるな。』
「え?何?」
『急募:腕のいいヘアメイクスタイリスト』
「私?」
『魔法のカード3枚で。』
「………かーらぁーのぉー!?」
『……ハーゲンダッツ』
「のった。」
『ありー♪…じゃあそこにいろ、迎えに行く。一回家戻って心のメイク道具一式持っていくから。』
「わかったー!!!!」
『じゃあまた後で。』
「り!」
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