客席へ急ぐと、いづみのそばに心は駆け寄った。

「お疲れ様です、いづみさん。」

「お疲れ様!メイクありがとう!」

「私の仕事ですから!…調節確認で、ここから見ててもいいですか?」

「よろしくね!」

いづみは、照明の明るさをスタッフに指示し
劇は始まった。

『くそ、殴らせろ!』

『そこからお前が出られたらな。』

『ぜってー殺す!!』

いづみはストップをかけた。

「十座くん、早くはけすぎ。ちゃんと暗転を待って。万里くんも舞台袖の動きに気をつけて。」

「気をつけるって、今のがなんでダメなんだ?」

「暗転しても、お客さんに動きは見えてるの。ただ素早くはけるんじゃなくて、袖を通り過ぎて姿が見えなくなるまで、しっかり役に入り込んだままはけて。」

「なる。」

「奥が深けぇな。」

「こういう細かいところは、実際に本番にならないとわからないところだから、1個ずつ覚えていこう。」

「っす。」

「へーい。」

その話を聞いていた心は
太一に話しをした。

「じゃあ、その点太一くんすごいよね!未経験?だって聞いてたのにしっかり本番の動き出来てたように見えたし!」

「え!?」

「太一、すげーじゃん。雄三のおっさんとかに教わったのか?」

「いやいや、ビギナーズラックッスよ〜タハハ…。」

その太一の姿に
いづみも心も首を傾げた。

「それじゃあ、次のシーンから!」

その後、通し稽古は無事に終わり
寮の談話室で、ミーティングを始めた。

「万里さん、これが今日の通し稽古のまとめです。注意点と優秀点まとめてます。

「へーいっ、あんがとね。」

心から資料を受け取った万里は淡々とミーティングを進めた。

「んじゃ、今日の反省点ふまえて、明日のゲネプロきっちり仕上げるってことで。以上、ミーティング終わり、っと。」

いづみも
「明日のために、今日は早めに休んでね。」とみんなに伝えた。

「っす。」

「へーい。」

「じゃ、俺っち、先に寝よっと。」

「え!?太一くんはっや!」

「それな、もう寝んのかよ。早ぇな。」

「今日の通し稽古で、ちょっと疲れちゃったからさ。」

その言葉に、左京は少し間を置いて
「ちゃんと休めよ。」と声をかけた。

「…おやすみッス。」

太一が談話室から出て、少し経った頃
臣がポケットから衣装のアクセサリーを出した。

「これ持って来ちまってた。」

「なくすと大変だから、私、戻してくるよ。」

そういづみが名乗り出たので、臣も
「悪い、頼む。」と言って
アクセサリーをいづみに渡した。

臣はそのまま心に
「今日はありがとう。」と声をかけた。

「へ?私何かしましたっけ?」

「メイク。すごくよかった…。顎の傷消さずにいてくれてありがとう。」

「あ……、はいっ。その傷は消しちゃだめな気がして……。私の判断が当たっててよかった……。」

「あははっ、あいつと2人で舞台に立ってる気がして嬉しかった。ありがとう、心。」

「どういたしまして!」

そこに勢いよく帰ってきたのは
いづみだった。

「みんな、大変!」

「どうしたんだよ、監督ちゃん?」

「お前、それ……。」

左京や、みんなが目にしたのは
いづみが抱えている
ボロボロになった秋組の衣装だった。

「誰がこんなこと――。」

十座や万里が衣装を探っていると
1枚の紙を万里が衣装のポケットから見つけた。

「『舞台を中止シろ』だってさ。」

そこに丁度やってきたのは、幸だった。

「――ちょっと、何それ?」

「幸くん……。」

「…許せねぇ。」

「せっかく幸が作った衣装、こんなにするとかマジありえねぇ。」

「犯人は見つけたらぜってぇ殺す。」

「だな。」

ヤンキー2人は怒りを露わにしていた。
その中、左京は明日のゲネプロをどうするか
冷静に考えていた。

「どうしよう……何か代用できる衣装で……。」

「カントク、1日だけ待って。作り直す。絶対に本番に間に合わせるから。」

「でも――。」

「……いづみさん、やりましょう!ゲネプロは残念ですが……。幸ちゃん、私も手伝うよう。」

「ありがとう。……半端な衣装で舞台立たせたりしない。こんな嫌がらせに負けてたまるか。絶対完璧な衣装で舞台に立たせてやる。」

「――わかった。支配人、公開ゲネプロは中止で!至急連絡お願いします!」

「は、はい!」

支配人は急いで連絡をしに、談話室を出た。

「瑠璃川。必要なもんがあれば言え。」

「ベースにするスーツが人数分欲しい。この際国産でも新品でもなんでもいい。」

「迫田!」

「へい!」

「24時間営業の紳士服の店行って、人数分のスーツ買ってこい。」

「あいあいさー!」

「飛ばせよ。」

「10分で行ってきやすぜ、アニキ!」

迫田は急いで出かけた。
他のメンバーたちも手伝いをすべく
幸に指示を仰いだ。

「何すればいい。」

「俺も、裁縫なら、多少できると思う。」

「俺、なんでもできっから。ミシンとかやったことねぇけど、秒で覚える。」

「私も、衣装作りは慣れてるから!」

「上等。」

十座は万里に
「その特技、初めて役に立つじゃねぇか。」と話した。

「…ふん。」

「不器用なやつは切り裂かれたパーツ揃えて並べて。ダメージがひどい奴からこっち持ってきて。心はミシン貸して!すぐここに持ってきて。」

「了解!ソーイングセット一式持ってくる!あとトルソー!」

「よろしく!」

全員の集中作業の成果で
衣装はなんとか無事に仕上がった。


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