……そんな俺がたった一度だけ目立てたのがテレビ出演だった。
親戚の紹介で子役のエキストラをやって、
ドラマに一瞬ちらっと映ったことがあった。
それを見ていたクラスメイトが褒めてくれて、他のクラスメイトも集まって来た。
それが人生で唯一、俺が目立てた瞬間だ。
自分には、きっとこれなんだと思った。
子役アカデミーに入って、舞台にドラマにオーディションを受け続けたけど、回ってくるのはエキストラばかり。
どんなに頑張っても俺には徹底的に華がないことを痛感した。
そんなとき、たまたまエキストラで出演したドラマの主役が皇天馬だった。
同い年の天馬を見て絶望した。
自分は絶対、天性の魅力を持ったあっち側の人間にはなれない。
髪を染めて、服装を変えて、努力したって、絶対あっち側には行けない。
そんな風に思いながらも諦めきれなくて、アンサンブルキャストとして、なんとかGOD座に入団できた。
端っこの引き立て役になる。
決して中心にはなれないその他大勢、小学校の時と変わらない。
自分はどんなに頑張っても、ここまでなのかもしれない。
そんな風に思っていた時、主宰のレニさんに呼び出された。
『MANKAIカンパニーという劇団に、新人団員として潜り込め。』
『…え?それって、スパイってことっすか?』
『のみ込みが早いな。おまえには、あの劇団の舞台をめちゃくちゃにしてもらう。』
もちろん、どこの劇団の舞台だろうが、そんなことはしたくなかった。
いつの間にか大好きになっていたお芝居を、汚すことなんてしたくなかった。
『無事に役目を終えたら、次回公演のメインキャストにお前を入れる。』
悪魔のささやきだった。
舞台の中心に立てる、2、3個のセリフじゃない。
もっとたくさんのセリフが言える。
もっとたくさん芝居ができる。
そんな欲望に突き動かされるように、俺はレニさんの言葉に頷いていた。
そうして入団したMANKAIカンパニーには、俺のコンプレックスの塊と言ってもいいくらいの皇天馬がいて驚いた。
何でも器用にこなす万チャンにもひそかに内心嫉妬して、
自分より不器用な十座サンの存在にほっとして優越感を感じていた。
でも、同時に十座サンの誰より強くまっすぐな芝居への気持ちに触れて、罪悪感で押しつぶされそうになった。
芝居がやりたいっていう気持ちは同じでも、役をもらうために卑怯な真似をしている俺と十座サンとじゃ雲泥の差だ。
一緒に稽古していくうちに、秋組の芝居もチームメイトも、春組や夏組の団員達、裏方で一生懸命頑張る心チャンの事も大好きになった。
同時にレニさんに言われるがままに脅迫状を送ったり、衣装や小道具に細工することが辛くて仕方なかった。
秋組のみんなの絆が深まっていけばいくほど、みんなを遠くに感じた。
俺は、ここに入れない。入っちゃいけない。舞台を汚した俺にはもう、舞台に立つ資格はない。
――俺は、何をどうやっても一生償えない罪を犯したんだ。
――――
――――
――――
――――
太一の『ポートレイト』が終わり、万里は
「最後は俺な。」
と言い、自身の『ポートレイト』を披露した。
何も熱中することのできなかった過去……。
毎日喧嘩に明け暮れ、十座と喧嘩をし、初めて敗北を知ったことでの変化…。
十座の芝居への情熱に触発されるよに、どんどんのめり込んでいく自身の事…。
そして、素直になれず自分の大切にしていたはずの幼い時の気持ちを傷つけ
心に辛い決断をさせてしまったことへ初めて感じた後悔……。
『――俺は生まれて初めて、マジになれるモンに出会えたんだ。芝居も、好きなことも、大切にしたい人も……。舞台の上でも、絶対お前をぶちのめす。…以上、俺のポートレイト、終わり。』
いづみは感動しながら
「すごくよくなったよ!」と拍手をした。
「うん、十座のもよかったけど、万里のも並ぶな。」
「私は少しくすぐったかったですけど……。」
恥ずかしそうに顔を隠す心を見て、万里は優しく微笑んだ。
「それに、太一くんのも……。」
太一の方を見ると、まだ少し暗い表情をしていた。
それをみた左京は声をかけた。
「お前の気持ちはよく分かった。辛かったな。」
「わかってやれなくて、悪かった。」
「太一くん、私もごめんね……。メイクの時、気づいてたのに……。」
「てめぇのしたことは許されることじゃねぇ。でも、てめぇの事は許す。」
「兵頭…どっちだよ。」
「罪を憎んで人を憎まず。太一の事は許すって事だろ。」
「――っ。俺、やっぱり、みんなと芝居がしたいよぉ……っ。」
「太一くん……。」
また静かに泣き始めた太一の涙を心はそっと、ぬぐい始めた。
「お前は、どこの七尾太一なんだよ。」
「―――ぇ?」
万里の言葉に、太一は驚いた。
「GOD座の七尾太一なのか?それが、今の本当のお前なのか?」
「俺は――。でも、そんな今更むしのいいことなんて――。」
「いいから、言ってみろ。」
十座も「お前が本当の居場所だって思う場所を言えばいい。」と
太一に話した。
心も
「大丈夫だよ…。」と言い、傍を離れず背中を擦った。
「俺は――っ。MANKAIカンパニーの……秋組の七尾太一ッス!」
「……上出来。」
万里は優しく笑った。
「お前は、俺たちが絶対守る。GOD座とかいうゲス野郎どもには渡さねぇ。」
「ああ。舞台をぶっ壊すような奴らの所なんて、戻る必要ねぇ。」
「演劇やる人間の風上にも置けねぇ。」
「太一はここにいていいんだ。」
「太一くんは、私たちに必要な仲間なんだから!」
「みんな――。」
心は、「あーほら…また泣くし…。」と笑いながら
自分の洋服の袖口で太一の涙を拭いた。
「お前ら、GOD座が何してこようが、絶対明日の舞台成功させっぞ!」
万里の意気込みに、みんな「おう!」と答えた。
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