「…いよいよ最後の冬組が決まるわけか。」

劇場で行う冬組オーディション。
会場には秋組といづみがいた。

左京はどこか感慨深い様子で、いづみに話した。

「あれ?そう言えば心ちゃんは??」

「あー、心なら至さんからのパシリでwebマネーカード買いに行くってよ。戻ったらすぐこっち来るってさっき連絡あった。」

「そっかそっか!」

「つか監督ちゃん。俺らのオーディションの時は定員ギリギリだったけど、いつもあんなもんなのか?」

「うん。スカウト枠で2人くらい声をかける以外は、いつも2、3人しか来ないから。」

「今回のスカウト枠は??」

「うーん、それが、思いつく人がいなくて。人数が集まるかちょっと不安なんだけど……。」

「春組からの公演で固定ファンもついたことだし、知名度もアップしてるから大丈夫じゃないか?」

「そうかな?」

臣の言葉に、いづみは「だといいな。」と微笑んだ。

「オーディション告知のチラシもはけたし、大丈夫ッスよ!」

「そうだよね!」

そこに、物静かな青年と長髪の男性が
「失礼します。」と言いながら入ってきた。

「来た…!」

「おい、オーディション参加希望者か?」

「−−う、うん。」

「てめぇが受付にいたら、せっかくの希望者が帰っちまうだろ。」

「摂津には言われたくねぇ。」

「2人とも下がってろ。俺が出る。」

「いや、左京にぃも下がってほしいッス!」

そこに帰ってきた心も入ってきた。

「………何やってるんですか、左京さん……。そんな怖い顔してたら希望者帰っちゃうんで下がってください。」

「………。」

「あれ?君は……。」

「あ、こないだの。」

物静かな青年は、心を見ると声をかけた。

「君、ここの劇団の人だったんだね。」

「ええ、裏方でメイク担当してます!」

「……心、知り合いかよ。」

「万里さん、顔怖いよ……。この間、道に咲いてるお花のこと教えてくれた人がいたって言ったじゃん?そのお兄さんだよ。」

「なんだ……。世話になったな。」

「う、うん……。」

万里が安心しながら物静かな青年に伝えるも、少し苦笑いだった。

「それで、ボクたちはどうすればいいのかな。」

長髪の男性が話すと、万里も十座も何か気づいたようだった。

「あれ?あんた、たしか前に……。」

「ああ、覚えててくれたんだね。」

「あの時は、あざっした。」

「どうしたしまして。」

「2人の知り合い?」

「前にちっと助けてもらって。」

「そうなんだ。」

心はいづみに、こそっと
「綺麗な人ですねー……。」と話した。

「ねー…。でも男性だよ?」

「世の中なにがあるかわかりませんね……。」

長髪の男性は、秋組の千秋楽を見てから演劇に興味が湧いて、オーディションに足を運んだと話した。

「今まで、演劇の経験はありますか?」

「まったくないよ。」

「劇団にはいると、仕事と稽古の両立ということになりますけど、その辺りは大丈夫ですか?」

左京も心配そうに
「残業が頻繁にあったり、休日勤務があると厳しいかもしれねぇ。」と補足した。

「その点は問題ないよ。今は休職中だから。」

「前はどんなお仕事をされてたんですか?」

「町の添い寝屋さんをしていました。」

パワーワード『添い寝屋』に、いづみは驚いた。

「あー、それって、夜のオシゴト的な?」

「きゃー……だからそんなにお綺麗なんですね……。」

「お、大人ッス!」

「いや、もしかしたら店名なんじゃないか?添い寝屋っていう名前のカフェとか。」

「逆に怪しすぎるだろ、伏見。」

長髪の男性はふふっと笑って
「みんなが想像しているようなふらちなことはまったくしてないよ。」と話した。

「ほらぁー、万里さんったらお盛んなんだからぁ。」

「心も、きゃー!とか言ってたじゃねぇかよ!こんの、チビ!」

「うっさい!デカ!」

「コラ!摂津も茅ヶ崎もうっせぇぞ!」

「「はい……。」」

「ふふっ、仲がいいんだね。添い寝屋っていうのは、一緒に添い寝して、その人の悩みとか不安とかを聞いてあげるだけの健全なお仕事だよ。」

「は、はぁ、なるほど……。」

いづみも流されて、何故か納得してしまった。

「だから金持ちそうな女と歩いてたのか。」

「ああ、そうそう。あの時は仕事中だったんだ。」

万里は、物静かな青年に
「で、そっちのアンタは?経験者なんすか?」と問いかけた。

「え?俺?」

「今まで演劇について勉強していたことはありますか?」

「ええ、まあ、経験者と言えば経験者ですけど……こういう劇団に入っていたことはありません。アマチュアレベルの学生演劇ですし、しばらくブランクがあるから未経験者と同じ扱いで構いません。」

随分と謙虚で控えめだな…といづみは思ったようだった。

「それじゃあ早速ですが、お2人には簡単な課題をしてもらいたいと思います!」

いづみは軽い自己紹介の後に、スマホを使って1人芝居をお願いします!と言った。

「まずは−−元添い寝屋さんからお願いします!」

「ふふっ、元添い寝屋さんか。雪白東だよ。自己紹介っていうのも難しいね。今までまったく演劇経験はないけど、職業柄色んな人と会うことが多かったから、人間観察は得意化もしれない。」

「なるほど。演技する上では役立つ長所ですね。それじゃあ、課題をお願いします。」

「んー、スマホを使って1人芝居か……。」

悩みながらも東は、王道の電話での1人芝居を選んだ。
未経験者ながらも勘のよさそうな演技に、いづみは期待を大にし、隣にいた心は綺麗な顔立ちの東に
「舞台映えする華やかさですね!…メイクが楽しみです!」と微笑んだ。

「それじゃあ、次の方お願いします!」

「……はい。…月岡紬と申します。よろしくお願いします。」

簡単な自己紹介後に、紬はじっとスマホを見て動きを止めた。

「おい、どうしたんだ?」

「課題難しいんじゃね。」

十座と万里が心配すると、左京は
「…黙ってろ。」と言い、舞台に見入った。

「……ふぅ。」

ひとつため息をついた紬は、周りをキョロキョロとし、誰かを待っているのだと見る側に大きな想像を与えた。
台詞1つ入らない演技ながら、スマホでメッセージを送り、返信で何か相手に不都合があったことを知り、動揺した様子で立ち去る……。

1つ1つの丁寧な演技に、秋組、いづみ、心は引き込まれていた。

「−−すごいッス!」

「最初は何をしているのかと思ったけど、待ち合わせしてたのか。」

「全然セリフなしであれだけ表現できんだな。」

「やるな……。」

「繊細なお芝居でしたね……。」

左京はふっ、と笑いながら
「…何が未経験者扱いだ。」と言った。

いづみもその言葉に少し共感したようで、自信のなさそうな紬に内心疑問を抱いたようだった。

2人の課題も無事終わり、いづみは2人に合格だと伝えた。

「え?」

「おや。ずいぶんあっさり決まるんだね。」

「入団おめっす。」

「っす。」

「よろしくッス!」

「よろしくお願いします。」

「これからMANKAIカンパニーの一員として頑張りましょう!」

「……はい。」

「こちらこそよろしく。」

「……で、監督さん。2人集まったわけだが、残り3人はどうすんだ。」

「え!?え、ええと……もう少し待ってみましょう!」

しばらく待っても、希望者が来ることはなかった………。

「来ねぇな。」

「知名度どうした。」

十座と万里はストレートに愚痴をこぼした。

「うーん、5人くらいならすぐに集まるかと思ったけど、なかなか難しいな。」

臣も少し苦笑いをしながら話した。

「あんなにチラシ配ったのに、おかしいッス!」

「まぁ、フライヤーも町で手渡されれば無意識に受け取っちゃう人もいるし…その中の何人の人が目を通すかだよね……。」

「茅ヶ崎の言う通りだ。こんなもんだろ。……監督さん、春組の時みたいに集めてきたらどうだ。」

「あ!!そうか!」

万里は「春組の時??」と不思議そうに聞いた。

「ストリートACTで興味を持ってくれた人に声をかけたの。」

「へー、それ、いんじゃね。」

「え!?それでうちのお兄入ったの!?奇跡ー………。」

いづみは、早速だけど…と言いながら
東と、紬に協力をお願いした。

「心ちゃんはどうする?」

「私はお夕飯の買い出しに行きますね。臣さんもいづみさんもストリートACT行っちゃいますし。」

「そう??」

「臣さん、今日は何にしますか??」

「じゃあチキンの香草焼きとほうれん草のパスタの予定だから、下ごしらえとかお願いできるか?」

「はい!サラダとスープも用意しときますね!」

「助かる!」

「っし、行くか!」

「おう。」

「一本釣りッス!」

「みなさん頑張ってきてくださいねー!」

心はブンブンブン!!!と手を振って送り出した。


prev next
back