どうやら、奏は貧血だったようで
事務所のソファーでゆっくりと寝ていた。
事務所には、紡、一織、奏の3人だけだった。
「まったく…コーチもコーチですよ。こんな時に倒れるなんて…。無事で何よりですが。」
「すみません……。」
「……どーせ逢坂さんが出て行ったのが少し気にかかってるのと、疲れと、不安が一気に来たんでしょうけどね。なんで追いかけなかったんですか?」
「それは…環くんが後追っていったので、大丈夫かと思って……。」
「……そうですか。マネージャーは、なぜあの2人に直接聞いたりしたんですか。どうして私やコーチに相談しなかったんです。」
「一織さんはメンバーだから…。人気にかかわる話を聞いたら、複雑かなと思いまして…。奏さんは、最近顔色がよくなかったので…迷惑かと思って…。」
「迷惑って…言わないほうが迷惑になってコーチ倒れたんじゃないですか!」
「一織くん…言いすぎだよ…。倒れたのは私の自己管理力の無さだし…。」
「それはもちろんです!」
「うっ…はい…すみません…。」
「まったく…マネージャーも今更何を…私の順位を当てますよ。今は上から4番目くらいでしょう。」
「あ、あたりです…。」
「受けるにしても、断るにしても、マネージメント側が先に方針を決めてメンバーに伝えないと。メンバーに聞いたって、無用な波風を立てるだけじゃないですか。」
そこに、奏のマグカップをもって、陸がやってきた。
「俺だったら、そうは思わないよ。……奏さん大丈夫?これ、あったかい紅茶です。」
「陸くん…ありがとう。」
「陸さん…。」
「……後から引き受けたって言われても、断ったって言われても、相談してくれればいいのにって思う。マネージャーは俺たちの意見……。2人の意見を大事にしようとしてくれたんですよね。」
「はい……。」
「…だけど、2人の意見が真っ二つに割れたと。」
「……はい。」
「……でも…。どうして環は、あんなにテレビに執着するんだろう…?」
「………環くん…壮五さん…。」
「……しばらくしても帰ってこないようであれば、逢坂さんに連絡しましょう。あまり良い方法ではないですが、コーチが倒れたと知れば飛んで帰ってくるでしょう。」
「そんな!」
「嘘ではないですからね。それに、コーチのためにもですよ!」
「……なんで?」
「……なんでって、自分の胸に手を当てて考えてみたらいいじゃありませんか!」
「なんでそんなに怒ってんの一織?」
「七瀬さんには関係ないです!」
「…???」
そのころ、事務所を飛び出してしまった壮五と環は
道で偶然すれ違った、八乙女事務所の社長に話があると、ファミレスに
連れてこられていた。
「うちなら華々しいデビューを飾ってやるぞ。」
「やんねえよ、あんたのとこでは、あいつらとはやれないってことだろ?一緒にやってきたのは、あいつらだ。あんたのとこには行かない。」
「環くん…。」
「構わないが、今の事務所では妹には会えないぞ。」
「!!!」
「…妹?環くんの……?どういうこと…?」
どうやら八乙女社長は、環の家庭事情をすべて調査したようで、母は病死、その後父の失踪。妹と一緒に施設にはいるも妹だけが中小企業の社長に引き取られたが、経営難に陥り倒産。夜逃げ同然に消えた家族とともに妹もいなくなってしまったということだった。
「なんで、知って…。」
「君は妹と再会するために、メディアに露出の多い芸能人を目指しているんだろう。」
「…環くん、そうだったのか……。」
「テレビに出れば、あいつから俺を見つけてくれるんじゃないかって……。」
その後も、八乙女からの言葉巧みな引き抜きが続こうとしたため壮五は慌てて
話を切った。
「環くん、耳を貸さなくていい!行こう。失礼します、八乙女さん。」
「……そっちでデビューしたら、テレビに映してくれるのか?」
「環くん!」
「もちろんだ。CMタレントになって、君は毎日テレビに顔が映る。妹と暮らしていけるだけの、報酬も約束しよう。」
「……。」
「逢坂壮五くんと一緒に、というのが、うちの条件だけどね。」
「お断りします。……?失礼します、連絡が入りまして。」
「構わん。」
壮五がラビチャを見ると、一織からで「奏さんが倒れました」とだけ
書かれていた。
「っ!!!!環くんいくよ!……環くんもこの案件に関しては落ち着いて一緒に考えよう。」
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