「「ひっ……!」」

「……あ、環くん…。」

「具合どう?」

「も、もう大丈夫だよ。環くんこそ、どうしたんだ?」

「そーちゃん探してきた。かななも一緒だったんだな。ひとつしかもってこなかったわー…ごめん。」

そういって環は缶ジュースを壮五に渡した。

「はいこれ。シー……?シークヮーサー?買ってきた。健康になんだって。飲めば?」

「………いい子なんだよね…。」

「は?」

「ふふっ、壮五嬉しそう。」

「ふふっ、なんでもないよ、ありがとう。」

「もー帰ろうよ。夜の海怖えじゃん。ごうごう言ってさ。」

「海の中に入らなければ大丈夫だよ。」

「手がいっぱい出てきたら?」

「環くん可愛いっ!」

「はぁ!?可愛くねえよ!」

「ふふっ、環くん、どこから手が出てくるの?」

「海。」

「あはは。怖いな。」

「言ってんじゃん。」

「僕らも花火があればよかったね。そうしたら、環くんをたのしませてあげられたのに。」

「確かにそうだねー。」

「??そーちゃんも、かななも花火してえの?」

「なんとなく、そう思っただけ。」

壮五は環を浜側にして、自分が波側で歩き出した。

「環くん、砂浜の方を歩きなよ。手が伸びてきたら、盾になってあげる。そうしたら怖くないだろ?」

「やだよ。そのほうが怖い。」

「「え?」」

「自分がいなくなるより、誰かにいなくなられる方が怖いもんだろ。そーちゃんは違う?」

「……そうかもしれない。」

その話を聞いた奏は二人の間に入って手を握った。

「じゃあこうしよ!環くんも、壮五も、どこにもいかないように…私が捕まえとく!」

「あははは!奏らしいね!」

「おー!俺男だから、ちゃんとかななの事守ってやんよ。」

「環くんかっこいいじゃないか!」

「だろ?……そーちゃん笑ったな、よかった。」

「え?」

「それ飲んで、元気になって、帰ろうよ。そんで、ちゃんと今日は部屋で寝ろよ?」

「うん、心配かけてごめんね…。」

「壮五よかったね!」

「かななもちゃんと寝ろよ!」

「はいっ!ごめんなさい!…で、みんなは?」

「どっか行った。」

3人は仲良く手を繋いでホテルに帰った。

こうして無事に、IDOLiSH7初のPV撮影ロケは終了した。
みんな疲れたみたいで、翌日はぐったりとしていたが、よい撮影ができたと
紡も奏も満足だった。

休み明け、事務所に入った紡と奏は驚きの光景を目撃した。

「……なにこれ!?事務所が荒らされてる……!」

「と、とにかく社長に連絡しましょう!そして警察に……あわわわわ!」

「奏さん落ち着いて!……社長呼びましょう!」

急いで社長に事務所まで来てもらい
状況を見てもらった。

その後、出勤した万理にも状況を説明した。

「空き巣かな……。なくなったものがないか確認しよう。」

「…し、社長!デビュー曲のデモテープがどこにもありません!」

「……デビュー曲の……?」

万理の報告に社長は顔をしかめた。

その後すぐに、紡と奏も報告に向かった。

「大事な書類やお金は、全然手がつけられてないみたいです。」

「……っ!社長!レッスン用の楽譜も見当たりません!」

「デモテープは、コピーがあるからいいですけど……。曲だけ盗む泥棒なんて、まさか、いませんよね……?」

「……いや、わからない。あの子たちに預けた曲は、それだけの価値があるものなんだ。」

「お父さん…?」

「……良くないことが、起きなければいいが……。」

「………社長、この業界ではご心配されてるような案件が起きることはごく少数です。その数パーセントにかけましょう……。」

「奏さん…?」

「……そうだね。変わりなく次の路上ライブでも披露してもらおう。」

「はい……。紡ちゃん、次の路上ライブの予定を組みましょう。そして……今回の事はみんなには内密に……。」

「え……。」

「時が来たら話しましょう。」

紡に言い終わった後の奏は、気持ちを切り替えて
笑顔で予定を組み始めた。

予定通りの路上ライブの日
嵐の中でライブをした、あの駅前だった。
真夏のカンカン照りの中
7人は汗を散らして楽しそうにパフォーマンスをした。

「みんなー!聞いてくれてありがとうー!」

「「陸くーん!」」

「IDOLiSH7最高ー!!」

「次の曲でお別れです!」

「「「「えー!!!」」」」

「今日、電車うごいてんじゃん?」

「あははは!環くんかわいいー!」

「新曲をお披露目したいと思います。七瀬さん、曲紹介を…。」

「うん!まだ詳しく言えないけど、俺たちにとってスペシャルなものになりそうな予感の曲です!タイトルは…。」

タイトルを言う前に、駅ビルの大型ビジョンに映し出されたTRIGGERの映像。
どうやら新曲らしい。
そこから流れる曲に7人も紡も奏も驚いた。

「……!この曲……。」

今までのTRIGGERの曲調とは違うポップなメロディー
かわいらしいダンスは、見慣れたものだった。

「……似てる、つか…。」

「……私たちのデビュー曲じゃないですか…?」

驚いてしまった7人は曲を披露することを忘れており
観客からは、新曲はー?という問いかけがきた。

「えっ……、あ……。」

戸惑う陸を見て、壮五はインカムで奏と紡に問いかけた。

「奏、マネージャー、どうする?ほかの曲を……。」

『えぇっと……。奏さんどうしましょう…!』

『……同じのやりましょう。』

「「ええっ!?」」

「お兄さんも賛成。今日のところはだ!……そうだろ?コーチ。」

『そうですね。下手をすれば明日からこの曲をみなさんが歌えなくなってしまう可能性もあります……。』

「……わかりました。それじゃあ、みんなー!新曲いきまーす!」

苦渋の決断で歌い始めた7人だが、観客からは、TRIGGERの新曲の即興コピーなのか?とざわざわし始めた。

「……こんなことは許されない……。」

自分のリズムを崩すことの少ないナギだが、少し浮かない顔をしているのを
奏は感じ取った。

路上ライブもなんとか終わり…

午後は7人ともオフだった。
7人は着替えて、紡と奏と一緒に事務所に戻ってきた。

TRIGGERの新曲に関しては、万理もSNSで聞いたようで、激怒しているようだった。

「八乙女事務所が、新曲のデモを盗んだに決まってます!こんな恥知らずなことをして…っ。」

「作曲をしてくれた人が、手違いでうちと向こうに送った可能性はないんですか?」

「それはないね。」

「社長…。」

「それに、八乙女事務所は確か…専属の作曲家を雇ってたはずです。」

「さすが元アイドルですね、奏さん…。」

陸は深刻そうな顔を上げて、ハッと何か思い出したようだった。

「……思い出したんですけど、ミュージックフェスタの前、変な人に会ったんです。」

「変な人とはなんですか?七瀬さん。」

「未発表の曲をよこせって。インディーズなら未発表の曲が、いくつかあるだろって。その人に吸入器を踏まれて、発作を起こしかけてしまって…。」

「なぜそんな大事なことを今まで忘れていられるんですか、そこから聞いてもいいですか?」

「一織が泣いて飛び出したからだよ!」

「くっ……!」

「……過ぎたことですよ、一織くん。陸くんも思い出してくれてありがとう。……社長どうなさいますか?」

「これからは事務所の管理、特に曲の管理には気を付けよう。」

「デビュー曲はどうするんですか?PVまで撮ったのに…。」

「もう時間がない。既存の曲で行くしかない。今からレッスンしても、MEZZO"の2人が倒れてしまう…。PVもスタジオを借りて撮影し、沖縄の絵は使えるところだけ使おう。」

万理と奏は、はい!と返事をした。

だが7人と紡の顔は曇ったままだった。

「くよくよしない!デビューを待ってるファンのために、明るく笑顔で、頑張ろう!」

「「「「「「「「……はい!」」」」」」」」

こうして7人のデビューはなんとも苦いものになってしまった。

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