その次の日の朝……。
事務所内はピリピリとした雰囲気に包まれていた。
どうやら、陸の家庭事情についてかなり悪質に盛られた記事が書かれたようだった。
「……そんなわけないだろ!なんだよ!?こんなの嘘ばっかり!」
「さすがに悪質です!抗議します!」
「抗議しても無駄ですよ。裁判でもしなければ、いちいち謝罪文なんて載りません。」
「天にぃはどうするんだ?否定してくれるかな、ちゃんと…。」
「基本ノーコメントですよ。こんな記事、ほとんどの人が信じません。」
「でも、信じる人もいるだろ……?」
「……壮五くんの家庭事情もすっぱ抜かれてますね。さすがに社名は出てませんが。大学在籍中の写真まで出回ってます。……しかも何故か奏さんの家庭事情も……。元アイドルとは書かれてませんが……『元お嬢様がマネージャー』と書かれてますね。だから何だって話ですが……。」
「ふざけんじゃねえ!!!」
「今度はなんです?」
「環くんが妹を探してる件、売名のためのヤラセだって。嘘扱いされてるんだ。」
次々とゴシップ記事の内容はみんなの目に入り
大和は大物俳優の隠し子疑惑
ナギは北欧小国の王子
一織、三月の実家の事まで書かれていた。
「……それにしたって、悪意の多い記事ばかりです……。誰かが背後で動いてるんじゃないですか?」
「……そういえば、奏さんはどちらに?」
一織が、朝から見ない奏を、万理に聞いた。
「……出張に行ってもらってます。」
「出張!?」
「え、壮五くん知らないの……?壮五くんには言うと思ってたんだけどな……。」
「………奏、まさか……。」
心当たりのある壮五胸がざわつくのを感じた。
「………久しぶりに見るけど……おっきいな……。」
奏は大きな門の横にあるインターホンを押した。
『はい。』
「……お久しぶりです。奏です。」
『おっ!?お嬢様!?すぐ開けます!』
大きな門は開き、長い庭道を通り抜けると、また大きな扉が目に入る。
前に立つと、ドアはゆっくりと開き、玄関ホールのサイドには
多くの使用人が頭を下げていた。
「「「「おかえりなさいませ。お嬢様。」」」」
「………ただいま……帰ってまいりました。」
玄関ホールにある長い階段の上には
男性と女性が立っていた。
「……お父さん、お母さん……。」
「良く帰ってきたな。奏……。」
「お話がしたいです。2人と。」
「……田中、例の間を開けろ。」
「はっ!」
使用人が部屋の準備に向かうと、歌彦は奏に手招きをし
「こちらにきなさい。」と言った。
「………おかえり、奏。」
「……長い間開けていてすみませんでした…。」
「……もおおおお!お父さんもお母さんも心配したんだぞ!!!!GPS切っちゃうし!」
「…へ!?」
「あーもう!心配したあああ……。台風の日のニュース見てると、ちゃっかり映っちゃってるし!?こんな美人は奏だけだろ!?お父さんすーぐ気づいた!」
「あ、えっ…は!?」
「生放送番組も出ちゃうじゃん!?だめじゃんかーいきなり出たらー。録画できなかったよー……。」
「お父さん…!?」
「いきなり事務所の話もされちゃうだろ!?……まったく、消すのにどれだけ頑張ったか……。」
「じゃああれ、やっぱりお父さんが……。」
「貴方、奏ちゃんのお話聞きませんこと?」
「はっ!そうだった!……どうしたんだい?奏……。」
「……まず、2人に謝罪がしたいです。ごめんなさいっ………。親でもないだなんて……あんなこと言ってごめんなさい……。ここまで大きく育ててくれたのも、たくさんの愛を注いでくれたのもあなた達2人なのに……っ、ごめんなさいっ……。」
「何、そんなことですか?奏ちゃん?……頭を上げなさい。」
「へっ…?」
「親はね……子供に何を言われても平気ですよ。あなたが元気でいてくれれば……素敵な毎日を送ってくれれば……生きていてくれれば……それでいいんです。確かに、お腹を痛めて産んだわけでもなければ、血がつながっているわけでもない……。それでも、あなたは、私たち2人の娘なの…。」
「お母さん……わぁあああああん…ああああ…!」
「……奏ちゃんは、いつも泣き虫ね……。」
「ははははは!……泣き止んだら、今何をしているのか、聞かせてくれ。」
「うぅぅう、うん…。」
だいぶ泣きはらした奏は、今小鳥遊事務所でMEZZO"のマネージャーをしていること、コーチをしていること、事務員をしていること、歌うことも踊ることもまだ好きだと伝えた。
「そうか、それはよかった……。」
「それでね、お父さん……。本当はこんなことするべきじゃないってわかってるんだけど……。」
「ゴシップ記事の事だね?奏の事も少し書かれていたよ……。」
「…っ、そう…。私はいいんです!でも!あの7人には笑っていてほしいんです!」
「ゴシップ記事の会社をつぶせばいいのか?!」
「だれもそこまで言ってません!……情報を抜いたんじゃない、誰かが抜かせてるんです。その誰かを……調べたい。」
「それだけでいいのか!?」
「記事を書かれるのは私も承知の上なんです!でも……親をつぶさないと、子は減らないでしょ?」
「奏……いつからそんなサディスティックに……。」
「………私にも、守りたいものが出来たんです……。」
「………そうか、わかったよ。徹底的に探そう。」
「ありがとう、お父さん。」
「ただし条件!」
「…条…件!?」
「………またいつか、ステージに立ってくれるかな?」
「え……。」
「テウじゃなくてもいい……、奏の歌が聞きたいんだ。楽しそうに踊っている奏を見たい。」
「お父さんは、音楽好きだよね?」
「ああ、好きだよ。………昔な、好きなミュージシャンがいたんだよ。あまり売れていなかったけど……音楽が大好きなことはすごく伝わって……。」
「その人は今…?」
「亡くなったよ……若かったんだけどね、体を壊してしまったらしい……。僕はあの人のようにはなれなかった……、子供に夢を託すのは嫌な親だが……許してはくれないか?」
「嫌な親じゃないよ……私が好きなことさせてくれる。兆の子どもでよかったよ。」
「ありがとう……。あとね!お見合いの話があるんだけどー…!」
「結構です!!!!!!!!!」
夜になり、スマホを見ると
壮五から何件か着信が入っているのを確認した奏は
急いで折り返した。
「も、もしもし!?壮五!?ごめんなさいっ!」
『ああ、ごめんね……忙しいとは思ってたんだけど……。実家かな?』
「どうしてわかって…っ!」
『あはは、奏の事はわかってるつもりだよ。……ゴシップ記事の事かな?』
「……うん、ごめんなさい。勝手なことを…。」
『いいんだよ。……それで一つお願いがあるんだ。』
「お願い…?」
壮五は、今日の収録が、環の妹探しの内容だったにも関わらず
父親が出てきたこと……
父親を送り込むように指示をしたのが誰なのか調べてほしいとのことだった。
「お父さんって…!環くんは!?……ああぁ!田中!?この案件も早急に調べて!……ごめん壮五!で?」
『相当暴れちゃったよ……。収録だからよかったけど、生放送だったら解散ものだってみんな……。ミスター下岡さんにもけがさせちゃって……。』
「えっ!?……謝罪には……。」
『断固拒否だよ……みんなもみんななんだ……、環くんの気持ちも考えないで…。』
「MEZZO"はますますいいコンビになっていますね!私は嬉しいですよ!これからこの先も……。」
『そのことなんだけど……。社長に解散だって言われてしまって……。』
「解散……?MEZZO"が!?」
『いや、IDOLiSH7もだよ……。』
壮五は、IDOLiSH7がJIMAにノミネートされたことを伝えた。
だが7人だれ一人として喜ばず……。
社長から言われた解散を言い渡されたらしい。
『目指していたものに手が届きそうな時に、喜びを感じないんだったら……もうそれは夢ではない…アイドルなんか辞めてしまって……。』
「……それで?壮五は?どうしたいんですか?」
『こんな終わり方は嫌だよ!JIMAだって!憧れた舞台だ!……そう思ったら、自然とゼロアリーナに足が向いて……今、歩いて行っているんだ…。』
「そっか……。」
すると後ろから、「お嬢様!」と声がかかった。
「ちょっと待ってね!?……なに田中?」
「すべての資料…整いました。」
「『早くないですか?』」
「ってわけで……ゼロアリーナね?」
『へ?』
「迎えに行くから……待ってて。じゃあ。」
そういって、奏は電話を切り
帰り支度をした。
「田中!車出して!」
「はい!」
「なんだぁ……奏、もう帰っちゃうのー!?お父さん寂しいなー…。」
「やめてください、ぶりっ子は!……また帰って来ます。その時は……。」
壮五も一緒に…と言いかけたが、笑ってごまかした。
「……行ってらっしゃい。素敵な毎日を送るんだよ。」
「はいっ!」
リムジンは、ゼロアリーナに向かって走り出した。
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