01 「茅ヶ崎ー!今から、外回りか?」
「ええ、1週間後の商談先はお得意様なので、前もって挨拶を……。」
外回り用の鞄に書類をまとめる至に、上司が話しかけてきた。
「そうか。誰か1人つけようか?」
「いえ、僕一人で大丈夫ですよ。」
「そうか……。」
「では。」
自分の席を離れると、1人の女性社員がハンカチを落として至の前をスタスタと歩くのが見えた。
気付いていないのか、拾いに戻ってくる気配もなかったため、至は
スッと拾って、女性社員の元まで駆け寄った。
「…失礼します。ハンカチ落とされましたよ?」
「え……、あっ!ちっちちち、茅ヶ崎さんっ!!!」
「気をつけてくださいね?……では。」
「あ、ありがとうございました……。」
ニコっと微笑んでハンカチを渡し終えた至は、外回りに急いで出た。
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「…てことがあったのぉ…!!!」
「うっそ!いいなぁ……。」
「茅ヶ崎さんかっこいいし、仕事できるし、優しいし、素敵よねぇ……。」
給湯室では、先ほど至にハンカチを拾ってもらった女性社員が
同僚2人に話をしていた。
「前からいいなぁって思ってた人に、まさかハンカチ拾ってもらえるとか……夢みたいで……。」
「いいなぁー……、あ!そういえば3階部署の子の情報だと、茅ヶ崎さん今、彼女いないらしいよ!」
「え!?まじで!?……あー、でも仕事忙しいし、恋愛とかそういう時間ないのかな?」
「ってことはよ?……まだ同社内の私たちって、チャンスあるんじゃない?」
「「確かに!!!!」」
「ランチとかいつもどうしてるんだろうね……。」
「お弁当とか見たことないよね???」
「近くのカフェとか?」
「1人でふらーって行くって聞いたよ?」
「ミステリアスな所もまたいいよねぇー……。」
「「ねぇー……。」」
「茅ヶ崎さんと付き合えたら、絶対毎日が幸せだよね!?」
「めっちゃ優しくしてくれそう!」
「うんうん!!!!おしゃれなカフェとかバーに連れて行ってくれて…車持ってるみたいだし!」
「ホントに!?何乗ってるの?!」
「確か…300番台だったよ!」
「「すごーい!」」
盛り上がている話を聞いてしまったのは、外回りから帰ってきた
至だった。
「……うーわ……。まじか…………。」
ばれないように、至はその場から移動した。
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「………って話を聞いてしまって……。」
「「ふーん。」」
「いや、お前ら!(義)兄の話をちゃんと聞きなさい!」
寮に帰った至は、自室に万里と心を呼び、ゲームもせずに
今日の話を説明した。
「いや、至さん相変わらずモテるなーって。」
「外では王子様だもんね。」
「家では戦士兼勇者たるちしてるから、お兄ちゃん。」
「うっざ…っ!」
「まぁ、いいんじゃないっすか?至さんとしては、ランチ誘われたらどうしようかって事っしょ?」
「そう。断ると、変に詮索されるのわかるし、だからと言って一緒に行くとまた次も!とか言われると面倒だし。」
「えー?お兄は彼女作ろうとか思わないの??」
「俺にも、いいなって思う人くらいいるからね。」
「「えっ!?」」
「いたら悪いか!」
「いや、悪くねぇっすっけど…びっくりしたっつーか……。」
「へー…って思っただけ……。」
「どうしたらいいと思う?義弟、妹よ……。」
「んー………。まだ、何も話が進んでるわけじゃねぇんっすよね?ならしばらく様子見たらどうっすか?」
「相手の出方を見てから行動に移る。これ、戦場の鉄則だよ?」
「ゲーム脳か、お前ら……。」
「「あんたに言われたくねぇよ。」」
「つーか、至さんがゲームもせずに悩むとかマジウケるっ……!」
「俺の素晴らしい日々が脅かされてるからな。」
「外面被るのも、体力いるしねぇ……。平穏な日常がそれで保たれてるんだから必死にもなるよね。」
「……よし、ペンキ塗るぞ。」
「「切り替え早っ。」」
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翌日。
出社すると、昨日の女性社員が、何やらもじもじとしながら
至のデスクまで近づいてきた。
「あ、あのっ!茅ヶ崎さんっ……!」
「あ、昨日はどうも。今日は落としてないですか?」
「はいっ!ちゃんと持ってますっ!」
「そうですか。それは良かったです。」
「と、ところでなのですが……、ち、茅ヶ崎さんって……お昼はお弁当とか…ですか?」
(なるほど、相手も出方を見てるということか……。さて、俺がどうやったらこの厄介なトラップに引っかからずに解除して逃げ切れるか……だな。火力極振り俺強いモードは一旦解除か……。DEXに振るしか……。)
「そうですね……。毎日の気分ですね。今日は1人で近くのカフェのパニーニでも食べたい気分なので……。」
「そ、そうですか……。し、失礼しますねっ!」
「はい。」
(っし、今日は裏路地の定食屋に行こう。)
昼時、給湯室ではまた例の3人が会議(?)をしていた。
「今日のお昼は、カフェでランチだって……。」
「「おしゃれー!!!!」」
「でも、朝一で話しかけられるなら……明日はお弁当作ってきたらどう??」
「えっ!?」
「そんで、渡しちゃえば!?」
「気分じゃないって言われたら…?」
「大丈夫でしょ!!!…てか、私たちもカフェ行ってみる??茅ヶ崎さんいるみたいだし!」
「そうだよ!行こう!!!」
「う、うんっ……。」
影に隠れて話を聞いていた至は、そそくさと裏路地の定食屋に向かった。
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「…という感じが本日の報告になります。」
「「展開はっや!!!」」
「もうお弁当とか言っちゃってんの!?その女子!」
「一回ランチ挟んでからの弁当だろ、普通。」
「あの…万里の口から出るのはわかるんだけど、なんで恋愛初心者の心の口からもそんな発言出るの???万里が初彼氏だろ!?」
「恋愛シミュレーションゲームなめんな。」
「俺のせいだったー!!!!!!」
「つーか至さん、いよいよ逃げ場失ったな。」
「うん。早い段階でね。」
「コンビニで買ってくか……。」
「いや、それ威力弱いな。」
「心!?何言ってんの!?威力とか!」
「コンビニ弁当は手作り弁当よりも攻撃力は下。メインウエポンにもならんな。」
「まじか。」
「至さん、俺ら明日、開校記念日で学校休みなんっすよ。良かったら昼飯だけでも一緒にどうっすか?」
「は?」
「それいいじゃん。予定あるからーって言えば?んで、私たちと食べようよ。」
「いや、弁当作ってきたらどうすんだよ。」
「「………私が(心が)作る。」」
「ほぉおー?!」
「んで、それを至さんは持っていく。」
「で!私たちと食べる!……ペキカン。」
「完璧な。」
「先にわざわざ渡してくる意味を問うたるち。」
「それを見せて『俺の特別な人が作ってくれた弁当なんだよね…。』感を出して言えばいいっしょ。」
「……万里、お前天才か。」
「だろ?そしたら2度目もないし、その日は俺たちと食うから邪魔もされない。」
「ん?……まぁ、私でも確かに特別な人ではあるだろうけど……。いっそのこといづみさんに作ってもらう??」
「お、おい!心っ!」
「あれ?違った系???」
「監督ちゃん、最近は臣に弁当の作り方習ってるし……、至さんからお願いしたら喜んで作ると思うけど?」
「だね!…そもそも私が作ったら、万が一、一緒に食べてるの見られて、お弁当の中が一緒だと逆に怪しまれるよ。」
「……はぁー……。この寮での安定した生活と、監督さんの笑顔のために……頼んでみるか……。」
「「それでこそ男だ!」」
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