いづみの美味しいカレーを食べ終え、満腹の心地よさを感じながら私たちは町に出てきた。ビロードウェイは今日も華やかだ。

「いづみ、これから何をするの?」

町の中心部辺りに着いた時、先導していたいづみの足が止まった。この辺りで何かやるのだろうか?辺りをきょろきょろ見渡しているいづみを、私を含め咲也くん達も首を傾げて見ている。(支配人は本日お留守番だ)
くるり、とこちらを振り返ったいづみは、意気込んだ様子で高々に声を上げた。

「今日は新入団員の勧誘をします!」





09.





「団員…三人じゃやっぱり少ないですか?」
「初代春組も五人だったし、最低限それぐらいはいないと脚本が制限されちゃうから。あと二人は増やさないと」

五人…そうだったんだ。昨日私が帰った後に過去の資料でも探したんだろう。私も今後演劇に携わる身となったんだから、後で詳しく教えてもらおう。

「と、言うわけで!綴くんと真澄くんと無事にゲットできたストリートACTで、新入団員を募集します!」
「はい!」
「…って、初心者のストリートACTって客引き効果あるのかしら?」
「それが問題なんですけど…… そう言えば、続くんがこの劇団を選んでくれたのは団員寮があるからだよね?」

いづみからの問いかけに綴くんが頷いた。

「そうっすね。自立したかったのと、自宅からビロードウェイに通うって言うのも、交通費とか考えると厳しいんで」
「じゃあ、綴くんみたいな人を探せばいいのかな?」
「俺みたいな、って言うと……」
「宿なしって感じの人?」
「ま、真澄くん…歯に衣を着せなさい」

その通りではあるのだけど、何とも恐れ知らずな発言。これが綴くんじゃなかったら怒られてたわよ…。綴くんも「俺、そんな風に見えんのか…」と口元をひくつかせている。
何とも言えない空気の中、気づいていない咲也くんが純粋な目で首を傾げた。

「あとは、真澄くんみたいな人とか…ですか?」
「アンタには俺一人で良い」
「そ、そんな熱視線向けられても…。第一、真澄くんみたいに特殊で盲目なサイコパスな人材は他にいないと思うわよ」
「俺が特別で一途で最高な人材…?超熱烈な告白…ふふっ、嬉しい。好き」
「全部違うんだけど」

彼の耳には高性能フィルターでもついているのかと疑うレベルの聞き間違いだ。
兎に角、真澄くんみたいな特殊な人材は望み薄だし(あまり欲しくないのが本音)、続くんのような境遇の人をターゲットにした方がよさそうだ。

「となると、ターゲットは宿なしの人ね…」
「じゃあ、ストリートACTは宿なしの人に親近感をもってもらえるような設定にしましょう」
「監督も**さんも、宿なしって連呼するのやめてほしいっす…」

いたたまれなくなって肩を下す続くんに心の中で謝罪をしながら、私たちはストリートACTに臨む準備に取り掛かった。



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「MANKAIカンパニーで俺も家を持てた!」
「これであったかいご飯を毎日食べられるね、あんちゃん!」
「もう犬小屋で寝なくてもいいんだね」

……な、何と言うか…我が団員ながら酷いものを見ている…。
役者経験が全員ゼロなメンバー故、仕方ないのは分かっているが…。棒読みアンド棒立ちの演技に思わず苦笑いが漏れた。
全員顔がいいことと、逆に不器用な演技にお客さんの気は引いているようで。周囲からは昨日を思い出すようなクスクスとした笑い声が聞こえてきた。

「いづみ、これで大丈夫なの…?」
「反応はいまいちですけど…それでも、注目は集められています。皆には酷かもしれないけど、当初の目的は果たせられていますから」

まあ、確かに…。幸いにも、彼らは周りの声に対して深く気に留めていないようである。
彼らには申し訳ないが、これも場数を踏むための経験の一つと言うことで、私も心を鬼にして見守ることを徹底しよう。…そう思った矢先だった。

「ダイコン、なるほどこれがジャパニーズダイコンね…」
「…?」

ふと私たちの耳に不慣れな日本語が聞こえてきた。後方から聞こえたその声に振り向くと、そこには顔をマスクで覆い隠した謎の外国人らしき人がこちらを見ていた。
このビロードウェイの中でも一際目立つ風貌の彼に呆気に取られていると、彼はじっ…とこちらを見たまま口を開いた。

「ふむふむ。白くてリッパなダイコンダヨ」
「…し、失礼な!大根程太くないし、そもそも大根役者のことだから!」
「オー、ソーリー!失礼したヨ、レディ」

怒りと羞恥で顔を赤くしたいづみが怒った。足のことを言われていた、のか…?そもそも、いづみと私どっちに言っていたのか分からないのに…。怒りでぷるぷる震える後輩の肩を「大丈夫」とぽんぽん叩く。

「いづみ。大根足って本来は美脚を意味する誉め言葉よ?」
「へっ?そ、そうなんですか?」
「そう。昔の大根は細くて白いものだったから、この言葉が生まれた当初は色の白い美脚を表す誉め言葉だったの。だから、本来は良い言葉なのよ。だから安心して」
「…この外国人の方がどういう意味で言ったかは知りませんけど…**先輩がそう言うなら、誉め言葉として取っておきます」
「うんうん。気転の効く後輩を持って私は鼻が高いわ」

唇を尖らせながらも言葉を飲み込んでくれた後輩の頭を撫でる。すると、いつの間にか傍まで寄ってきていた外国人が「わおっ」と笑顔を咲かせた。

「そちらのレディ、ものさしダネ!」
「も、ものさし…?」
「そうヨー。ワタシも知らなかったコト、ペラペラ言えて凄いヨ!」
「…もしかして…物知り、ってことですか?」
「オー、それネ!ジャパニーズ難しいヨ〜」

悪い人ではなさそう。ただ純粋に日本語が覚束ないという感じで…。
彼に気を取られている内に、周りのお客さん達の好奇の目が外国人に集められていることに気づいた。これは困った…これではうちの劇団勧誘の効果が薄れてしまう。
それは今までストリートACTを演じていた彼らも気づいたようで、咲也くんたちが「どうしたんですか?」と近づいてきた。

「…誰、そいつ」
「役者さん…?どっかの公演の宣伝っすか?」
「ワタシ、通りすがりの外国人ネ。ヤクショ違うネ」
「ヤクショ、って…役者だよな? えっと、役者じゃないならその恰好は?」
「ワタシの国はこれがフツウネ。皆肌出し過ぎ、ハレンチだらけダヨ」

やっぱり外国から来た人なんだ。私は首を傾げつつ気になったことを口に出した。

「外国から来たの?観光中ですか…?」
「留学中ネ。ここ、舞台のメッカ、興味あったヨ」
「演劇に興味があるの…? …あの、住むところとかはもう決まってるんですか?」
「まだダヨ」

…これは新入団員候補なのではないか?よくよく見ると、マスクの中から覗く顔も整っているし、インパクトもあって客の目を引く舞台映えしそう。
どうやらそれはいづみも感じたらしく、彼女は期待を込めた目で外国人の人に詰め寄った。

「それじゃあ、MANKAIカンパニーに入らない?住み込みだから住むところには困らないし、演劇の勉強もできるから!」
「いい!?監督、正気っすか?」
「もちろん!三人ともキャラが被らないし、インパクトがある。舞台に立ってるだけで、世界ができるっていうのは貴重だもん」
「だ、大丈夫なんすかね…」
「ダイジョブ、ダイジョブ!ワタシ、MANNZAIカンパニーに入るヨ」
「MANKAIカンパニー、ね?兎も角、新入団員が入って良かったわね。いづみッ」
「喜んでる…。外国人まで許容範囲とか、ストライクゾーン広すぎ……」

真澄くんからまたも誤解を広めるような言葉が聞こえたが、もうスルーしておこう。
外国人の人はマスク越しからも分かる人の良い笑顔を浮かべながら、私たちに握手を求めてきた。

「ワタシ、シトロン。ヨロシクね」
「よろしくお願いします!オレ、佐久間咲也って言います!」

新しい仲間に喜びを隠せない咲也くんが満面の笑顔で握手に応じて自己紹介を返した。二人の周りに花が見える…春を体現できる人間が咲也くん以外にもいたんだなァ。
ほのぼのとその光景を見ている間に外国人――基、シトロンさんは各々と挨拶を交わし、最後に私にも握手を求めてきた。

「ヨロシク、レディ。お名前教えて欲しいヨ」
「あ、△△**って言います。よろしくお願いしま―――」

シトロンさんの手を取ろうとした時、突然大きな風がゴオッと吹き荒んだ。まるで春一番のような強い風に、周りからも「うわっ!」と驚きの声が聞こえる。
私も突然の風に驚いて目を瞑るが、ふわりと舞った自分のスカートを抑えるのが間に合わず………目の前のシトロンさんに諸にスカートが捲れたのを見られた。

「…あ」

それは私かシトロンさんの声だったか。どちらともが目を点にして、何とも言えない空気になってしまう。
先に我に返ったのはシトロンさんだったようで、彼は徐々にその頬を赤く染めると恋する乙女のように両手で頬を抑えた。(何で見られた私でなく向こうが顔を赤くするの)

「そ、ソーリー、レディ…!ワタシっ、ハレンチなことしちゃったヨ!」
「い、いやいや…。寧ろ私の方こそお目汚し失礼しました。ハレンチしちゃったのは私のほうで」
「…待って… アンタ、**のパンツ見たの?即刻記憶消せ。俺に教えてから消せ」
「おい待てコラ。何ちゃっかり聞き出そうとしてるの、きみは」
「ぱ、ぱぱぱ…っ!**さんの、パ、ぱン…!?」
「おおお落ち着け咲也!!お前ただでさえ髪が赤いのに、顔まで赤くなってるぞ!?」

綴くんに肩を揺さぶられる咲也くんは、何とも可愛らしい初心な反応を見せていた。きみ、高校生だよね?パンツの単語だけでそこまで取り乱せるなんて、どれだけ絶滅危惧種なピュア人間なんだ!?
一気に騒々しくなってしまった場で、シトロンさんが至極真面目な顔をして私の手を取った。マスク越しから見える甘いマスクが、申し訳なさそうに眉を垂れさせている。

「ワタシの国、女性が肌を見せるノハ愛した人だけ許されるネ。**…本当に帽子分けないヨ」
「…えーっと…それはもしや、申し訳ないって言いたいんでしょうか…? いいんですよ。突然だったことですし、気にすることないですから」
「オーっ、そんなのダメダメ!ワタシも男。**のタイセツな体見てしまった責任とるネ。ワタシ、**を娶るヨ!」
「……は? えええええ!?」

思わぬ求婚に吃驚して、叫ぶように声を上げてしまった。ちょっと待て!どうしてそんなに話が飛躍するの!?高々パンツ見られただけなのに!!
私の驚愕な叫び声に動じることなく、シトロンさんは私の手を握ったままにこにこと笑っている。彼に色々とツッコミを入れようとするも、それより早く動いた影が二つあった。

「ちょっ…ちょっと、何を言ってるんですか!?**先輩を娶るだなんてッ、そんな勝手なこと私が許しません!!」
「お前…うざい。急に出てきて**を取るな。**は俺の」
「いや、**さんは真澄のものでもないだろ…」
「オー、**はまだミカンね?ナラ、ワタシが責任持って妻として迎えるヨ!」
「私がいつ柑橘類になったんだ…。多分、未婚って言いたいんでしょうけど、それでも突然結婚はちょっと」
「恥ずかしがらないでダイジョブよ。優しくするカラ、身も心もワタシにゆだねて…ネ?」
「そのやらしい言い方やめて!!誤解を受けますから!」
「殺す」
「わわっ!?ままっ真澄くんストーップ!お願いだから、ちょっと落ち着いて!?」

咲也くんに羽交い絞めされる真澄くんからひしひしと殺意を感じる。そんな彼の殺意に動じず、シトロンさんは尚手を握ったままにこにこしている。ある意味大物だわ…。
一気に昼ドラのような展開に盛り上がってしまい、行き交う周囲の人たちは「何々?泥沼の恋愛ストリートACT?」と興味を惹かれたように足を止めだした。
こ、これは…方向性が可笑しくなってきている……。一旦場所を変えて仕切り直したほうが良いのでは?そう思い、私はいづみに振り返った。

「い、いづみ!違う意味でお客さんが集まってきちゃったから、一度場所を変えましょうっ」
「そ、そうですね!皆、ちょっと場所を移動するよ!」
「シトロンさんも、MANKAIカンパニーのことについても詳しく教えますから、私たちに着いてきてくださいねっ」

握られていた手を無理やり離し、逆に彼の腕を引くように誘導すると「ワオ、ダイタンねー!」と嬉しそうにハートを飛ばした。それが冗談なのか本気なのか分からないけど……彼の後ろから再び殺意を剥き出しにしている真澄くんが見えて、綴くんと咲也くんと一緒に何とか距離を離す。
別のストリートACTをする場所を探しつつ、私たちはシトロンさんにMANKAIカンパニーのことを説明した。

何はともあれ、これまた独特的な人をゲットできた。
新入団員をゲットできた喜びを感じつつ、また一波乱起きそうな予感にそっと胃を抑えた。


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