03


「サラ」
「……Qタロウ、さん」
「久しぶりじゃ。元気そうでよかったき」

三日後。
車に乗り、サラは研究機関に足を踏み入れた。
ここに来るまでの道や景色は、視界を塞がれていたのでわからない。
建物は、大学病院の周辺とは違い、郊外の緑の中にひっそりと佇んでいた。

「Qタロウさんは、お元気ですか?」
「なんや他人行儀やの。この通り、ピンピンしとるぜよ」
「ちょっ、う、腕外さないでください!」

内装はガラスが多用されていて一見開放的に見えたが、至る所にセキュリティが必要なドアやゲートがある。Qタロウとも、一枚隔てての会話だ。
そのアンバランスさが不気味さを煽った。

「風邪引いたりはしとらんのか?」
「してませんよ」
「ケイジやギンも元気か?」
「すごく元気です」
「よかったぜよ!俺も風邪も引かんと元気じゃき!」

サラの不安感を吹き飛ばすように、Qタロウはツッコミづらい人形ジョークをマシンガンのように放つ。
そんなQタロウの変わらない温かさに微笑んだ。

「サラは生活に不自由しとらんか?」
「はい。外に出たり人と会ったりはまだ制限付きですけど……Qタロウさんは?」
「この中からは出られんが、便利で自由でいいところぜよ」
「そうなんですね……」
「マイもハヤサカもクルマダも、元気にしとるき。次は会えるとええな」
「はい、ぜひ。クルマダさんの怪我は大丈夫なんですか?」
「元々、組織が研究した資料は残っとった。パーツも複製できて、今は毎日持て余しとるぜよ」

今日、面会が許されたのはQタロウ一人。
人間側でその許可が降りたのも、サラ一人。数人の見張りはいるものの、一対一での会話だった。


「他の方とは自由に会えるんですね」
「まあ、多少の制限はあるがな。お前さんがあんまり気に病む必要はないぜよ」

はっと顔を上げる。
見上げた先には、にししと笑うQタロウさんの姿があった。

「俺たちは確かに、たくさんの問題を抱えちょる。でもそれは俺たちの、俺の問題がや。冷たく聞こえるかもしれんが」
「……はい」
「俺はお前さんやケイジやギン、ソウの方が心配ぜよ。もう全部終わったき、サラはサラの問題に向き合うべきぜよ」
「Qタロウさん……」

ブザーが鳴った。面会終了の合図だ。

「時間が短くてかなわんき。また来てほしいぜよ」
「ありがとうございます、Qタロウさん。絶対に、また来ます!」

本当に短い時間だった。それでも、少しだけ前を向こうと思えた。
サラとQタロウは、手を振りあって、お互いの部屋から退出した。



「ありがとうございます、先生。今日、来てよかったです」

付き添いとして、同室内にいた医者に礼を言う。
その隣で、同じく部屋に入っていた警察官が、声をかけてきた。

「あ、千堂院さん。自分は今日ここで失礼します」
「はい、刑事さんもありがとうございました」

彼は事情聴取や外部の人との面会時に、いつもサラを担当している警察官だ。
随分知り合いも増えてきたな、とサラは思う。


「あ、そうだ!これ、サラさんの持ち物です。返却するので確認お願いします」
「持ち物?」
「保護させていただいたときに、こちらで回収させていただいた品です。携帯など、まだお返しできないものはあるんですが……」

渡された袋を覗くと、ハンカチやティッシュなど。確かにサラの持ち物ばかりだった。ただ、違和感のあるものが一つだけ。

「……あれ?すみません、これは……」
「あ、あとこちらも。クリーニングしておりますので」

警察官が制服を差し出すと同時に、サラが手に取ったものが滑り落ちた。
制服の上に乗る。


「ああ……これは田綱丈くんの遺品ですね。事情聴取で、篠木さんの私物確認で回収していたんですが」
「じょ、う」
「篠木さんが、千堂院さんが持っているべきだけど預かっていたとおっしゃっていたので」

何度も聞いた、記憶にない親友の話。
デスゲーム中に、ランマルに見せられても、ぴんとこなかったクマのキーホルダー。

「千堂院さんにお返しするのがいいかと思いまして……」



どうして、今思い出してしまったんだろう。

「……ジョー」

制服のポケットにクマを入れ、笑う親友の顔が鮮明になっていく。
まるでサラの声が聞こえたかのように。

「千堂院さん!?」
「しっかり!……」

どうして、忘れたりなんてしていたんだろう。



「サラ」



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