群青色の静止画


「………カッコえぇ」

感嘆とした呟きが、ポロリと溢れた。
知った人など何処にも居ない。ポロリと出た、これはただの独り言。思わず溢れてしまうほどにその光景は自分を夢中にさせた。食い入るように見つめる先は天井に設置されている長方形の四角いモニター。ただひたすらに、写されるモニターに目が釘付けになる。

モニターの空は雲一つない青色の空。その青をバックに、びゅんびゅんと見慣れた住宅街をサーカスの人達のように身軽に飛び回る同年代の姿になんだか、わくわくした。心臓が力強くドクリドクリといつもの倍早く脈打つのが自分でも分かった。剣と剣のぶつかり合い。銃を使う者。変わるがわる映されるモニターの中の彼ら皆、似たようなそれでいてそれぞれ違った武器を手に戦っていた。その誰もが写す表情は、笑顔。心のそこから、楽しいんだと。

まるで非日常のような光景に熱い何かが込み上げてくる。いいなぁ。と、ほぅと溜め息一つ。



の、次には鉄拳が脳天にクリーンヒットした。



強烈な痛みがガツンッと痛々しい音となって響く。
頭上を抑え蹲る少女と、少女を殴ったと見られる拳を胸の位置に軽く掲げた状態の金髪の青年。構図からして苛められている現場としか見られないのだがいいのだろうか。


「いったぁーーー………」
「お前な!許可取ってくんまで待っとけっつっただろうが!」
「加減を知らんのかこのおっさん……」


ゴッ


「いぃぃッ〜〜〜〜〜」


たくっ、東さんに連絡しねぇと、二発目を真顔で打ち込んだ金髪の青年、諏訪とか名乗ったか。諏訪が携帯を取り出すのを涙目で睨み付けた。が、当たり前のようにそ知らぬ顔でスルーされてしまったが。



☆ ☆ ☆



まだ初めて会って数時間も経っていないというのに、目の前の女子はまるで長年の付き合いがある友人のように容赦ない暴言、とまでいかなくとも砕けた言動で俺や先程まで居た東さんに突っかかっていた。今時の子供ってぇのはこんなもんだったか?と疑問を抱いてしまうほどに。良く言えばフレンドリー。悪く言えば礼儀知らず。ま、聞かれるまでもなく俺からしてみれば悪い方だけどな。こいつの場合。

「間違えたわ、ナンパやった」「どっちも違ぇよ」「声かけて拉致るのがナンパなんやろ?」「お前から頼んできたんだろうが」「知らん人には付いてっちゃ駄目言われてんやけど、これってそれ?」「尽(コトゴト)く自分の事は棚あげてんな」

などと道中、微笑ましくもない会話を両端に挟まれながら笑ってやり過ごしていた東さんは強者だと思う。もしくは底知れない懐のでかい人だ。子供とは言え、普通おっさん発言やロリコン疑惑突き付けられた相手に笑って相槌うったり、優しげに返答をしたりと俺だったら出来ねぇ。間違いなく喧嘩腰からの鉄拳だ。それを思えばやっぱり東さんは優しすぎる。

一方で無粋な事ばかりをペラペラと喋り続け、すたすたと一緒に本部への道を歩くのは先程の大食い女子。俺と東さんが食いきる前にあの量をものの見事に完食しきったブラックホールの胃を持つ(大将からしてみれば立派なぼったくりだ)、名前を野菊乃々と名乗った自称中学生の女子だった。独特の訛り口調で関西弁を話し、太陽の光でキラキラ光るハニーブラウンの髪には同系色の黄色とオレンジのバンダナがなんの違和感もなく括られている。

そいつが何故、見学者を示すカードも持たずランク戦ロビーに堂々と居るのか。は、まぁさて置き(駄目だけど)。東さんが手続きを済ませている間もどうでもいい押し問答を繰り広げていた俺と野菊。それが気づけばどういったことか、いつの間にか隣はがら空き状態。それに気づいてから数秒の沈黙のあと、は?とハテナが飛んだ。いくら小せぇからと言ってあんなにも煩いんじゃ見失う訳がねぇ。そう思っていたのに現実はどうだ。あの小人、影も形も何処にも居ねぇ。

青筋が立った。あいつ、何やってんだ。あいつにとっては知らない場所だ。そんな所で迷子とか笑えないだろう。幸いにもここの奴等は皆いい奴だ。それは保証できる。だが、世間とはいい奴ばかりで構成されてる訳じゃねぇ。言ってる事が真逆みたいで悪いがボーダーだって皆が皆、面倒見のいい奴ばかりじゃない。極一部だが、可笑しな奴だって町の不良みたいな奴だって居る。それなのにあの馬鹿。マジで笑えるねぇ。

余程引き吊った顔をしていたんだろう。慌てて駆け出そうとしていた所で東さんが戻ってきた。「ん?どうした諏訪?」と穏和な表情で問いかけられ、しどろもどろになりながらもあの餓鬼がどっか行ってしまったと、俺の不注意だと話、駆け出そうとした足で地団駄を踏みたくなった。あの餓鬼見つけたら絶対殴る。

「あー、何か目の引くモノでもあったんだろうな」

ふむ、と顎に手を添え考える東さんに「目の引くモノ……」と考えるもここは見知らぬ者にとっちゃ目の引くモノだらけのようでこれと言って決定打に欠けるような。もう放送でもかけるなりして呼び戻すか。そう思案するもいや、と止まる。勝手に居なくなる奴だぞ?そう簡単に戻ってくるか?自信はない。やっぱ探しに行くか。

「東さん!俺やっぱ探してくるわ!見つけたら連絡しますから!!」
「あっ、おい!諏訪!…………あー行っちまったな。……なんだかんだ言って心配なんだなあいつ」

東さんのそんな呟きも勿論俺の知るところではなく、取り合えず近場から片っ端に潰していくしかないかと訓練室から他隊の隊室、果てはエンジニアルームまで出入りした。

「あれ?諏訪さん?」「ここにこれぐらいの小せぇ餓鬼来なかったか」
「あー!諏訪さんだー!」「悪い!バンダナ付けた餓鬼来なかったか!?」
「あれ、諏訪?どうしたの珍しい。トリガーでも壊れた?」「ちげぇよ!餓鬼!バンダナ!来なかったか!?」「いや来てないけど……」

その際、大抵の奴等に不審な目で見られた訳だが。

つーか、な ん で !何処にも目撃者が居ねぇんだよ!餓鬼ばっかと言えどバンダナ付けた派手な髪色してたら誰か一人でも居るもんだろ!マジであいつどこ行きやがった!?

爆発寸前でやっと目撃者に辿り着いた。何人目かの目撃者、月さんはちょっと引き気味だったがもうこの際なり振りなんて構ってられるか。

「は?バンダナ付けた小さい子供?それならロビーで見たけど」
「本当か!?何処のロビーだよ!!」
「え、ええっと、」




そして、

「………カッコえぇ」

冒頭に至る。

17.10.10
牡丹道月(アカリ)さん。お嬢の兄貴です。(*`・ω・)ゞ