─────ジジ抜きをしよう。
姐さんは言った。「公平に決めよう」と。
「なんで三人が此処に来たのかは大体察しはついてるわ。て言うかここ最近その用件で結構人が来たからそうなのかなぁって程度なんだけどね。」
どうせ春秋なんでしょ、と分かりきったようにトランプを縦横綺麗にすると切り出した。ここは公平を決する為に平等にゲームと行きましょう、と姐さんが提案したのがジジ抜きだ。何故ジジ抜き?普通にババ抜きでもいいとも思うが。トントン、音が響く。
「ゲーム、ですか?」
「そ、言っとくけど今までの人もこれをやってるわ、そして私は未だどこの隊にも入っていない。これがどいうことか、分かるわね?」
「只単に姐さんがカードゲームが強い、って事じゃないんですか?」
「ふふ、そうかもしんないけど、私、運だけは強いのよー」
「際ですか...」
二宮が鸚鵡返しに聞き、望が半信半疑で問い掛けた答えに私は項垂れた。一体どれだけの隊員が姐さんの元へ訪れたのか知りはしないが、これは手強い。上手く口説いてこいとはこの事なのか東さん。しかし、引くという一手は存在しない。それは私だけでなく、まだ東隊に所属する友人らも同じだろう。
姐さん。呼び掛けに、ふいに切っていた手が止まり、視線がゆっくり上がる。目と目が合う。
「勝ったら、私が作る隊に来てくれますか?」
姐さんは分かってると言ったが、漸く言い切った。自身の発したその言葉に再度確認する。そうだ、私は自分の隊を、自分の作る隊に来てほしいと思える人を引き抜きに来たのだ。
望と二宮の視線も感じる。姐さんは何時ものあの微笑ましい笑みを見せると、
「いいわよ?」
「そうで…………、え、あ、そ、そうですよね、その為のゲームですもんねー……」
軽すぎる返答に興を突かれたような気分だ。ちょっとどもったぞ。望のクスクスという笑い声が聞こえる。真剣だったからこそ大分恥ずかしい。二宮の呆れ顔と溜め息にはイラッときたけど。
「あーでも、」
「「「???」」」
カードを切り終わり配り終わったその時、また気の抜けた声が上がった。その声にクエスチョンマークを飛ばす高校生三人に、その人は癖なのか頬に手を添えこう言い切った。
「このゲーム、最後まで残ってた人が勝ちだからね」
右に望、左に二宮、真正面に姐さんという並び順だ。始まる前に放たれた発言が思い出される。最後まで残ってた人が勝ち。その言葉がそのままならば世間一般でいうところの普通の逆と言うことか。二宮がカードを引くのを見届けながら、自分の手持ちのカードを確認する。二宮の次に少ない。たったの三枚。あれ、これやばくね?そして二宮、後一枚だね。
私のところから引いた物と自身の手持ちから一枚、悔しそうに真ん中に落とす奴を、望と二人でニマニマしながら眺めた。
「一人脱落ね」
嬉しそうに望が言う。どの道、姐さんが引けばそこで終わる二宮は反論すらなくそっぽを向くだけ。「なによ、詰まらないわね」望が言うと二割増で嫌そうな表情をするものだから面白い。
「やる気の差ね」
「ジジ抜きにやる気も何もないだろ」
「そんなんだから負けちゃうのよ」
「今回は運が悪かっただけだ」
「運も実力のうちよ?残念ね」
それは暗に、二宮に実力が無いと言っているのと同義だ。言ってはなんだが、ガードゲーム、基トランプ如きでよくもまぁこんなコントができるものである。
私はね。望が続ける。
「イニシャルで揃えようと思ってるんです」
まだ先になりそうですけど、と最後に付け足す望の発言に「イニシャル?」と首を傾げる姐さん。二呼吸置いて、ああ、と一人納得したようだ。
「因みに私は花の名前で揃えるつもりです!」
「イニシャルBは黙って」
「………………望、心が痛い」
望の話に便乗して自分のことも口にしたからか、自分が話しているにも関わらず割って入ったからか、恐らく後者だろうが胸に弧月をぶっ刺されたように痛かった。実際はトリオン体だから痛覚は無いのだけれど。痛い、と再度呟きながら胸に手を添え傷ついてます的な素振りを見せればクスクスと笑われた。
望の「二宮くんは何かあるのかしら?」と口にした言葉と『無いんだろお前』と言った心の声はスルーし、それに何時もの静かな声音で淡々と反論する二宮の詰まらない理由もさておき、姐さんにカードを引いてもらって望のを慎重に引く。戦略など皆無。分かっていても、引かれる時も引く時も妙に気を張ってしまうのだから仕方ない。
引いたガードは、また合わなかった。それをたった一枚の隣に並べる。さっきからその一枚だけが何故だか残る。
「あ」
引いて、引かれて。気づけば多く持っていた望の最後の一枚を、私が引いていた。「残念」楽しそうにそう言う。しかし、合わない。これって、そう言うことだよね。状況を理解し出し、チラリと尻目に覗き見た姐さんの手持ちも一枚だけとなっていた。
最後らしい。それだけが判った。
正面に座する姐さんがニヤニヤ笑ってる。望みたいな笑い方だな、と思う。運が強い、と自分で言うことだけあって流石に最後まで残っている。どちらを選ぶだろうか。身構えっているうちに姐さんの色白の手が伸びてきて、一枚、摘まんだ。ピタリと止まり、私の表情を伺う。きっと強張っている、その顔。
ジジ抜きなのだ。ババ抜きと違って、ジョーカーを選ぶ訳じゃない。引くなら引いてくれ。固く閉じそうになる目を必死に抉じ開けた。吃驚するぐらい、この瞬間にばくばく心臓がいっているのが聞こえる。
するりと抜かれるスペードのエースを見送りながら、私は手元のそれを見つめた。茫然と、姐さんの手からカードが無くなるのを見つめた。真ん中のカードの山からは二枚のジョーカーも見られる。ジョーカーが笑ってる、そんな気がした。
私の手元には、五つのハートが残されていた。
16.11.24