ご対面
「あっ、トナカイ!」
「トナちゃんだ」
「申し訳ないけど名前はもうコロちゃんって決まってるんだ」
「コロちゃん?」
「嵐山くんちの犬の名前だって」
「なるほど」
翌日、トナカイを設置していると吉子ちゃんとめぐみちゃんが揃って出勤してきた。
「昨日これ選んでるとき迅くんに会ってさ」
「うわ、キツッ」
「キツいよね、いい年してぬいぐるみ選んでるのを見られるの……」
「迅くん相手にちゃんと誤魔化せた?」
「ううん、誤魔化すも何も根付さん経由で既にご存じだった」
「「キッッッッツ!!!!」」
吉子ちゃんとめぐみちゃんが揃ってのけぞった。
知らなかったら姪っこ甥っこにあげる分などと言い訳が出来たのだが、そんな暇もなく「もしかして嵐山等身大人形?」なんて聞かれたらもう素直に吐くほかあるまい。
迅くんが引いてなかったことだけが唯一の救いかな!
身内だけでわいわい楽しんでいるのはいいがよそ様に聞かれると急にいい歳して何やってんだと冷静になってしまってちょっと恥ずかしい。いや、私たちの准くんを見て! という気持ちもすごくあるのだけれど。葛藤。
「結構似てたよ、迅くんの根付さんの声マネ……」
「忘年会のときにやってもらおっか……」
「そうしよう……」
「迅くん、今度嵐山連れて行くよとか言ってたよ」
「嘘でしょ!?」
「准くん目当てで連れて来るなら准くんの完成度をもうちょっと高めてからにして!?」
「吉子ちゃん、そこなの?」
めぐみちゃんと二人で吉子ちゃんを見る。嵐山隊はメディア対策室への用事も多い。他の用事があってメディア対策室に来るならともかく准くんを目的に来られるのは恥ずかしい的な話で終わるかと思っていた。さすが吉子ちゃん、准くんに対する気持ちが一人ズバ抜けている。
「だって……。遅かれ早かれ見られるんだろうけど、准くんを見に来るのが目的ならもっと完成度を高めてから見てもらいたいじゃん?」
「吉子ちゃんは准くんとどこを目指す気なの?」
嵐山等身大人形作成の企画を通したのは吉子ちゃんだが、まさかこの人形を使ってまた新しい企画を提案するつもりなのだろうか。
「メディア対策室のマスコットって名目で企画を通したからゆくゆくは広報誌に載せたりブログとかできたらなって思ってるよ。そしたらいい年して何やってんだとか言われなくて済むし」
「思ってたより具体的だった」
吉子ちゃんには既に明確なビジョンがあるらしい。ごめん、私はただただ准くんが好きで着飾っているだけだと思っていたしよく企画通ったな〜とも思っていた。
「まあ単純に顔のいい男を着せ替えするのが楽しいっていうのが一番なんだけど」
「わかる」
「さすが吉子ちゃん」
趣味が九割、と言いきった吉子ちゃん。わかる、わかるよ。根付さんよく企画通したなとは変わらず思う。
「失礼します! 嵐山ですが根付さんはいますか?」
「おはようございます。根付さんは出勤してますが今は席を外していますよ」
扉から顔を覗かせたのは今、私たちが夢中になっている人形の元になった人だった。
3人そろってひえっと声を出してしまった後、おそるおそるめぐみちゃんが近寄って行った。
「あっ、それがうわさの俺の人形ですか?」
「あー、えーと、……そうなんです」
嵐山くんが准くんを覗き込むのに合わせて嵐山くんの視界を遮るように同じ方向へ体を傾かせるめぐみちゃん。私と吉子ちゃんはどうしたらいいかわからずにおろおろしている。
聞いてない。いつか来るとは思っていたけど、今日来るとは聞いていないよ嵐山くん。私たちまだ心の準備ができてない。
「すごい、クリスマス仕様になってますね!」
「そうなんですよ〜」
「迅から聞いたんですけど、帽子は田尾さんの手づくりなんですか?」
「あ、あはは、そうなのよ」
「すごいですね、売ってる商品みたいだ」
結局めぐみちゃんは嵐山くんのきょとんとした顔に負けて道を譲った。吉子ちゃんは嵐山くんに褒められて普通に照れているし口調もかっこつけ始めた。
「あ、トナカイもいる」
「それは今日なまえちゃんが置いてくれたのよ」
吉子ちゃん、言わなくていいんだよ。
「あ、迅が昨日言ってましたよ。みょうじさんが真剣な顔をして選んでたって」
「あはは、迅くんなんでも言っちゃうなあ〜!」
迅くんと会ったのは昨日の夕方なのに翌日の朝もう嵐山くんが知ってるって何事よ。
「今度一緒に見に行こうかって話していたんですけど、ちょうど今日根付さんに用事があったので一人で先に来ちゃいました」
忙しい時間にすいません、と謝られたが私たちは准くんを囲んでいただけでまだ今日の業務には一切手を付けていない。全く謝られる筋合いがないので気まずい。
「せっかくなので記念に写真を撮ってもいいですか?」
「えっ」
「それはもうもちろん」
「二人並んだ写真にしましょう」
「私のスマホでも撮ってもいいですか?」
最初准くん単体で写真を撮ろうとした嵐山くんからスマホを借り受けて准くんの隣に並ばせた。嵐山くんは「本当に同じ身長なんですね」と自分の頭と准くんの頭を見比べている。推しとイケメンが隣に並んでいる。眩しい。
じゃあ、はい、チーズ、とシャッターボタンを押すと嵐山くんは広報担当らしく爽やかな笑顔を浮かべてくれた。
めぐみちゃんの「次目線こっちくださーい」にも慣れた様子で対応している。
「嬉しいな、みんなに見せますね」
「えっ、それは……うん、ありがとう」
にっこりと言われて、それは恥ずかしいからやめて、とはとても言えなかった。
そのあと「それじゃ、お邪魔してすいません。また根付さんがいそうな時間に改めます」と去っていった嵐山くんを三人で見送った。
「嵐山くん、眩しかったね……」
「あ、めぐみちゃん写真私にも送ってね」
「任せて、LINEのグループ作るね」
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